第17話:氷の令嬢はお家デートがしたい
八月に入り、日本列島は殺人的な猛暑に襲われていた。
外に出るだけで体力が削られるような暑さだ。
そんな中、俺と美月(冬月さん)は避暑地を求めていた。
「……暑い」
「だね……。この暑さじゃ外デートは危険すぎる」
公園のベンチでぐったりしている美月さんを見ると、涼しげな彼女ですらダメージを受けているのが分かる。
ここは涼しい屋内に避難するべきだ。
カフェやモールもいいが、もっとゆっくりしたい気分でもある。
「……涼しいところで、春トくんといたい」
彼女が上目遣いで訴えてくる。
俺は少しドキドキしながら提案した。
「じゃあ……俺の家、来る?」
「……行く」
即答だった。
迷いなど微塵もなかった。
◇
というわけで、現在。
俺の部屋に、美月さんがいる。
ベッドに腰掛け、興味深そうに部屋を見渡している。
(信じられない……! 俺の部屋に美月さんが! しかも彼女として! 何この非日常感!)
(掃除しておいて本当によかった! 昨日の俺、ナイス判断!)
俺が心の中でガッツポーズをしていると、美月さんはふと俺の本棚に視線を止めた。
「……漫画、たくさんある」
「あ、うん。まあ、オタクだからね」
「……これ、貸して」
彼女が手に取ったのは、俺が好きなラブコメ漫画だった。
趣味が合うのは嬉しい。
その後、俺たちはテレビゲームをすることになった。
対戦型の格闘ゲームだ。
「……負けない」
美月さんはコントローラーを握りしめ、真剣な眼差しで画面を見つめる。
意外と負けず嫌いな一面があるようだ。
試合が白熱するにつれ、二人の距離は自然と近づいていく。
肩が触れ合い、熱気が伝わってくる。
「あ、そこ! 卑怯!」
「……戦術」
彼女が身を乗り出して操作した拍子に、バランスを崩して俺の方に倒れ込んできた。
「わっ」
俺と美月さんの体が重なる。
至近距離で目が合った。
ゲームの音が遠のき、お互いの心臓の音だけが大きく聞こえる。
(近っ……! 睫毛長い……唇、柔らかそう……)
(やばい、これキスする流れじゃね? しちゃう? しちゃっていいの!?)
俺の心の声が盛大に漏れているのに、美月さんは逃げようとしなかった。
むしろ、少し目を細めて、顔を近づけてくる。
「……キス、してみる?」
甘い囁き。
俺の理性は消し飛んだ。
ゆっくりと、二人の顔が近づいていく。
あと数センチ。唇が触れ合う――その瞬間。
「春トーター! スイカ切ったわよー!」
バン!
勢いよくドアが開け放たれた。
そこには、お盆にスイカを乗せた満面の笑みの母さんが立っていた。
「わあああああ!?」
俺たちは弾かれたように飛びのいた。
顔は二人とも真っ赤だ。
「あら、ごめんなさいねー。ノック忘れてたわー」
母さんはニヤニヤしながらスイカを置いて去っていった。
部屋に残されたのは、気まずさと、少しの名残惜しさ。
美月さんはスイカをかじりながら、ボソッと呟いた。
「……続きは、また今度」
その一言で、俺の体温は再び沸騰した。




