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クールで冷徹な『氷の令嬢』、なぜか俺の心の声(ダダ漏れ)だけは聞こえるらしい。  作者: わわわ


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第10話:氷の令嬢は密着したい

 放課後の校庭。

 体育祭の練習のため、生徒たちが集まっていた。

 俺、春トは心臓の鼓動が早まるのを抑えきれずにいた。


 目の前に、体操着姿の冬月さんが立っていたからだ。

 普段の制服姿も最高だが、動きやすさを重視した体操着姿もまた違った魅力がある。

 そして何より、髪型だ。

 いつもは下ろしている黒髪が、高い位置でポニーテールに結われている。


(ッッ!! ポニテ……! うなじが……白いうなじが眩しすぎて直視できない……!)

(体操着のラインも反則だし、もうこれだけで体育祭優勝でいいんじゃないかな!?)


 俺が心の中で悶絶していると、冬月さんが恥ずかしそうにうなじを手で隠した。


「……見すぎ」


「あ、ご、ごめん!」


 謝りつつも、俺の視線は釘付けだ。

 冬月さんは溜息をつきつつも、どこか満更でもなさそうな顔で、俺の隣に並んだ。


「……結ぶよ」


 彼女がしゃがみ込み、お互いの足首を紐で結ぶ。

 そして立ち上がると、俺たちは肩を組んだ。


(ち、近ぇぇぇ……! 肩細っ! 体柔らかっ! そしてめっちゃいい匂いする!)


 密着度は、あの相合傘の時以上だ。

 俺の腕の中に冬月さんがいるような体制。

 柔らかい感触と、甘い香りが脳を直撃する。

 心臓の音が伝わってしまいそうだ。


 いかん、このままでは理性が焼き切れる。

 俺は必死に別のことを考えようとした。


(そ、素数だ……素数を数えるんだ……。2、3、5、7……うわいい匂い!……11、13……肩めっちゃ華奢!……17、19……)


 ダメだ。素数の間に冬月さんの情報が割り込んでくる。

 俺の煩悩は数学を超越していた。


「……じゃあ、いくよ。春トくん」


「お、おう! いつでも!」


「せーの、いち、に、いち、に」


 俺たちは掛け声を合わせ、歩き出した。

 最初はぎこちなかったが、何度か繰り返すうちにリズムが合ってくる。

 お互いの呼吸を感じながら進む感覚は、なんとも言えない高揚感があった。


(楽しい……。冬月さんと息を合わせて動くの、すごくいいな)


 調子に乗ってスピードを上げた、その時だった。

 俺の足がもつれ、バランスが崩れた。


「あッ」


 二人して地面に倒れ込む――。

 その瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは「冬月さんを怪我させてはいけない」という一点のみだった。


(危ない!)


 俺はとっさに冬月さんの体を抱き寄せ、回転するようにして、背中から地面に落ちた。

 ドサッ! と鈍い音が響く。

 俺の上には、無傷の冬月さんが乗っていた。


「……っう……」


 背中と肘に鋭い痛みが走る。

 結構派手に擦りむいたかもしれない。


(痛った……。けど、冬月さんに怪我はないな。よかった……。彼女の肌に傷一つつけさせるもんか)


 俺が安堵の息をつくと、上の冬月さんが顔を上げ、涙目で俺を見下ろしていた。


「……バカ!」


「え?」


「……なんで、かばうのよ。自分が怪我するなんて……バカ!」


 彼女の声は震えていた。

 怒っているようで、ひどく悲しそうで。

 冬月さんは俺の手を引いて無理やり立ち上がらせると、俺の擦りむいた肘を見て顔を歪めた。


「……保健室。行くよ」


「いや、これくらい平気だって」


「……平気じゃない。私が平気じゃないの」


 有無を言わさない迫力に、俺は頷くしかなかった。

 冬月さんは俺の無事な方の腕を掴み、支えるようにして歩き出した。

 その密着した体温から、彼女の心配してくれる気持ちが伝わってきて、傷の痛みなんてどうでもよくなった。


 校庭の端でそれを見ていたクラスメイトたちが、「もう二人で保健室に住めばいいんじゃないか」と呆れていたことに、俺たちは気づかなかった。

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