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服部家一家 異世界に召喚される  作者: SUGISHITA Shinya


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087 王都 侯爵家始末 (下)

 近衛隊副隊長一行は男爵邸前に着いた。

 門番に男爵への面会を依頼する。


「近衛隊副隊長ごときが事前の約束もなく旦那様に面会など取り次げません」


「そうか。それなら良い。入るまで。行くぞ」

 抜刀した副隊長、20人の近衛隊も抜刀する。門番は後退った。


「どうなるか知りませんよ。男爵邸に押し入って」


「命を失いたくないなら黙っていろ」


 門番は黙った。


「ごめん」

 玄関が開いた。ドアを開けたのは執事長であろう。


「これはこれは、近衛隊とお見受けしますが、ここは男爵家です。近衛隊といえども無断で立ち入る事はなりません」


「執事長か。近衛隊副隊長だ。今は非常事態だ。非常事態時には貴族邸であっても自治はない」


「非常事態とは何でしょう」


「男爵家の本家、ベーメンブルク侯爵邸では下働きの者を除き全員死亡が確認された。分家のこちらの男爵も生存しているか確認したい」


「侯爵が・・・」


「侯爵家は全員斬り殺されている」


「こちらへどうぞ」


 玄関ホールから応接室に案内しようとする執事長。


「ここで良い。男爵を呼んでこい」


 執事長、これは良くない事態だ。何か裏があるに違いないと男爵を呼びに行く。


 男爵執務室に執事長が入る。


「旦那様。いま近衛隊副隊長が見えて、旦那様に面会を求めています」


「約束がないだろう。おい返せ。あとで近衛長官に抗議しておく」


「それが非常事態とかで押し入ってきました。何でも侯爵邸で邸内の者が全員斬り殺されているとか」


 ガタッと音がした。立ち上がった男爵の顔色が悪い。


「どうしましょうか」


「何人来た?」


「20人ほどです。全員抜刀しています」


 執事長は男爵の手が震えているのを見た。

 何か覚えがあるのだろうと思った。近衛隊が来るのは重大な犯罪だろう。場合によっては男爵家が廃絶されてしまう。先代のときから長年仕えて来たが男爵家が廃絶になってしまってはあの世に行って先代に申し開きが出来ない。覚悟を決めよう。


「居留守・・」


「出来ません」


 男爵はうな垂れた。


「会おう」


「こちらです」


 玄関ホールに案内された男爵。


「近衛隊副隊長である。男爵か」


「そうです」


「本家のベーメンブルク侯爵とその一家郎党が狂い茸中毒により錯乱し殺し合いを行い全員死亡している。すぐ死体を無縁墓地に埋めろ」


「皆殺しでしょうか」


「そうだ。新種の狂い茸の食中毒による錯乱で剣を振り回し斬り合いしたらしい」


「それなら無縁墓地はないのでは」


「お前もおいしそうな茸をもらったろう。これから食べるのか」


 男爵は美味しそうな茸と言うのは謀反の企みのことだ。企みがばれていると思った。


「茸は捨てます。無縁墓地に葬ります」


「そうか。殊勝なことだ。もちろん侯爵家の財産は」


「侯爵家の財産は国が御納めください。男爵家は一切関与しません」


「男爵の爵位はせがれに譲る事だ。今後一切公と関わらない事だな」


「・・・・」


「旦那様、あとはこの執事長にお任せください。旦那様を座敷牢にご案内しなさい」


 成り行きを見守っていた執事、執事長に言われて男爵の腕を取った。


「ではご案内いたします」


 執事に両脇を固められて男爵は連れて行かれた。


「副隊長様、爵位を子息に継がせる手続きを直ちに行ないます。彼は今後飼い殺しにします」


「おう。分かりが良いな」


「私は代々この家に仕えています。彼個人に仕えているのではありません。お家の存続こそが私の願いです。それに命あっての物種です」


「それではそうしてくれ」


「はい。寛大なご処置に感謝申し上げます。関係筋によろしくお伝え願います。今後は当主が茸に手を出さないようしっかりと補佐させていただきます」


「頼んだぞ」


「はい」


「引き上げだ」


 執事長、玄関の扉を閉じた。執事が執事長をみている。


「奥様とご子息様を執事長執務室に集めてください」


「はい。早速」


 執事長執務室で執事長が待っていると不服そうな奥方と不安そうな男爵の子息と子女がきた。


「奥方様。お子様方。ただいま近衛隊副隊長が見えました。端的に申し上げます。侯爵家の謀反の企みを旦那様が聞かされておりました」


「謀反って」


「謀反です。企みが露見し、侯爵家全員が死亡しました。表向き狂い茸の食中毒よる錯乱で剣を振るったことになっています」


「それは・・・」


「そうです。貴族の間で密かに囁かれている暗黒剣が振るわれたものと思います」


「近衛副隊長に男爵が言われたこと、合意したことを申し伝えます。まず侯爵家の死体は無縁墓地に当家が葬ること。侯爵家の財産は当家は辞退し、一切関わりないこと。次に男爵の爵位は速やかに子息に継がせること。男爵は今後公と関わらないこと。最後に今後謀反に加担しないこと。です」


「私は聞いていなかった」


「当主が謀反に加担していたのなら聞いていなくても同じことです。それこそ侯爵家のように成敗されて男爵家は廃絶です。幸い女王陛下の温情により旦那様の隠居と引き換えに当家の存続が許されました」


「わかりました。主人はどうなるのでしょうか」


「今は座敷牢です。もし牢から出したなら当家が謀反に加担したとして当家は潰されます。旦那様の謀反への加担に目を瞑り旦那様の隠居にとどめておくという女王陛下の温情を裏切ってはなりません。当家の存続を揺るがすようなことがあってはなりません」


 奥方は頭をフル回転させる。謀反人の妻となれば処分の対象で実家にも被害が及ぶ。


「私は離縁し、実家に戻ります。子供はよろしくお願いします」


「承知しました。早速旦那様の隠居と爵位継承、それに離縁の手続きをします」


 執事長はすぐ爵位継承と離縁の書類を作成した。男爵は執事長が差し出す書類に署名した。一人も味方がいないと言う事実に打ちのめされたようだ。


 執事が下働きに荷車を何台も引かせて侯爵邸に向かい死体を収容し無縁墓地に葬った。


 全てが終わり執事長と子息は近衛隊を訪ねた。

 案内された隊長室には隊長と副隊長が待っていた。


「この度はご迷惑をおかけいたしました。侯爵家の死亡者は無縁墓地に埋葬、子への爵位継承手続きを滞りなく行いました。前男爵は一生座敷牢です。なお、奥方は離縁、実家に戻りました。当家の立場上、王宮に顔を出すことは憚られ、関係筋にはよしなにお伝えくださいますようお願い申し上げます」


 執事長の口上に続きぺこりと子息がお辞儀をした。


「殊勝なことである。伝えておこう。今後我々が屋敷に向かうことのないようにお願いする」


「もちろんでございます」

 執事長に続いて再び子息、今は男爵がぺこっとお辞儀をした。


 隊長は菓子を男爵に包んで持たせた。うれしそうである。まだ子供だ。


「良かったな」

「うん」

「そこは、はい。だ」

「うん。・・はい」

「お礼は」

「ありがとう」


「では失礼いたします」


 二人が出て行った。


「爺と孫だな」

「そうですね。今度は大丈夫でしょう」


「近衛長官に報告に行ってくる」


 侯爵家事案の処理は終了した。

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