092 南の国境の街リーメス (4)
本部長と秋人は宿に近づく。当然宿の前にいる衛兵に誰何される。
「何の用だ」
「俺はエルダー ハインツ クラッセン。スターク王国の冒険者組合組合長をしている。これが身分証明書だ」
「確かに」
「今は女王の特使だ。アウストラル王国の王子様の一行にお会いしたい」
「今取り込み中で」
「まさにその件でお会いしたい」
「わかりました。中へどうぞ」
衛兵がフロントまで案内してくれる。
フロントと衛兵が話をして、フロントマンが階段を上がって行く。
しばらくして老人と降りてきた。体格はガッチリしているが今は焦燥しているようだ。
「よう。爺さん。元気か」
老人が顔を上げた。
「エルダー」
「そうだ。しけた顔をしているな」
「こっちに来てくれ」
老人が階段を引き返す。
「知り合い?」
「ああ、冒険者をしていた時にマックの様子を時々見に来ていた。心配していたな。マック夫妻に子が出来てからは赤ちゃんの時から孫のように世話をしていた王子の守り役だ」
三階まで階段を登って部屋に案内された。
「王子がいなくなったか?」
「そうだ。何か知っているか?」
「王子は確保した。この秋人の親が助け出した」
「本当か」
「本当だ」
「王子は無事か、怪我はないか」
「大丈夫だ。心配いらない。ところで王子と一緒にいなかったのか」
「10日ほど前の事だ。陛下に用を言いつかって数日王宮を留守にした。帰ってくると王子はいなくなっていた」
「それで」
「国王は王子をリーメスに視察に出したと言っていた」
「ふうん」
「国王側近を捕まえて少し訓練したら私のいない間に採用された侍従が視察名目で王子をリーメスに連れ出した事がわかった。すぐ後を追って急いでこの宿に着いたがひと足遅かった」
「訓練ね。それから」
「侍従が従者に川向こうに行って王子の見聞を広げたい、大人数では世情がわからない。ここなら国内と同じようなものだから二人で行ってくるといい出し連れ出した後だった」
「計画的だな」
「陛下に命じられた私の出張もたいした用ではなかった。今考えればそのころからの計画だろう」
「そうだな。リーメス行きは誘拐犯が侍従に指示したのだろう」
「誘拐か。それにしては犯人側から接触がなかった」
「女王を引き摺り下ろす道具に使うつもりだったからな」
「引き摺り下ろす?」
「王子を返さなければ南の国と戦争になる、退位すれば王子は無事南の国に帰す。退位すれば戦争にならないというような企みだ」
「政争の具にされたか。よその国を巻き込まないでいただきたい」
「すまねえ」
「落とし前はどうつけるんだ」
「マックは・・・ダメだな。クレスと話し合う」
「そうか」
「で、王子はいまどこだ?」
「すぐ北のロカーレだ。今は女王と一緒だろう。まもなく来るのではないか」
「ロカーレとは距離がある。数日はかかるだろう」
「いや瞬時だ。転移してくる」
「そんな魔法は聞いたことがない」
「俺もなかったがこの頃あると知った。俺の補佐のこの秋人も出来るぞ」
「本当か?」
「このドラ二も出来るよ」
「アキトと言ったな。信じられない話だ」
「このドラ二はこう見えてもドラゴンだからね」
そうではなくて転移の話だと爺さん。
「今女王は国内を廻って披露会を行なっている。ロカーレでの披露会が終わればすぐ来るだろう。少し待っていてくれ。ここに王子と一緒に来たのは何人だ?」
「10人ほどだ」
「そいつらに会ってみよう。秋人が仲間がいるか調べる」
「いないと思う。みな気心が知れている」
「それと侍従はどういう男だ?」
「私がいない間に陛下の口利きで侍従として採用された男だ。陛下は才能があり見込みがある若者だと仰っていた」
「王妃は?」
「王妃が海賊討伐に行っていて王宮を留守にしていた間の事だ。だから王妃はその男が侍従になっているなんて知らない。会った事もない」
「マックは女が絡むと騙されやすい。きっとその男をマックにプッシュしたのは女だろう。そしてその女は王妃がいない間を狙った。爺さんは女が国王に指図して事を起こす間遠ざけられたんだろう」
「そうかも知れないな」
「それで他の人に会わせてくれ」
「わかった。呼んでこよう」
守り役の爺さんが出ていってすぐ10人ほど連れてきた。
「こちらはスターク王国女王の特使のエルダー ハインツ クラッセン殿だ。見知っておいてくれ」
「エルダー ハインツ クラッセンだ。エルダーと呼んでくれ。それと俺の補佐の秋人だ」
黙って頭を下げる従者たち。
「王子様は誘拐されたがまもなく女王と一緒にリーメスに到着する。心配をかけたな。すまない」
そっと部屋から出ようとする男がいる。
ドラ二が後ろから近づく。
秋人が声をかける。
「どこに行くんですか」
「いや、ちょっと厠」
「そうですか。厠に行ったら帰ってきた方がいいですよ。あなたの後ろにドラゴンがいますが、ついて行きますので。もし厠以外に行くようでしたら、丸焦げですね」
男は部屋から脱兎のごとく逃げ出した。
「爺さん、いいか?」
「いいぞ」
ドラ二が小さく炎の塊を吐く。男の背中に命中した。
「熱い、熱い」
倒れた男の背中の上で燃え上がる炎の塊。
消そうとのたうち回るが炎の塊は背中から離れない。
「恩知らず。お前は王子様の誘拐犯の一味か?」
「知らない、知らない」
本部長が追い討ちをかける。
「早く答えないとだんだん炎が体の中に入って行くぞ。今ならまだ背中の火傷だ」
「熱い、熱い。助けてくれ」
だんだん肉の焼ける匂いが漂ってきた。
「おい、背中の肉がステーキになりかかっているぞ。おれは食わんがドラゴンは食うかも知れない」
「侍従が王子についていて手が放せないから、俺が誘拐犯と侍従の繋ぎをした」
「他に仲間はいないか?」
「いない。助けてくれ。熱い。熱い」
「ドラ二」
秋人に言われてドラ二が炎の塊を掴んで握りつぶした。
「すげえな。流石にドラゴンだ」
本部長にほめられて得意げなドラ二。倒れた男はまだ熱い熱いと言っている。
「すぐ吐かないからだいぶ深く火傷したな。爺さん、こいつを知っているか?」
「こやつはソスと言って貴族の次男坊だ。大人しく勤めていれば王子の側でそれなりの地位まで昇ったものを。見損なった」
「おおかた博打か美人局で狙われたんだろう。どうする?」
「縛って部屋に閉じ込めておこう」
「よしきた」
本部長がソスを縛って転がしておく。




