第21話:氷の令嬢はコスプレが見たい
10月。
学校は文化祭シーズンを迎え、浮き足立っていた。
俺のクラス、2年3組でも出し物を決めるホームルームが行われていた。
「えー、男子からは『お化け屋敷』、女子からは『メイド喫茶』という意見が出ていますが……」
委員長が黒板に文字を書く。
拮抗した意見の中、一人の男子が叫んだ。
「いっそ混ぜて『コスプレ喫茶』でどうだ! メイドだけじゃなく、ナースとかチャイナとか!」
その瞬間、男子一同から「おおお!」という野太い歓声が上がった。
女子たちは「えー、恥ずかしい」と言いつつも、意外と満更でもなさそうだ。
結果、多数決により『コスプレ喫茶』に決定した。
◇
そして今。
運命の衣装決めが行われていた。
公平を期すために、女子はくじ引きで担当する衣装を決めることになったのだ。
「うわ、私チャイナドレスだー」
「えー、巫女さん? 地味じゃない?」
次々と衣装が決まっていく中、最後に美月がくじを引いた。
彼女が開いた紙には、こう書かれていた。
『猫耳メイド』
教室が一瞬、静まり返った。
あの『氷の令嬢』が? 猫耳? しかもメイド?
全員の脳裏に、クールな彼女が猫耳をつけて「にゃーん」と言う(言わないか)姿が浮かんだ。
「……」
美月は紙を見たまま固まっている。
嫌がっているのだろうか。
そりゃそうだ。一番恥ずかしい役回りだ。
(代わってあげたいけど、男子の俺には無理だし……)
俺がオロオロしていると、不意に、俺の脳内で強烈な妄想が炸裂してしまった。
(待てよ。……猫耳美月さん? 黒猫みたいな? ちょっとツンとした表情で、猫耳つけて、フリフリのエプロンつけて……)
(っっっ!!! それ絶対似合う……! 見てみたい……! 正直、死ぬほど見てみたい! 一生の宝にしますからお願いします神様!!)
俺の心の声(欲望ダダ漏れ)が、教室の空気を震わせた気がした。
すると。
固まっていた美月が、ビクリと肩を震わせた。
そして、ゆっくりと顔を上げ、俺の方をチラリと見た。
その顔は、林檎のように真っ赤だ。
「……冬月さん、嫌なら代わるよ?」
委員長が気を使って声をかける。
しかし、美月はフルフルと首を横に振った。
「……やる」
「えっ!?」
クラス中が驚愕の声に包まれる。
美月は恥ずかしさで潤んだ瞳で、ボソッと言った。
「……春トくんが、見たいなら……着る」
シーン……。
一瞬の沈黙の後、パニックが起きた。
「今なんて言った?」「春トくん?」「あいつだれ?」「俺ら幻聴聞いた?」
俺は顔面蒼白になった。
美月さん! 秘密! 秘密の協定は!?
心の声に反応しすぎて、皆の前で名前呼んじゃってるよ!
美月は自分の失言に気づき、さらに顔を赤くして「っ!」と口を押さえ、教室を飛び出して行ってしまった。
残された俺に、クラス中の視線(主に男子からの殺気)が突き刺さる。
「おい春ト、ちょっと体育館裏行こうか」
「詳しく話を聞かせてもらおうか」
俺は引きつった笑みを浮かべながら、覚悟を決めた。
まあ、猫耳メイド姿が見られるなら、多少の尋問くらい安いものだ。
文化祭が、波乱の幕開けを告げようとしていた。




