086 王都 侯爵家始末 (中)
近衛隊に戻った隊長。副隊長と隊員を呼んだ。
「異常事態だから侯爵邸に立ち入って良いと長官がおっしゃった。副隊長はハシゴを用意してくれ。準備が整ったら呼んでくれ。隊員は10人。私も行く」
「装備はどうしましょうか」
「いつもの格好で良い。特別なことはない。だろう」
「だろう」を付け加えた隊長。その言い方で邸内の様子を察してしまった副隊長と隊員である。
しばらくして副隊長が準備完了と隊長を呼びにきた。
「言っておくが中は静かだろう」
「はい」
「では行こう」
隊長、副隊長、隊員10名で侯爵邸に向かった。
侯爵邸の門前についた近衛隊。両隣の貴族邸の執事長を呼び出した。
「お隣のベーメンブルク侯爵邸の門が閉じられて中に入れない、呼びかけにも応じないと外に出ていた侯爵邸の雇用人より相談があった。中に立ち入るので立会人をお願いしたい」
「承知しました」
隊長が邸内に向かって呼びかける。
「侯爵邸の方々、立ち入れないとの侯爵邸雇用人からの訴えがあった。返事を願いたい」
少し待った。
「返事はない。それではハシゴをかけ邸内に入り、門を開けろ」
隊員がハシゴを塀にかけ登って邸内に入り中から閂をはずし門を開けた。
隊長を先頭に門から入る。誰も見当たらない。
玄関を開けて館に入る。
「うっ」
生臭い。
見ると人があちこちに倒れて血を流している。
「生存者がいるか館内を捜索せよ」
隊員が散っていく。
「1階生存者なし」
「2階生存者なし」
「なにか原因になるような書類があるか確認せよ」
隊長に言われてもう一度散る隊員。
2階から書類を持って副隊長が降りてきた。
「南の国の王子誘拐・・・」
さも両隣の貴族家の執事長がいることに初めて気がついたような顔をして途中でやめた副隊長である。
しらばっくれて隊長が執事長に向かって続ける。
「全員死亡しています。立ち会い、ありがとうございました」
「いえいえ、こう言う時は隣家のつとめです」
立会人の両隣の貴族家の執事長は戻った。
屋敷に戻った執事長、早速主人に「侯爵家は全員死亡。南の国の王子誘拐の書類があった」と報告。
報告を受けた主人。
「謀反を計画し、ばれて暗黒剣を振るわれたのだろうな」
門前で待っていた雇用人、侯爵家全員死亡と聞かされた。荷物を持って出ることを許可されて自分たちの荷物を持って寄る辺を頼って散って行った。
隊長は死体を一階ホールに集めさせ、盗賊対策の隊員を残して王宮に向かう。
隊長は近衛長官に面会して報告する。
「ベーメンブルク侯爵邸は侯爵以下全員死亡していました。侯爵と執事長は断首されていました」
「そうか」
「それとこの書類がありました」
侯爵邸で見つかった書類を差し出す。
「南の国の王子誘拐か」
「そのようです。処理はどうしましょうか」
「待っていてくれ。公爵と相談してくる」
近衛長官は書類を持って公爵執務室へ。
三人組はまだ揃っていた。どうも待っていたらしいと長官は思った。
「どうだった」
公爵に聞かれた。
「侯爵邸内に生きている人はいませんでした。全員死亡です。侯爵と執事長は断首されていました。それとこの書類がありました」
公爵はちらっと見た。
「南の国の王子誘拐の書類だな」
「そうです」
近衛長官は、三人はちらっと見ただけでわかるのか、きっと事前に知っていたのだろう。侯爵邸で振るわれたのは暗黒剣だ、いや実態は暗殺剣だ。しかし「もろ」はいかんだろう。されば貴族の間でささやかれる暗黒剣が適切かと思った。
「侯爵邸の処理はどうしましょうか」
「相続を分家に一応確認してみてくれ。多分手をあげないだろうが」
王弟が付け加える。
「事情を「よく」知っているだろう。きっと手をあげる勇気はないだろう、な」
「わかりました」
「死体は分家に引き取らせて無縁墓地に埋葬させろ」
分家は踏んだり蹴ったりだと思った長官である。
「連座制は適用しない。だが分家の男爵は隠居だ。二度と公に関わってはいけない。爵位はせがれに継がせろ。侯爵一家は表向き食中毒で死亡だ」
裏は暗黒剣だと長官は思った。
長官室に戻った長官。
「侯爵一家は中毒死だ。死体は分家に引き取らせて無縁墓地に埋葬させろ。一族の墓ではないぞ。無縁墓地だ」
「何の中毒でしょうか。斬り殺されていましたが」
「中毒だ。新種の茸であろう。狂い茸と名付けた方がいいかもしれん。錯乱して死ぬまで剣を振り回したに違いない」
「はあ、狂い茸ですか。確かに剣で斬られています。それで下働きが斬られていないのは」
「それは侯爵が吝嗇で、美味しい茸料理を下働きに食べさせなかったのだ」
「なるほど」
「狂い茸による中毒だ。分家の男爵は事情を「よく」知っているだろう。茸ももらっているだろう。隠居だ。公に二度と関わってはならない。爵位はせがれに継がせろ」
「わかりました」
「わかればよい」
隊長は近衛隊の隊舎に戻って副隊長を呼んだ。
「侯爵家分家、確か男爵だったな。呼んでこい」
「一応貴族ですから呼び出しは・・・」
「そうか。ならば男爵家に行ってこう言え」
‘本家の侯爵家が狂い茸中毒により錯乱し殺し合いを行い皆殺しになっている。すぐ死体を無縁墓地に埋めろ’
「いいか、御遺体ではないぞ。死体だ。それに一族の墓に葬る事は禁ずると加えろ。それに男爵は隠居、せがれに爵位を継がせろ」
「納得するでしょうか」
「こう言え」
‘茸中毒でなかったらどうなるか良く考えろ。お前も茸をもらったろう。これから食べるのか。もちろん侯爵家の財産の相続に手をあげないだろうな’
「これでわからなかったら男爵家は茸を食する事になる」
「行ってきます」
近衛隊副隊長は、やっぱり侯爵は謀反の企みを女王陛下に掴まれ暗黒剣を振るわれたんだろう。男爵が謀反人の一味なら副隊長の俺が行ってもおかしくはないと思った。
近衛隊副隊長は隊員20名を引き連れて男爵邸に向かった。隊列を整え行軍練習の態をとった。




