083 城壁の街 ロカーレ (10)
ドラ二ちゃんを春人達が見送った。
「さて、アジトの中に入りましょう」
春人が言うと待ってましたとばかり侍女長がアジトのドアをけ破る。乱暴な侍女長だ。謀反に頭が沸騰しているらしい。
春人が呼びかける。
「こんにちは」
「なんだ。話はついたろう。ドアをけ破る事はないだろう」
「ドラゴンを止める約束をしました。約束は果たしましたよ」
「犯罪者の風上にも置けないあくどいやつらだ。いくら欲しいのだ」
ゴス。
侍女長の拳が発言した男の腹に突き刺さる。男は胃液をまき散らしながら倒れた。
「ぼ、暴力おばさんめ」
ゴス。
五人いた誘拐犯のうち二人は侍女長にのされてしまった。
「謀反人の侯爵家の方はどなたです?」
侍女長が残り三人を睨んだ。
二人が一斉に一人を見る。
「あなたのようですね」
「・・・・・」
「返事が出来ませんか」
「お前らは何者か。俺達の上前をはねようとするのか」
言いながら男が短剣で侍女長に襲いかかる。目はドアを見ている。逃げようというわけだ。
ゴス。
侍女長の拳の三人目の犠牲者が出た。残り二人は手を上げた。
春人が全員縛り上げ空いている部屋に放りこんでおいた。
「お客が来るまで待っていよう」
春人が言うと三人殴り飛ばして落ち着いた侍女長がテーブルと椅子を出してお茶を淹れてくれた。
一方ドラ二はヒカゲ家に着いた。すぐ当主夫妻を見つけた。
「あなた、ドラ二ちゃんがお使いみたいよ」
「おまえ、ドラ一ちゃんとドラ二ちゃんの区別がつくのか?」
「え、あなたわからないの」
奥方に驚かれてしまった当主である。咳払いをして誤魔化した。
「御館様から手紙だ。主立ったものを集めてくれ。それからツキカゲの主立ったものを呼んでくれ」
配下の女性がすぐ部屋を出ていった。
「あなた、何でしょう」
「みんなが集ったら読もう。それと女王陛下の手紙もある。公爵家に届けてくれとの御館様のメモがついている」
御館様の手紙とあってすぐヒカゲ、ツキカゲの主立ったものが集った。
「御館様からの手紙だ。ヒカゲ・ツキカゲ家宛だ。読むぞ」
ヒカゲ家当主が春人の手紙を読み上げた。
「御館様からの御下命だ。すぐ取り掛かる」
「おー」
「我らが命は御館様御一家のもの、御下命いかにても果すべし」
一同大声で唱和した。初めての御下命らしい御下命だ。意気が上がる。
「20人、ドラ二ちゃん様とベーメンブルク侯爵邸だ。侯爵は今は在宅だ。10人で裏門、表門を制圧、門番と替われ。訪問者は追い返せ。残りの10人は追い返した訪問者を尾行。行き先を突き止めろ。人手が足りなければ随時補充する。公爵邸には手紙を2人でお届けしろ。届けたら侯爵邸に寄って首尾を確認、戻ってきてくれ」
ヒカゲ・ツキカゲ家は常在戦場である。すぐドラ二を案内する。
「ドラ二ちゃん様こちらです。私についてきてください。目立つといけないのでばらばらに行きます」
案内の影が走り出す。その上をドラ二が飛んでついて行く。残りの19人は経路を変えてばらばらに走り出した。公爵邸に手紙を届ける二人も走り出した。
ヒカゲ・ツキカゲ家は貴族街の外れだ。貴族の屋敷はすべて近くだ。もちろん侯爵邸も近くにある。すぐ到着した。
影が直ちに正門と裏門を制圧し、門番に変装して門を固める。
館の外回りで働いていたものは意識を失わせ縛って小屋に集めておく。
建物の玄関、裏口など出入り口はすべて塞いだ。
ドラ二隠密が邸内に入った。ドラ二が映像を春人達に中継する。女王が映像をみて侯爵が執務室に一人でいる事を確認。ドラ二隠密の手引きでドラ二が窓から執務室に入り直ちに春人の元に侯爵と一緒に転移した。
侯爵は座っていた椅子が無くなってストンと尻餅をつく。
「うわ。どうしたんだ」
「こんにちは、侯爵様」
腰を打った侯爵はまだ立ち上がれない。
「お前は、侍女長」
「そうですよ」
「ここは何処だ?何故儂はここにいる?」
「ロカーレですよ。侯爵様の手配した南の国の王子誘拐犯のアジトです」
「なんの事だ。知らない」
「知らない筈はないでしょう。侯爵家の執事長さんが教えてくれましたよ」
「ロカーレと言ったな。こんな外れに執事長がいる筈がないだろう」
「そうですか。ではご対面といきましょう」
縄を打たれた侯爵家執事長をドラ二が足で掴んで飛んで運んできて侯爵の前に落とす。
「お、お前」
「・・・・・・」
執事長は執事長と思われると侯爵のお為にならないと無言であったが侯爵はうっかりお前と声を掛けてしまった。
「主従の麗しいご対面ですね」
「そ、そんな男は知らん」
「もう遅いですよ」
「侯爵」
後ろから呼びかけられた侯爵。後ろを振り向くと女王と少年がいた。
「女王・・・」
「南の国の王子を誘拐し、私を退位させ王に就こうとした陰謀は潰えた」
「くそ。まだまだ。お前をやってしまえばいい」
侯爵は持っていた短剣を抜き女王に向かって突進した。
「謀反確定、断首の刑に処する」
女王が呟き、女王の手に暗黒剣が握られる。
「姫様。私が」
侍女長の剣が一閃し侯爵の首が飛んだ。




