第4章 第10話 五分だけの約束
翌日の放課後、白瀬もえは校門を出てから、少し遠回りをした。
待ち合わせ場所は、駅へ向かう途中にある小さな神社の脇道。
五分だけ。
そう決めているのに、早く着きすぎた。
「……落ち着け、私」
スマホを見る。まだ約束の三分前。
その時、背後から足音がした。
「待たせたか」
振り返ると、天城玲司が立っていた。
「ううん。私が早かっただけ」
「そうか」
「……うん」
会話が、少し止まる。
たった一日会わなかっただけではない。
昨日、黒峰に踏み込まれた。玲司はそれを隠さず伝えてくれた。
だから今日は、いつもの五分より重い。
「大丈夫だった?」
もえが聞くと、玲司は少し考えてから答えた。
「大丈夫とは言いにくい」
「……そっか」
「ただ、まだ決定的なところまでは来ていない」
「それって、安心していいの?」
「半分だけ」
「半分かあ」
もえは小さく笑った。
笑わないと、不安が顔に出そうだった。
「私、昨日ちょっと考えた」
「何を」
「もし、私と関わることで天城くんが困るなら、離れた方がいいのかなって」
言った瞬間、玲司の表情が少し硬くなった。
「その結論は?」
「出なかった。……というか、出したくなかった」
「ならいい」
「よくないよ。天城くん、簡単に言いすぎ」
「簡単ではない」
玲司は静かに言った。
「でも、離れる選択を先に置くつもりはない」
「……」
「君が怖いなら、距離の取り方は変える。会う頻度も、場所も、連絡の仕方も考える。でも、最初から離れるための相談にはしたくない」
もえは、胸の奥がぎゅっとなった。
「そういうの、ずるい」
「最近、よく言われる」
「本当にずるいんだよ」
もえは下を向いた。
「私も、離れたくない」
声は小さかった。
でも、消えなかった。
「怖いけど、天城くんと話せなくなる方が、たぶんもっと嫌」
「ああ」
「そこは“僕もだ”って言うところじゃないの?」
「僕もだ」
「遅い」
「すまない」
思わず笑ってしまった。
その笑いで、少しだけ空気がやわらかくなる。
玲司が時計を見る。
「あと一分だ」
「ほんとに五分で終わらせるんだ」
「約束だからな」
「律儀すぎ」
「君が言ったんだろう。会えたらちゃんと喜ぶ、と」
もえは顔を上げた。
玲司は少しだけ照れたように、でもまっすぐこちらを見ていた。
「今日、会えてうれしい」
「……っ」
心臓に悪い。
でも、言わなきゃいけない。
これは二人で決めたルールだから。
「私も」
もえは、ちゃんと声にした。
「今日、会えてうれしい」
言葉にすると、たった五分がちゃんと意味を持つ。
玲司は小さく頷いた。
「また夜に」
「うん。また夜に」
二人は別々の方向へ歩き出した。
振り返らない。
それも、今日の防衛線。
でも白瀬もえは、角を曲がったあと、スマホを握りしめて小さく笑った。
五分だけでも、ちゃんと嬉しかった。




