084 城壁の街 ロカーレ (11)
女王は転がる侯爵の首を確認してから執事長の方を向く。
「さて執事長さん、謀反の首魁は断首の刑に処しました。侯爵家は謀反で取り潰し。お仲間はいますか?」
「・・・いない。侯爵家単独で企てた」
「お仲間がいそうですが」
「いない」
「侯爵家が全責任を負うということですね」
「そうだ。全責任は侯爵家にある」
「なかなか仲間思いですね。良い執事長です。いいでしょう。全責任を侯爵家にとってもらいましょう。あの世でも侯爵に仕える事だ」
侍女長が執事長を断首した。
「侯爵家は軍を使わず片づけますか?」
「春人さん、ヒカゲとツキカゲを使って静かにお願いします」
「わかりました。ドラ二ちゃん、手紙を書くからもう一度ヒカゲ家に行ってくれる?」
ドラ二は役に立つのが嬉しい。尻尾を振っている。
「なんて書こうかな」
ヒカゲ・ツキカゲ家へ
侯爵の謀反は侯爵が女王様に刃を向けた事により確定し女王様が断首の刑に処した。ロカーレのアジトにいた侯爵家執事長も断首。
侯爵と執事長の死体はドラ二ちゃんが侯爵邸へ届ける。
侯爵家の下働きを除き静かに殲滅せよ。
侯爵家殲滅後門を閉じて引き上げよ。
○年○月○日
服部半蔵春人
「いいんじゃない」
夏の感想。
「春人さん、私も手紙を公爵に書きますので届けてください」
「いいですよ。ヒカゲに届けさせましょう。
女王が手紙を書く。
クラッセン公爵・クラウスナー王弟・セルヴァン侍従長へ
ベーメンブルク侯爵の謀反は侯爵が刃を余に向けたことにより確定し、断首の刑に処した。ロカーレのアジトにいた執事長も断首した。
侯爵家はヒカゲ・ツキカゲ家が静かに粛正する。共犯はいるだろうが追求はしない。
侯爵家の惨状について下から報告があったら驚け。犯人不明だ。
暗黒剣の噂が流れるのは構わない。
○年○月○日
女王 エカチェリーナ
「ドラ二ちゃん、また手紙をヒカゲに届けてね」
春人がドラ二に頼んでスカーフに手紙二通を巻き込んだ。
ドラ二ちゃんが尻尾を振りながらドラ二隠密を頭に乗せて飛び去った。
ドラ二は機嫌よくヒカゲ家に到着。すぐ当主を見つけた。
「お、また御館様から手紙かな」
前回同様、すぐヒカゲ・ツキカゲ家の主だった者を集めた。
「御館様からの手紙である」
ヒカゲ家当主が手紙を読み上がる。
手紙を読み終えた当主。
「侯爵家を静かに殲滅せよとの御下命だ。ツキカゲ家当主は侯爵邸におもむき、先発隊と合流、指揮をとり静かに殲滅せよ」
「おー」
「我らが命は御館様御一家のもの、御下命いかにても果すべし」
一同大声で唱和した。士気が上がる。
公爵への手紙はヒカゲ家から届けた。
同時にツキカゲ家当主が侯爵邸に向かう。ドラ二がついて行く。
侯爵邸に着いたツキカゲ家当主。
「侯爵家を静かに殲滅せよとの御下命だ。下僕、下女は意識を刈って裏門の外に並べておけ」
門を閉じ、見張りを残して館に忍び入る。
館の中はまだ侯爵不在、出入り口封鎖に気がついていないようだ。日常が館の中にはあった。
ヒカゲ・ツキカゲ家の者たちが物影から一人一人仕留めていく。下女、下男の類いは意識を失わせ、館から運び出した。
ドラ二は侯爵と執事長の死体を侯爵執務室に並べておいた。
「当主様、終わりました」
ツキカゲ家当主が報告を受けた。
「下働きの連中は裏門の外に並べておけ。門を閉じ閂をかけて引き上げだ」
裏門と表門からぱらぱらとヒカゲ・ツキカゲ家の者が出て最後の者が閂をかけて塀を飛び越えて街に消えた。
なお侯爵家長男は学園の寄宿舎であったが急死した。急病とされた。
一方、公爵は王宮で王弟と侍従長で密談中。
秘書が顔を出す。
「公爵様、女王陛下より手紙です」
渋い顔をして手紙を受け取った公爵。
三人宛なので揃って手紙を確認。
「要は何もするなと言うことだな」
「取り敢えず、近衛隊から報告があるまでは動かなくてよさそうです」
こちらは春人達。
「あとは誘拐犯だね」
放り込んでおいた誘拐犯を春人が連れてくる。
「おもてなし担当の冬がいないからどうしようかな。一応聞いてみるか。みなさん、誘拐は誰に頼まれましたか」
「・・・・」
「もう執事長は首と胴が生き別れになってしまいましたから遠慮せずにどうぞ」
「執事長だ」
「直接執事長があなた達に依頼したわけではないでしょう」
「執事長が商会の会長を通して依頼してきた」
「王子の居場所はどうしてわかったのですか?」
「商会の会長から聞いた」
「ああ、会長というのは逃亡させてくれるという会長ですか」
「そうだ」
「冬、冬はいないか。不便だな。しょうがない。行ってくるか」
春人が誘拐犯を一人連れて転移して行った。
すぐ太ったハゲ男と誘拐犯と戻ってきた。
「悪人といえば脂ぎった太ったデブのハゲ男か目の細い男が定番ですが、会長さんは期待を裏切りませんね」
夏に言われた会長。
「デブとかハゲとかは差別用語だ」
「それは失礼。では、標準的な体重より重く、髪の毛が少ない方、この誘拐犯はご存知ですね」
「ワシは知らん」
「そうですか。お友達でしょうに」
「夏、おもてなし担当の補佐が戻ってきた」
「ドラ二ちゃん、この方をおもてなしして」
ドラ二が首をかしげる。
「ボキッよ」
目を輝かせたドラ二、会長の脛を尻尾で叩く。ボキッと音がして会長は倒れた。
「い、痛い」
「あらら、どうしたのでしょうか。もう一度聞きます。この誘拐犯はご存知ですね」
「・・・・」
「ドラ二ちゃん、おもてなし」
ドラ二が会長に近づく。
「知っている。おもてなしはもう結構だ」
「今わかっていることは、侯爵の執事長が王子誘拐の依頼を会長さんにして、会長さんが誘拐犯に王子誘拐を依頼した。ということで間違いありませんか」
「ああ」
夏の追求は続く。
「具体的にどうやったのですか?」
「伝手をたどって若い男を南の国の王子付きの侍従として送り込んだ」
「その侍従が王子に「王宮の外に出かけた事が無いだろう。将来のために国内視察はどうか、手始めに何の問題もない国境のリーメスはどうか」と持ちかけてリーメスに来させて侍従の手引きで誘拐した」
「なるほどね。うまくやったわね」
「ああ、煩い王妃のいない間を狙ってぼんくら国王を騙し狙い通り展開したが、お前達は予想外だった。お前達さえいなければ上手く行った」
「夏、あとは侍従の事を秋人と冬に知らせて宿舎に戻ろう」
「そうね。隊長が心配するといけないから戻りましょう」
「春人さん、今日はいろいろありがとうございました」
「今日は盛りだくさんで大変ですが披露会が終わったらすぐリーメスに転移しましょう。早いほうがいい」
「そうですね。早ければ早いほど国際問題にならずにすみそうです」
夏が血の跡などを消してから春人達は転移で軍の宿舎に戻った。
待っていた隊長に会長と誘拐犯を夏が引き渡した。
「こいつらは王子の誘拐犯一味だ。取り調べてください。南の国の王子は救出した」
隊長にはわかった事を説明しておいた。
「披露会が終わったら王子と一緒にリーメスに向かう」
「陛下、早めに切り上げましょうか」
「いや、何かあったと思われても困るので予定通りで良い。ただ定刻で我々は下がる。後はよろしく頼む」
「承知しました」




