第16話:氷の令嬢は確かめ合いたい
告白から一夜明けた朝。
俺、春トは自室のベッドで跳ね起きた。
「……ゆ、夢じゃないよな?」
昨日の夜のこと。
花火の下で、冬月さんと想いが通じ合ったこと。
あまりにも出来すぎた展開に、まだ現実味がなかった。
恐る恐るスマホを確認する。
『おはよう。……昨日は、楽しかった』
『……また、会いたい』
冬月さん――いや、彼女からのメッセージが入っていた。
「夢じゃなかったああああ!」
俺は枕に顔を埋めて悶絶した。
彼女だ。あの『氷の令嬢』が、俺の彼女になったんだ!
◇
夏休み中なので、俺たちは近所の公園で待ち合わせをした。
ベンチに座って待っていると、白いワンピース姿の冬月さんが現れた。
昨日浴衣姿を見たばかりなのに、今日の私服姿も新鮮で可愛い。
「……お待たせ」
「ううん、俺も来たばっかりだよ」
お互いに顔を見合わせると、急激に昨日の記憶が蘇り、顔が熱くなった。
気まずいような、こそばゆいような沈黙が流れる。
「あ、あの……冬月さん」
俺が口火を切ると、彼女は少し不満げに唇を尖らせた。
「……名前」
「え?」
「……春トくんのことは、名前で呼んでるけど。……私、まだ」
彼女は上目遣いで俺を見る。
「……美月って、呼んで」
(ッッ!! 美月呼び……! やばい、胸が締め付けられる! 可愛い! 一生呼びます!)
俺の心の声が盛大に漏れる中、俺は勇気を出して呼んでみる。
「……み、美月、さん」
「……ん」
彼女は嬉しそうに目を細めた。
そして、そっと右手を差し出してきた。
「……手、繋ご?」
その仕草が自然すぎて、俺は心臓が止まるかと思った。
恐る恐る手を伸ばすと、彼女の方から指を絡めてきた。
いわゆる、恋人繋ぎだ。
(これは……密着度が全然違う……! 指と指が触れ合って、体温がダイレクトに……!)
ベンチに二人並んで座り、繋いだ手を膝の上に置く。
美月さんは俺の肩に頭を預けてきた。
「……ねえ、春トくん」
「な、なに?」
「……心の声、聞こえてるって知っても、嫌じゃないの?」
彼女はずっと気にしていたのかもしれない。
自分のプライバシーが筒抜けであることを、俺がどう思っているのか。
でも、俺の答えは決まっていた。
「あと、最近わかったことがあるの」
美月さんは俺の手を握ったまま、少しだけ声を落とした。
「……聞こえるの、いつも同じ強さじゃない」
「……近いほどはっきり。春トくんの感情が大きい時は、少し離れてても届く」
「……逆に、寝不足の日はノイズが多い」
「嫌なわけないよ」
俺は美月さんの髪を少し撫でながら言った。
「むしろ、俺の本当の気持ちが、美月さんにだけ届くのが嬉しい。言葉にするのが下手だから、俺の『好き』って気持ちが全部伝わるなら、それが一番いい」
これは、掛け値なしの本音だった。
俺の心の声を聞いて、照れたり怒ったりする彼女が愛おしいから。
俺の心の声(と実際の言葉)を聞いた美月さんは、頬を朱に染めて俺の胸に顔を埋めた。
「……バカ。……そんなふうに言われたら、もっと好きになっちゃうじゃない」
その声は震えていて、俺は彼女を抱きしめずにはいられなかった。
蝉の声が響く夏の公園で、俺たちは互いの体温を確かめ合った。




