第13話:氷の令嬢は浴衣を選んでほしい
夏休み初日。
蝉の声がうるさいほど響く中、俺、春トはスマホの画面を凝視していた。
そこには、信じられないメッセージが表示されていた。
『明日、暇? 付き合ってほしい場所があるの』
送信者は、『冬月さん』。
クラスの連絡網で交換しただけで、これまで一度も使われたことのなかったトークルームに、奇跡が舞い降りた。
「デートだ……! これ、デートの誘いだよね!?」
俺はベッドの上でガッツポーズを決めた。
◇
翌日。
駅前のショッピングモールにある待ち合わせ場所。
俺は15分前に到着していたが、ソワソワして落ち着かなかった。
冬月さんはどんな格好で来るんだろう。
普段は制服かジャージしか見たことないし……。
「……お待たせ」
涼やかな声に振り向いた瞬間、俺は時が止まった感覚に陥った。
そこにいたのは、淡いブルーのワンピースを着た冬月さんだった。
ふわりとしたスカートの裾。
頭には、白い麦わら帽子。
制服の時とはまた違う、清楚で可憐なお嬢様スタイルだ。
(うわあああああ! 私服キターーー! ワンピース! 麦わら帽子! 似合いすぎでしょ!)
(何その避暑地の令嬢感! ここだけ軽井沢ですか!? 爽やかすぎて熱中症も治るわ!)
俺が心の中で絶叫しながら拝んでいると、冬月さんは麦わら帽子の縁を指で押さえ、恥ずかしそうに頬を染めた。
「……変、かな?」
「全然! めちゃくちゃ似合ってる! むしろ可愛すぎて直視できないレベルだよ!」
俺が本音をぶちまけると、彼女は「……そ。……なら、いいけど」と嬉しそうに微笑んだ。
二人並んでモール内を歩く。
周囲の視線が痛いほど刺さるが、今日の俺は誇らしい気分だった。
目的地は、老舗の呉服屋だった。
「……浴衣。……選んで」
「え、俺が!?」
冬月さんは陳列された色とりどりの浴衣を指差して言った。
「……春トくんが、いいと思うやつがいい」
(マジか……! 俺の好みで選んでいいのか!? 責任重大すぎるだろ!)
(でも、冬月さんが着る浴衣を選べるなんて……前世で国を救ったご褒美か何か?)
俺は真剣な眼差しで浴衣を選び始めた。
シックな紺色もいい。大人っぽさが引き立つ。
可愛らしいピンクもいい。ギャップ萌えが狙える。
白地に金魚も捨てがたい。
いくつか当ててみて、最後に手に取ったのは、白地に淡い朝顔が描かれた涼しげな一着だった。
(これだ……。派手すぎず、でも華やかで。冬月さんの透明感を一番引き立てる気がする)
「……これ、どうかな。朝顔の柄。冬月さんの雰囲気にすごく合ってると思う」
俺が差し出すと、冬月さんは鏡の前でそれを体に当てた。
そして、鏡越しに俺と目を合わせ、ふわりと笑った。
(っっっ!! 鏡越しの上目遣いとか反則だって! 心臓止まる!)
「……うん。私も、これが好き」
彼女は愛おしそうに布地を撫でた。
「……春トくんが選んでくれたから、これが一番」
ボソッと言われたその言葉に、俺は完全にノックアウトされた。
会計を済ませて店の外に出ると、夕暮れ時になっていた。
別れ際、冬月さんは紙袋を大事そうに抱えながら言った。
「……これ着ていくから」
「え?」
「……来週の、夏祭り。……空けといて」
それは、決定的な約束だった。
俺は天にも昇る気持ちで、「喜んで!」と即答した。
夏祭りが、待ち遠しくてたまらない。




