第14話:氷の令嬢は夏祭りを歩きたい
夏祭り当日。
夕方の神社は、屋台の明かりと人々の熱気で包まれていた。
俺、春トは境内の入り口で、心臓を早鐘のように打ち鳴らしながら待っていた。
今日の俺は、気合を入れて甚平を着てきた。少しでも冬月さんの浴衣姿に釣り合う男になりたくて。
「……お待たせ」
人混みを割って、その声は届いた。
振り返った俺は、息を呑んだ。
そこに、女神がいた。
先日二人で選んだ、白地に淡い朝顔の浴衣。
いつもは下ろしている艶やかな黒髪は、上品にアップにまとめられ、うなじが露わになっている。
薄紅色の口紅が、白い肌に映える。
(息を呑んだ……! 世界遺産に登録すべき美しさ! 生きててよかった!)
(っ……! うなじ! 破壊力高すぎる! 美しすぎて言葉が出ない!)
俺が呆然と立ち尽くしていると、冬月さんは少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「……変、かな?」
「まさか! 綺麗すぎて、言葉が出ないだけだって! 本当に綺麗だよ、冬月さん」
俺の直球な称賛に、彼女は耳まで真っ赤になった。
そして、ちらりと俺の甚平姿を見て、小さく呟いた。
「……春トくんも。……似合ってる」
「えっ、あ、ありがとう!」
その一言だけで、俺のテンションは成層圏まで急上昇した。
◇
俺たちは並んで屋台巡りを始めた。
しかし、予想以上の人混みだ。
少し油断すると、すぐにはぐれてしまいそうになる。
「人多いな……。はぐれないようにしないと」
俺が呟いた時だった。
クイッ、と甚平の袖が引かれた。
見ると、冬月さんが袖を掴んでいる。
「……あの」
「ん?」
「……袖だと、伸びちゃうから」
彼女はそう言うと、震える手で――俺の手を、ぎゅっと握ってきた。
「……手、繋いで」
(!!!???)
(手繋ぎイベント発生!? これ夢!? 冬月さんから!?)
俺の心臓は限界突破しそうだったが、震える彼女の手を優しく握り返した。
「うん、そうだね。しっかり繋いでおこう」
繋いだ手から、彼女の体温が伝わってくる。
俺たちは手を繋いだまま、混雑する参道を歩いた。
たこ焼きを買って、ベンチに座って食べる。
「……あーん」
冬月さんが爪楊枝に刺したたこ焼きを俺の口元に持ってくる。
自然な動作だったが、周囲から見れば完全にバカップルだ。
「……おいしい?」
「うん、最高においしい!」
君が食べさせてくれたから、世界一のたこ焼きになったよ。
そんなことを思いながら、俺たちは最高に幸せな時間を過ごした。
やがて、花火の打ち上げ時間が近づいてきた。
「そろそろだね。ここだと人混みすごいから、少し離れた所で見ようか」
「……うん」
俺たちは喧騒を離れ、神社の裏手にある高台へと向かった。
そこなら、二人きりで花火が見られるはずだ。




