085 王都 侯爵家始末 (上)
侯爵家の裏門近くに並べられた侯爵家の下働き、目を覚ました。
「あれ、俺はどうしたんだ」
次々に目を覚ます下働き、目を覚まさない者は揺り動かすと目を覚ました。
「屋敷にいたのにここは裏門だ」
裏門を押して見る。びくともしない。通用口もしっかり閉まっている。
「おい、中に入れないぞ」
「表に回って見よう」
一同表に回った。
表門もぴたりと閉まっている。押しても開かない。叩いても返事がない。
「どうしたんだ。俺達は締め出された」
途方に暮れる下働き。
隣家の門番を見ると目をそらされた。しばらくして隣家の表門は半ば閉ざされてしまった。関わり合いになりたくないとの意思の表明だ。
「何が起こったのかわからないが屋敷に入れない。この上は近衛隊に事態を届けよう」
「屋敷は自治で近衛隊に介入されるのは良くないのじゃないか」
「門を開けてもらわないと寝るところもないぞ。お前お金を持っているか?」
「働いているときだから何も持っていない」
「だろう。だからやむを得ない」
「そうだな。近衛隊に何とかしてもらおう」
下働き一同はぞろぞろと貴族街の近衛隊詰所に向かった。
近衛隊詰所で立哨警戒していた近衛隊員は目を瞠る。ぞろぞろと詰所に向かって男女が向かってくる。
「あのう」
「どうした」
「俺達はベーメンブルク侯爵邸で働いている者ですが」
近衛隊員は確かに貴族邸の下働きの格好だと思った。
「それで」
「今し方まで邸内で働いていたのですが、気がつけば裏門の外に寝ていました。裏門も表門もぴたりと閉ざされて中に入れません」
「なんだと。おかしな話だな。代表数人、中に入れ」
顔を見合わせて年長らしい三人が詰所の中に入った。
近衛隊員数人が事情を聞く。
「中に入れないか。うーん。知っていると思うが貴族邸内は基本的に自治だ」
「だども誰も中に入れません。このままじゃ今晩寝るところもありません」
「それもそうだな。ここには全員泊められない。困ったな。まずは現場を確認する。一緒に行こう」
近衛隊員は三人連れて侯爵邸まで行った。
「確かに門は閉まっているな」
「へえ」
裏門に回る。
「此方も閉まっている」
叩いても中から返事がない。
もう一度表に回って門を叩くも返事無し。
隣家を見ると門を閉めてしまった。
「詰所に戻る」
詰所に戻った。
「異常事態だ、近衛隊長に事情を話して来てもらおう。みんなはしばらく外で待っていてくれ」
近衛隊員が近衛隊の隊舎に向かう。
ちょうど隊長は副隊長と隊長室で打ち合わせをしていた。近衛隊員はすぐ事態を報告した。
「国王派の残党のベーメンブルク侯爵か」
そう言ったきり隊長は黙ってしまった。
沈黙に耐えきれなくなって隊員が聞いた。
「どうしましょうか」
「王宮に行ってくる。しばらく待っていてくれ」
隊長は急ぎ王宮に行き、近衛長官に面会した。
長官に事態を報告。
「ベーメンブルク侯爵か」
こちらも黙ってしまった。
「どう対処しましょうか」
「待っていろ。公爵と王弟に聞いてくる」
長官は公爵執務室に向かった。
執務室には三人組が頭を付き合わせて手紙らしいものを見て難しい顔をしていた。
何となく事態を察してしまった長官である。
「あのう、ベーメンブルク侯爵邸に入れなくなったと屋敷の下働きから申し出がありました」
「なんと、入れなくなったとな」
「それは一大事だ」
「何があったのでしょう」
オーバーアクションの身振り手振りで驚く様子の三人組。
もう結果が見えてしまった長官である。ため息をついて一応確認した。
「それで屋敷に立ち入ってよろしいでしょうか」
「もちろんだ。貴族屋敷は自治だがそれは平時のことだ。異常事態であれば立ち入りして良いことになっている。立ち入って確認してみてくれ」
公爵がそう言うと王弟も侍従長も頷いている。
「では確認してきます」
「おお頼んだぞ」
長官が執務室を出ようとすると「暗黒剣」という呟きが聞こえた。
振り返ると三人は素知らぬ顔をして紙に視線を戻していた。やっぱりそういうことかと長官。
長官室に戻った長官。
「異常事態なので侯爵邸に立ち入ってよいと公爵が仰った。侯爵邸に立ち入って事態を確認してくれ」
「承知しました」
隊長が長官室を出ようとすると後ろからぼそっと「暗黒剣」という声が聞こえた。
近衛隊長は少し立ち止まったがやっぱりかと振り返らず長官室を出た。




