082 城壁の街 ロカーレ (9)
誘拐犯達、誘拐した王子が見当たらなくなり、表にはおかしな連中がいるので裏口から逃げようとする。
裏口のドアは開いた。しかし先頭に立っている男が先に進まない。
「何をやっている。早く出ろ」
「出られない」
「外が見えるだろう。何で出られない」
「わからない」
「どけ」
後ろの男が先頭の男をどかして外に出ようとする。
「出られない」
交代でやって見るが誰も出られない。
「王子は一階に降りて来ないで消えた。だとしたら王子を閉じこめていた部屋の窓からなら脱出出来るかも知れない」
誘拐犯は二階の王子を閉じこめた部屋になだれ込んだ。
二階の窓から飛び降りるつもりだ。
「いくぞ」
だが出られない。
「くそ、一階の裏口と同じだ」
「おや、皆さん、二階の窓からこんにちはですか」
誘拐犯は窓の鎧戸を閉じた。
「屋根裏の天窓だ」
男達が屋根裏にはい上がって天窓を開ける。
外を見ると天窓の側でミニドラゴンが太い魔物の骨をバリバリと音を立てて食べている。チラッと男を見て涎を垂らした。
男はそっと天窓を閉めた。
「ダメだ。外にはミニドラゴンがいて太い魔物の骨をバリバリと齧っていて、俺を見たら涎を垂らした」
「どうする」
「王子を二階の部屋から誘拐した連中と交渉しよう。やつらは王子を誘拐したのだから同業者だろう。同業者なら交渉の余地がある」
「それ以外ないな」
打ち揃って一階に降りてドア越しに呼びかける。
「外の人、王子は返してくれ。そうすればお金を払う」
「身代金というわけか?」
「やっぱり同業者か」
「中の人、王子はすでに手に入れた。こちらが王子の親と交渉する。だから貴殿らと交渉する意味がない」
「待て、お前らも同業者だろう。この街の有力者を知っている。この街から逃げられるぞ」
「へえ。だれだ」
「この街の商会の会長だ」
「商会の会長位ではこの街を出られるだけだ。その先の保証がない」
「しょうがない。事情を話そう。これは王都の貴族からの依頼だ」
「なんで貴族が出てくる」
「女王に、退位すれば王子を南の国に返すと持ちかける。退位しなければ王子は返さない。南の国と戦争になる。誰しも戦争は避けたいところだ。だから女王は退位する」
「公爵や王弟がいるだろう」
「女王の命を助けるのと引き換えに隠居してもらう。事実上失脚だ」
「それで誰が次期国王になるのだ」
「それは国王派から選出する」
「国王派はドングリの背比べ状態だろう」
「これを行なった者が頭一つ抜け出る」
「なるほど。身代金は取るのか?」
「戦争になったら元も子もないので南の国からは取らない。退位する女王の財産を頂く」
「何処からかとらないと元が取れないか」
「そうだ。誘拐にも金がかかっている」
「それで誰がこの陰謀を考えたのだ」
「侯爵だ」
「そこに侯爵家の者がいるか?」
「いる」
「侯爵家の名前は?」
「言えるか」
「では交渉は決裂だ。お前らは何も得る事が出来ないでここが墓場だ。ドラゴンがお腹を空かせている。俺達は独自に王子の親と交渉する。じゃあな」
「待て、待て。それがしは侯爵家の者だ」
「侯爵家の者だとしても下っ端だろう。下っ端の言うことは信じられない」
「それがしは執事長だ。この計略が成功すれば侯爵は国王だ。お前達を取り立ててやろう」
「侯爵家の執事長か。ドラゴンは止めてやろう。それで貴殿が仕える侯爵家の名前は?」
「ベーメンブルク侯爵だ。教えたのだから王子は返してくれ。返してくれれば侯爵は国王だ。女王の財産が手に入る。お前達も仲間に入れてやろう。分け前をやろう」
「少し待っていろ」
外で王子と待っている女王に聞く。
「聞こえましたか?」
「ええ」
「ベーメンブルク侯爵とは?」
「国王派の侯爵です」
「こういう事をたくらみそうですか?」
「はい」
「軍を動かして目立つと人心が動揺する。初動は目立たないようにヒカゲ、ツキカゲ家にやってもらおう。ドラ二おいで」
ドラ二が屋根から飛んできて春人の肩に止る。
「手紙を書くからヒカゲ家に届けてね」
「キュ」
春人がテーブルと机を出す。
「ええと」
ヒカゲ・ツキカゲ家へ
現在ロカーレに滞在中。
南の国の王子が誘拐されロカーレのアジトにいたのでアジトから救出した。アジトには誘拐の実行犯とベーメンブルク侯爵の執事長がいた。執事長によればベーメンブルク侯爵が誘拐した王子を使い女王を退位させる陰謀を企んだとの事。
取調べのためドラ二がベーメンブルク侯爵を女王の元に転移させるのでドラ二をベーメンブルク侯爵の元に案内してください。
ドラ二が侯爵を確保し、転移させた後、侯爵の屋敷は封鎖せよ。誰も屋敷から出してはならない。訪ねて来た者は屋敷の門番をよそおい追い返し、訪問者を追跡、何処の家のものか突き止めよ。
人心を動揺させてはいけない。すべて隠密裏に行なえ。
ドラ二がてんとう虫型情報収集探察装置秋3号、愛称ドラ二隠密を連れて行くのでよろしく。
ちなみに1号はマロン隠密、2号はドラ一隠密だ。ドラ二隠密は羽に星二つ、ドラ一隠密は羽に星一つ、マロン隠密は七つ星だ。
○年○月○日
服部半蔵春人
「あれ、途中から命令口調になってしまった」
「良いんじゃない。御館様らしくて」
夏が申しています。
「春人さん、私も手紙を書きます。公爵に届けてください」
「いいですよ。ヒカゲから届けてもらいましょう。この机を使ってください」
女王が春人と交代で椅子に座るとすぐ侍女長が紙とペン、インク壷を出した。
クラッセン公爵・クラウスナー王弟・セルヴァン侍従長へ
ベーメンブルク侯爵が謀反。
南の国の王子を誘拐し、王子を使って謀反する計画だったようだ。
現在王子は春人様が誘拐犯から取り返した。親元には本部長を特使として送った。
侯爵を尋問するために私の手元に侯爵をドラ二ちゃんが転移させる。侯爵の屋敷はヒカゲ・ツキカゲ家が封鎖する。
他に動きがないか隠密裏に良く観察、疑いがあれば監視するように。
なお、現在ロカーレに滞在中。
○年○月○日
女王 エカチェリーナ
女王からの手紙はヒカゲから公爵に届けてもらうようにメモを付けた。
「ドラ二ちゃん、手紙をヒカゲ家に届けて、ベーメンブルク侯爵の元にヒカゲに案内してもらって、侯爵を転移させてきてね」
「キュ」
「可愛いわね」
夏がドラ二を撫でている。
手紙二通をドラ二のスカーフに巻いた。
「頼んだよ」
ドラ二は頭にドラ二隠密を乗せ、大空へ舞い上がって一瞬で消えた。




