097 再びアウストラル王国王宮 (中)
「連れてきたよー」
冬とマロン、ドラが女と荷物を持って転移してきた。
女はキョロキョロしている。船に乗っていたのに一瞬で室内だ。
「おやマリリンさん、久しぶり」
「え、王妃・・様」
「あんたがベッドの上で旦那と重なっていた時以来だわね」
「・・・・」
「旦那とやり取りしたみたいだね」
「・・・・」
「旦那に王子にと優秀な侍従候補を紹介してくれたようね。そこの蓑虫だけど」
「・・・・」
「素直に答えれば極刑にはしない。誰に頼まれた」
「あの、極刑にしないというのは本当でしょうか」
「本当だ。事件の概要はほぼわかっている。答えなくてもよいが答えなければ極刑だ」
「話します。少し前に隣の国の商家の会長さんの知り合いと言う人がそこで横になっているセベロとやってきました。セベロを王子の侍従として国王陛下に推薦してくれと頼まれました」
「頼まれたんだな」
「はい。陛下からもらったお金も尽きまして生活に困るようになってしまっていてつい」
「お金をもらったか」
「金貨十枚でした」
「安いか高いか微妙な値段だな。さすが商人だ。それから」
「王妃様が海賊討伐に出発したら陛下に推薦するように言われました」
「私が討伐に出たら推薦したのか」
「はい。王妃様が王都を出たのを見計らって陛下に推薦の手紙を出しました」
「ふん」
「用は手紙に書いておいたのに陛下はすぐ来てくれました」
「家に来たのか?」
「はい。来てくれました」
「ベッドの上で念押ししたか」
「・・・・」
「首尾はどうだった」
「縮こまっていました。陛下はセベロを連れて王宮に戻りました」
「どうして逃げた」
「陛下がおいで頂いたときに」
「また会ったのか」
「・・・・」
「まあいい。それで」
「陛下はセベロの勧めで王子をリーメスに視察に行かせたと仰いました。守り役のアブス様もついて行ったのかお聞きしましたら、出張中で王子には付いていないとの事でした。何人で行ったのかお伺いしたところ、王子様とセベロと従者の10人位だとのお話でした」
「それで」
「王子様の事を思っている王妃様とアブス様が居ないときに他国の会長さんの知り合いで王子様の侍従に押し込んだセベロが王子を連れてリーメスに向かった。おかしいと思いました」
「ふむ」
「護衛の騎士もつけず従者だけというのは襲ってくれと言っているようなものだと思いました」
「正しい」
「これは何かある。危ないと思い、陛下に生活費がないとおねだりしました」
「逞しいな」
「少しの金子を頂き、すぐ港に向かいました」
「高飛びだな」
「はい。誤算は王妃様の海賊討伐中のため船が出ず、港に足止めされた事です。やっと隣国に向かって船が出て逃げられると思ったのにそこのドラゴンに掴まれたと思ったらここにいました」
「わかった」
「あの、死刑にはならないのでしょうね」
「約束だ。死刑にはしない。部屋に監禁しておけ」
王妃の腹心だろう。男がマリリンと蓑虫を連れて出ていった。
「エカチェリーナ様、皆様、見苦しいところをお見せした」
「いや、もとはといえば我が国の者が起こした事だ。迷惑をかけた」
「マックはどうするんだ」
「エルダー、付き合え。エルダーをお借りするが構わないか」
「良いぞ。こき使ってくれ」
「皆さんはお茶でも飲んで休んでいてくれ。エルダーと行ってマックを始末してくる。いくぞ」
ススッと本部長から距離を取る秋人。
「俺の補佐も来るんだ」
本部長に捕まって秋人も連れて行かれた。
「宰相を国王執務室へ至急呼べ。近衛兵も集めろ」
王妃の声が廊下から聞こえてくる。走っていく足音が聞こえる。
廊下の騒ぎを他所に王妃の侍女がお茶を淹れてくれる。
国王執務室に入る王妃、本部長、巻き込まれた秋人。荒い息の宰相とその秘書官が続く。
「おう、エルダー。久しいな。元気そうだな。一杯やるか」
ゴス。
「グエ」
「チコが誘拐された」
「何だと。何処で誘拐された」
「リーメスだ。お前が侍従にした男の手引きだ」
「あれはマリリンの推薦で確かな男だ」
「確かな男が誘拐犯の手先か」
「優秀な確かな男だった筈・・・何かの間違いだ」
「マリリンの家には誰もいない。金目のものは残されていない。逃亡した」
「そんな。まさか」
やっと事態を悟り始めた国王。顔色が悪くなる。
「お前は爺を遠ざけて誘拐犯の一味が動きやすいようにした」
「チコは・・・」
「お前のせいで誘拐された」
「チコ・・・」
「お前は誘拐犯の手先を引き込み、王子を誘拐させた」
「俺は、そんな。エルダー何とか言ってくれ」
本部長は肩をすくめ黙っている。
「王族の誘拐は極刑だ。誘拐犯一味すべて極刑。お前も極刑だ」
「助けてくれ」
「チコもそう思ったろう」
「チコは、チコは」
「お前が死地に向かわせた」
「俺が、俺がチコを」
「国王が誘拐犯では不味かろう。取り敢えず退位だ。宰相」
「すぐ書類を。おい書類を作って来い」
宰相の秘書官が走っていく。
しばらく待っていると宰相秘書官が数人と事務官らしい男が書類を持ってやってきた。
「では書類にサインしてもらおう。それから国王退位承認の会議を開く」
「すでに招集しました。一時間後会議開催です」
「よし。お前は署名だ」
国王はやむを得ず書類に署名した。
「国王は具合が悪くなったようだ。寝室に案内せよ。寝室からふらふらと出ないようにな。安静にしていろ」
王妃の腹心が国王を連れて行く。安静と言う名の監禁だ。
王妃が国王の侍従をにらみつける。
「お前らにも皇子誘拐の事情を聞かなければならない。捕まえろ」
秘書が執務室の扉を開けて近衛兵を部屋に入れる。
近衛兵はとうの昔に王妃に掌握されていた。ためらいもなく国王の侍従に縄を打ち連れて行った。
「宰相は国王の書類を精査、使い込みがないか、不審な金の出入りがないか調べろ」
「は。すぐ財務を呼んで取り掛かります」
哀れ国王。役人もすでに王妃に掌握されていたのであった。
「秋人殿は魔法は得意か?」
「一応使えるけど、冬の方が上手だ」
「呼んでくれる?」
「いいよ」
すぐ冬が転移してきた。
「クレちゃん、なあに?」
「王子誘拐犯の一味の国王に断種魔法をかけてもらえるか」
「へえ、縮み上がって役立たずのようだけど、念のため断種か。いいよ。本人に気付かれないほうが良い?」
「そうしてくれ」
「わかった。ちょっと待っていてね。隠密がついていっている。国王は廊下を引きずられている。チョッキンだね。チョッキン」
チョッキンという不穏な言葉を聞いた本部長。
「チョッキンしたのか」
「うん。こっちではなんて言うのかな。子種かな。子種が放出される道を根元の部分でチョッキンした。二度と開通しない。本人は気付かないよ。外見は何も変わらないから」
「恐ろしい魔法だ。名付けてチョッキン魔法か」
「冬は天才魔法少女だよ」
「冬ちゃん、ありがとう」
「それでどうするの?チョッキン前国王はマリリンに世話をさせる?」
「良く分かっているね。侍女無し。二人で暮らしてもらおう。マリリンにもチョッキンをお願いできるか」
「本来死刑だから本人の承諾は要らないね。わかった。王妃執務室から出て今は部屋に閉じこめられているね。チョッキン」
本部長が冬に聞く。
「今度は何をした?」
「卵が出てくる道をチョッキンした」
「卵か、鳥ではあるまいに」
「目に見えないような卵だよ。それが男のあれと合体する。合体して大きくなる。道をチョッキンしてしまえば卵が合体の場所まで行けない。絶対合体できない」
「へえ。そうか。そうなっているとは知らなかった。しかし仕組みがわからないから他の者に真似できないな。本当に恐ろしい魔法だな」
「冬姫は天才魔法少女だよ♪」
あ、俺にも出来そうと秋人が本部長の股間を見る。
「秋人、よせ」
焦って前を抑える本部長。
「仲がいいね」
王妃にも言われてしまった本部長と秋人であった。




