079 城壁の街 ロカーレ (6)
春人とマロンを抱っこした夏、こちらも裏街に転移した。
「二人で歩くのは久しぶりね」
「こっちにきてから忙しかったからな」
「でもみんな一緒にいられた」
「そう考えるとこっちも悪くないな」
「断然こっちの方がいい」
二人がいるのは広場から軍の駐留施設を挟んだ奥の方だ。
何軒か店がある。
「野菜を売っているわね」
「ここは広場から遠いから広場の市場で仕入れて近所の人に売っているのかもしれない」
「こっちは日用品だわ」
「遠くの市場に出かけなくても毎日の生活には困らないかな」
「さすがに肉はなさそう」
「古着屋はある」
「古着は腐らないから」
手に子供服を持った女性が古着屋に入っていく。
しばらくして出て来た。さっきと柄が違う。
「小さくなった子供服を持ってきて大きな子供服を持って帰っているみたいね」
「小さい服を売って、少しお金を足して大きい服を買っているのか」
「そうみたいよ」
「なかなか良くできたシステムだな。でもだんだん服が傷むだろう」
「そこは金持ちが新品を買って少し着て古着商に売るのかもしれないわ」
「金持ちではデザインが違うだろう」
「この辺の小金持ちかも」
「庶民の金持ちだな」
古着屋の前を通り過ぎてゆっくり歩く春人たち。
「しかしたまにはイベントが発生せずのんびり歩くのもいいな」
「そう言うのをフラグが立つっていうのよ」
「まさか。そんなにトラブル体質では無かろう」
「どうかな。今すれ違った人品骨柄卑しい男が持っていた服、あれは貴族の服のようだわ。古着屋に入った」
「フラグが・・・・」
「この辺の古着屋に持ち込まれる服ではないわね」
「トラブルの予感が・・・」
「男が出てきた」
「足下を見やがって」
男は粗末な服を持っている。
「フラグが回収されてしまったようだ」
「マロン、男を尾行」
マロンは夏に言われてポンと夏から飛び降りて嬉しそうに尻尾を振って男を尾行していく。
「では古着屋で事情聴取だ」
夏と古着屋に入る春人。
「こんにちは」
じろっと古着屋の店番が二人を見た。頭のはげた小太りの親父だ。
「ちょっとお伺いしたいのですが」
「お前らの来るような店ではない」
「今し方この店では扱わないような貴族の服を持ち込んだ男がいますね」
「知らん。それにうちは古着屋だ。古着を持ち込むのは当たり前だ」
「先ほど貴族の服を持ち込んだ男は粗末な服を持って足下を見られたと呟いていたわ」
「下取りが安いのは当たり前だ」
「男は不当に安いと思っているようでしたよ。でも事情があって値段の交渉が出来なかったのでしょうね」
「どんな事情だったのかな」
「おまえらに関係はない」
「事情が盗品だったら大変ですよ。薄々知っていたんでしょう。だから安く買いたたいた」
「男も後ろ暗いから買いたたかれてもぶつぶつ言うだけね。小銭を握って店を出たわ」
「知らない」
「今、手のものが男を尾行しているわ。男の犯罪が明らかになるとこの店もどうなることか」
「これだ」
店番の男は店主らしい。カウンター下から服を取り出した。
「いくら男に払いましたか?証拠の品として同額で買い取りましょう」
「金貨一枚」
「ご冗談を。上乗せするとあなたも故買屋さんになってしまうかも知れないわよ」
「・・・大銀貨一枚」
「いいでしょう。夏、支払って」
「はいはい」
大銀貨を支払って服を手に入れた春人と夏。広げて見る。
「子供用だわね」
「そうだね」
「男の子の夏物だね。ただ王都では見かけないデザインだわ」
「それは南の国のデザインだ」
「店主、よく知っているね」
「ここは南の国に近いからな。子供のは見た事がないが、大人の服は見た事がある。それは大人の服と似ているところがある」
「これを売りに来た男は知っているか?」
「名前は知らないが、時々は見かける」
「家は?
「それこそ知らない」
「嘘ではないようね」
「嘘ではない」
「何かあったらまた来るわ」
「二度と来ないでくれ」
「欲を出さずにぼちぼち商売をする事をお勧めする」
「・・・・」
春人が服を収納しマロンを夏と二人で追う。マロンの位置はわかるから慌てず騒がずゆっくりと歩いていく。
「どんどん奥に入っていくね」
「建物もだんだんグレードが下がるわ」
「もう少しでスラムだな」
「ギリギリの所だわ。スラムほどひどくないが一般住宅地よりひどい」
マロンが尻尾を振って二人を待っている。
「おっと、ここだな」
「もう少しで廃屋ね」
「そこまでひどくないだろう。陋屋でどうだ」
「あばら屋ぐらいじゃない」
「そのくらいで手を打つか」
「囚われた子供がいると手が足りないわ」
「一気に救出するならいいがじっくりとやるには確かに手が足りない」
「取り敢えず誘拐のようだから面倒は本部長に押し付けよう」
「連中は何をしているかな?」
「若い女性店長さんの魔道具屋を出たところね」
「よしよし、丁度良い」




