093 アウストラル王国王宮 (上)
海賊の拠点を海賊ごと撃滅して帰港した王妃。
出迎えの船関係の人達、港の住人に歓声をもって迎えられた。
王妃は船の上から手を振り、タラップを降り、さらに手を振りながら馬車に乗って王宮に向かった。
王宮の門では、いつも王子が迎えてくれたが今日はいない。いぶかしがる王妃。
王の執務室に向かった。
「お疲れさん。海賊の本拠地は無事壊滅したみたいだな」
「それはそうだけど、チコはどうした?」
「チコは今頃はリーメスで街を見学しているのではないか。心配いらないって」
「街の見学?」
「そうだ。侍従がチコがリーメスに行きたいと言っていると申し出て来てな。街を見て見たいそうだ」
「何でリーメス?」
「社会勉強だろう。侍従とお供が10人ほどついていったし良い経験になるんじゃないか」
「いままでそんなことは言わなかったのに、国内視察なら他に行くところがあちこちあるのに、何で一番遠いリーメスなんでしょう。おかしい」
「それは他国に接しているからだろう。だいたい南は海、東西は山だ。開けているのは北しかないからな」
「そうだけど、まだこの城下だってよく知らないでしょう。馬車で回っただけよ。港だって見てないでしょう。東西は山と言ったって街道から山の間に街や村が幾つもある。まずは足元を見なくては。どうしてあんたは私に黙って許可したの?」
「可愛い子には旅をさせろっていうからな」
「私が居ないうちに出て行ったわ。どうして」
「それは心配するといけないから」
「誰の提案なの?チコは国境なんて頭にはないはずよ。誰の提案?」
「侍従だ」
「どの侍従?」
「若い侍従だ」
「若い侍従?いつ採用した?」
「お前が海賊討伐に出かけた後だ」
「試用ではなく本採用したのか?」
「そうだ。良くできるからな」
「どうして出来るとわかる?指導者はつけたか?」
「本採用だから指導者はつけない」
「あんたはその男を良く知っているのか?」
「いや。知らないが推薦を受けたからな」
「誰の推薦だ?」
「誰だったっけかなあ」
「誰よ?」
「昔勤めていた」
「ふん。侍女ね」
「・・・・・」
「その女は今どこに住んでいる?」
「うーーん」
「言え。握りつぶされたいか」
「言う。ここだ」
住所が書かれた紙を国王が出してきた。
「誰か」
「何でしょうか」
「聞いてたわね。ここに住んでいる女を捕まえてきて。急げ」
「はい」
「それでどうして住所を書いた紙がある?」
「それは手紙を送ってきたから」
「何の手紙だ?」
「侍従の推薦だ」
「推薦があってすぐ採用したのか。なぜ王子付きにした?」
「若いから王子の侍従にちょうどいいと」
「あんたの考えではないだろう。誰に王子付きにしろと言われた?」
「いや、俺の考えだ」
「もう一度聞く。誰に言われた?」
「それはその・・・彼女の希望だ」
「女の希望によって王子の侍従にしたのか?」
「まあ、若いからその方がいいかと思って」
「くそ、おかしい」
「別におかしくはないだろう」
「あんた、わかっているの?チコは一人息子よ。チコに何かあったらどうする?」
「心配しすぎだ。だからお前がいない間に」
「いない間に?お前の考えか」
王妃が国王の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「いや、俺じゃない。俺じゃない」
「誰だ?」
「言うから放してくれ」
王妃が国王を投げ捨てた。ゲホゲホいう国王。
「誰が私のいない間にリーメスに王子を連れて行くと言い出した?」
「さっきの若い侍従だ」
王妃、国王の腹をぶん殴った。
「グエ」
「チコはいつ出発した」
「一週間ほど前だ」
「今はリーメスに着いた頃か。爺に相談したのか」
「いや、爺は出張中だったからな。それに相談するとすぐお前に話が行く」
「爺はどうして出張した」
「それは俺が用を頼んだ」
「急用か?」
「いや」
「何で爺に頼んだ?」
「それは・・・・」
「誰の指図だ」
「・・・・」
「言え」
「若い侍従だ」
ゴス。
「グエ」
「それで爺は今どうしている?」
「王子が出たと知ってすぐ追いかけた」
「相談すればこんなことにはならなかった」
「国内視察に行っただけだ」
ゴス。
「グエ」
女を捕まえに行った侍従が息を荒くして戻ってきた。
「王妃様。いただいた住所には誰もいませんでした」
「家の中を調べたか」
「はい。ドアを壊して中を調べました」
「どうだった?」
「急いで出て行ったようです。日用品などいろいろ残っておりました」
「指名手配しろ。罪状は誘拐だ」
「おまえ、そんな」
もう一発国王を殴る王妃。
「グエ」
「罪状は国家反逆罪に変更だ」
「直ちに」
「馬を用意せよ」
侍従が出て行く。
「支度する」
王妃の侍女が聞く。
「冒険者の支度でよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
侍女が急いで出ていった。
王妃は部屋に置いてある剣をすらりと抜いて国王に向かって振った。
はらりと国王の頭頂の髪の毛が散った。
「チコに何かあったらどうなるかわかっているわね」




