089 南の国境の街リーメス (1)
少し時間が戻る。
まずはロカーレの街の中から外に転移した秋人と冬、コレットと影4人、本部長、副隊長と兵。もちろんマロンとドラ一も一緒だ。
「場所がわからないね。ドラ一、これから行くリーメスという街は、この街道をまっすぐ南に行った川に沿った街だ。ちょっと先に見てきてね」
冬に言われてドラ一が翼を広げて浮いて一瞬で南に飛び去った。
すぐ映像が送られてきた。流れる川の両脇に同じような街がある。
「リーメスだね」
「そうみたいだな」
「それじゃ転移」
秋人が全員を転移させる。街まで歩いて30分くらいのところだ。
「あれは城壁というより土手だな」
「秋人、よくわかったな。土手だ」
「見ればわかる」
「解説してやろう」
「おじさん、どうでもいいけど先に行こう」
「若様、先に行って調べています」
「そっか。頼んだよ」
コレットと影4人が走り出す。
「我々も先に行っています」
副隊長と兵がコレット達を追って走り出したが、コレットたちとは差が開く一方だ。
「では俺も」
「おじさんはやめておいた方がいいよ。現役の兵さえコレット達に追いつかないんだから、おじさんでは足がついていかない」
「この間魔物相手に奮戦したから現役時代に戻ったかも」
冬が助け舟を出す。
「マロンと競走だ」
冬に言われてマロンがやる気を出した。本部長を見て行くよという顔をした。
「よし、見てろよ」
マロンと本部長が走り出す。マロンが先頭だ。すぐ副隊長と兵を追い抜いた。マロンは街道を逸れて走っていく。本部長はマロンを追っていく。マロンに先に行かれて熱くなった本部長、マロンだけ見て走っていく。街道を逸れたことに気がつかない。
「あーあ、本部長は気が付かないぞ」
「マロンに言っておいたんだ」
「なんて」
「街の外側を一周すれば丁度いいって」
確かにマロンは土手に沿って走っていく。
たちまち川と土手の間にかかった。
「おい、マロン。川が見えるぞ」
振り向き少し舌を出してへへへへという顔をするマロン。
「あ、笑ったな。捕まえてやる」
河原を走って橋の下をくぐる。河原から上がってさらに土手沿いに走る。
冬達の死角に入ってしまったがドラ一隠密が中継してくれる。ドラ一は戻ってきたがドラ一隠密は残してきた。
「冬、街は街道と橋の二ヶ所が出入り口みたいだな」
「うん、橋以外は街道から土手に上がる道が一つしかない」
秋人と冬が歩きながら話しているうちに、コレット達は土手の道を登って街に入った。
だいぶ遅れて副隊長と兵が道を登っていくがだいぶ足に来ているらしい。
「おい、鍛え方が足りないぞ」
「そういう副隊長だって足元が」
副隊長と兵がよろよろと坂道を登っていく。
マロンがこちらに走ってくる。一着と冬の胸に飛び込んだ。
「はい、マロンが一着。おじさん二着」
「捕まえられなかった」
がっかりする本部長。
「でもよく走ったんじゃないか」
「魔物相手にトレーニングしたから現役の時よりも強くなったんじゃない」
勝手に評論する秋人と冬。
「まあいいか」
持ち直した本部長、秋人達と土手を登る。
マロンと走って息も切らしていないというのは本当にS級冒険者と言ってもいいのだろう。それを超えたかもしれない。
目の下に周りを土手に囲まれた街がある。
「これは輪中というやつか」
「なんだそれは」
「ああいうもんだ」
「ああいうもんだとは」
「こういうもんだ」
秋人と本部長が漫才をやっている。
「輪のような土手で住むところなどを囲んで氾濫の被害を防いでいるんだよ」
「ああそうか。輪中とは輪っかの中の意味か。冬ちゃんの説明はわかりやすい。秋人のはダメだな」
「ふん」
「でも土手の内側は垂直の石積みだ。土手ではないんか」
「簡単な城壁の役をしているんだ。土手を上ってきて不正に侵入しようとする者は飛び降りる事が出来ない」
秋人の疑問に本部長が答える。
「よく知っているね」
「俺は来たことがあるからな。だからさっき教えてやろうとしたら冬ちゃんに話の腰を折られた。輪中という言葉は知らなかったが」
「そんなことより検問をやっているよ」
話を逸らした冬であった。
確かに土手を降りたところで物々しい検問をやっている。副隊長と兵はまだ通れず検問の列に並んでいる。コレットと影は見えない。勝手に通ったんだろう。
「あ、いけねえ。それらしい格好をしなければいけなかった」
土手の上をコレットが歩いてくる。
「若様、中は王子が誘拐されたと大騒動になっています。検問も厳しく身元のはっきりしない者は入れません」
「そうか。それでは馬車で行くか」
「それがいいと思います」
「冬ちゃん、王家の紋章入りの馬車を公爵に言って借りてきてくれ。馬は馬車二頭、鞍をつけた馬6頭だ」
「ふうん。本部長が馬車か」
「そうだ。秋人は御者だ」
「若様は冬姫様と馬車にお乗りください。御者は影にやらせます」
コレットが言って本部長は残念がる。
「馬車は馬二頭、鞍をつけた馬は四頭でお願いします」
冬が転移していく。
秋人達は土手から少し街道を戻ったところに転移した。
王宮の三人組、侯爵家事案をどうするか相談している。
「おお、おじさん三人が雁首揃えて、鳩首密議か」
「うわ、冬殿か」
「そうだよ。マロンとドラ一もいるよ」
「なにか御用でしょうか」
侍従長が聞いた。
「おじさん四人組の抜けている本部長がね」
三人は俺たちはおじさん四人組になってしまったのかと肩を落とす。‘抜けている本部長’の抜けているというのは居ないということではなく本部長の頭の中だろうと一同。
「公爵に言って王家の紋章入りの馬車を調達してこいって言われたからから来た。二頭立て馬車、他に鞍をつけた馬四頭だってよ」
「今はどこに」
「リーメスの近くだよ。リーメスが王子の誘拐で沸騰しているから、検問を突破するには格好をつけないと上手くないみたいだよ」
「検問突破か」
「突破しなくても入れるからいいんだけど、愛人おじさんは特使だからね。門から入りたいみたい」
「それはそうだ。特使が街に入った記録がなくては不味かろう」
「じゃよろしく」
侍従長が次の間に控えている侍従を呼んだ。
「王家の紋章入り馬車を一台、二頭立てだ。その他に鞍をつけた馬4頭、すぐ用意して冬殿に引き渡してくれ」
「わかりました。冬様、こちらでございます」
「あ、これあげる。ロカーレで売っていたスルメを炙ったものだよ」
「スルメとは?」
「海にいる足がたくさんある生き物だよ。かぶり付かないでね。裂いてよく噛んでね。味が出て美味しいよ」
スルメを冬が置いて行った。
「これを食べるのか」
「そうみたいだな」
「食べたことはありません」
「見たこともないな」
「冒険をしてみるか」
おそるおそるスルメに手をだす三人。
「これは噛みきれない」
「でも程よい塩味で噛んでいると味が出てくる」
「結構いけるな。これは酒が欲しい」
こっそり隠していた酒を出してきた侍従長。
「この頃忙しいからたまには良いでしょう」
「気がきくな」
三人でスルメを齧って昼間から酒盛りを始めてしまった。
侍従が馬車と馬を冬に引き渡したと報告に来た。ばつが悪い三人。
「ご苦労。こっちに来い」
侍従長にスルメと酒で口封じをされてしまった侍従であった。




