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服部家一家 異世界に召喚される  作者: SUGISHITA Shinya


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077 城壁の街 ロカーレ (4)

 髭面と美人秘書の一騎打ちが控えているのでわいわいと楽しそうな裏街の食堂である。


 ひと足先に食堂に入った冬たちが最初に食べ終わった。白湯が出てきたのでゆっくりと飲む。


「楽しいわね。街の人はこういう娯楽をしているのかしら」

 会長のご下問に冬が答える。


「普通は覚えていろよで終わるんじゃないかな」


「おおそうだ。嬢ちゃんはよく知っているな。吠える奴は弱い。覚えていろよと言って逃げてしまう」


「髭面は逃げなかったな。だから髭面に賭けたんだが」


「逃げたくても子供に表で待っていると言われたら逃げられんだろう。おれは秘書さんに賭けた」


「あ、間違えたかな。おい、髭面さん、こっちでは見ない顔だな。どっからか流れてきたか。俺はお前に賭けたんだからしっかりやれよ。女に負けたんじゃ男が立たない」

「夜も男が立たずだ」


 どっと笑う客。髭面は地元の人でないようだ。地元の客が気楽にからかっている。


 胴元が声を張り上げる。

「みんな食事は終わったか?」

「おー」


「それじゃ始めるぞ。表に出ろ」

 ゾロゾロと外に出る。


 何事かと野次馬が集まってくる。


「これから試合が始まる。こっちのコーナーは美人秘書さんだ。向こうのコーナーは髭面だ。只見はいけないよ。賭けてくれ」


 胴元はちゃっかりと集まってきた野次馬からも賭け金を徴収した。食堂の客が観客を整理している。


 通りを塞いで戦う場所を広く取り周りは観客だ。


「では始めるぞ。これは試合だ。何があっても自己責任だ。たとえ怪我をしても死んでも試合中の出来事だ。相手に罪はない。ルールは武器は無しだ。どちらかが降参、または再起不能になった時、勝負あっただ。逃げることは許さん。双方とも異存はないな」


「ない」

 テリーサ秘書がキッパリと答える。


「いいねえ。髭面はどうだ」


「も、もちろん異存はない」

 いつもは薄暗いところで脅すのに試合になってしまった。逃げようにも周りを囲まれて逃げられなくなってしまった。だいぶ様相がおかしくなったと髭面。しかし、相手はババアだ。勝てるだろうと踏んだ。仲間も子供ともう一人のババアだ。勝っても後で襲ってこないだろう。賭け金を貰うのは俺だと皮算用した。


「審判は織物組合組合長の俺が務める。双方用意はいいか。では始め」


 髭面がんばれ、秘書さんがんばれという掛け声が一斉に聞こえ始める。


 髭面とテリーサ秘書が試合場に出て行く。


 髭面が腕をぐるぐる回す。秘書はスタスタと髭面に近づいて行く。


「な、なんだ」


 秘書は止まらない。たまらず髭面が殴りかかる。すっとかわしてボディーを軽く一発殴る秘書。


「ウッ」

 数歩下がった髭面。


「どうしました。ぶちのめしていただけるんじゃなかったでしょうか」


「髭面、お前に賭けたんだぞ。負けたら承知しないからな」


「ほら、あなたに期待している人がいるようですよ」

「くそ」


 髭面はまた殴りかかった。


 秘書が男の腕を取って向かってくる男の勢いを利用して投げ飛ばした。髭面は背中から地面に叩きつけられた。


 観客は静まり返った。力量の差が誰の目にも明らかになった。


「降参しますか。ルールでは降参すれば勝負あったで終わりになります」


 髭面が起き上がった。

「油断しただけだ。もう我慢ならねえ」

 髭面の言葉は勇ましいが足が前に進まない。


「我慢なさらずにどうぞ」

 誘われても髭面は前に出られない。


「じっと我慢ですか。では行きます」

 またスタスタと髭面に向かう秘書。髭面は両手を胸の前で握り締めた。


 秘書がポンとまた腹を打つ。ガードも出来ず避けることもできず、なすすべもなく腹を打たれてしまった髭面。


「どうしました。何回も腹を打たれると後で効いてきますよ」


「くそ」

 髭面の目が血走る。隠し持っていたナイフを抜いた。


「それはルール違反です。失格になりますよ」

「うるせえ。喰らえ」

 ナイフで突きかかる。


 秘書がナイフをかわしてナイフを持つ腕を取って振った。バキッと音がして肘の関節が破壊された。

 髭面が悲鳴を上げた。


 審判が二人の間に入る。

「髭面の反則負けだ」


 シーンとしてしまった観客。


「秘書さんの勝ちだ」

 三分の二が気落ちした。三分の一は気勢が上がる。


「よし、分配だ」

 賭け金を三分の一に配って、胴元も自分の分をとった。


「これは勝者の分だ」


 革袋をもらったテリーサ秘書。

「みんなで飲んでください」

 中も見ず食堂の親父にそのまま渡した。


 気落ちした三分の二も気勢が上がる。


 肘を砕かれうめいて転がっていた髭面、地面に落ちていたナイフを拾うとテリーサに突っかかっていった。

 テリーサが半歩横によけると転んでしまった髭面。


「おい、試合が終わって刃物を持ち出したらそれは犯罪だ。ひっとらえろ」


 たちまち髭面はぼこぼこにされる。殴ったり蹴飛ばしたりしているのは髭面に賭けていた連中らしい。


「おい、軍に届けてくるから酒は残しておけよ」

「大丈夫だ。取っておく」

 食堂の親父の返事を聞いて男達が髭面を引きずっていった。


「姐さん、試合が終わってからこんな事になってすまなかった」

 審判の組合長がわびる。

「いいですよ」

「さぞかし名のある姐さんとお見受けした。名前を聞かせてくれ」

「エカ商会の秘書のテリーサと申します」


「今日はテリーサ姐さんのおごりだ。みんな飲むぞ」

「おー」

 ぞろぞろと食堂に入っていく。


「では私たちはこれで」

「また来てくれ。いつでも歓迎する」

「はい。機会があれば」


 三人とドラが去っていく。


「強い姐さんだったな」

「あの子供ももう一人の姐さんも強そうだった」

「それに子供の肩に乗っていたトカゲも強いな。あれは」

「姐さん二人と子供とトカゲで無双か。どうりで裏街をぶらぶらと歩けるわけだ」

「俺達も飲もう」


 軍に引きずられていった髭面。軍は厳戒態勢なので報告がすぐ隊長のもとに行った。


 姐さん二人とトカゲを連れた子供に髭面が絡んで姐さん秘書と試合になり、髭面がルール違反をしてナイフでかかっていったと報告を聞いて、大変悪い組み合わせだと渋い顔の隊長。


「髭面は絶対逃がすな。余罪があるだろう。すべて洗い出して極刑に処せ。抵抗したら国家反逆罪だ」


 要は死刑にしろとの事である。報告に来た小隊長は首を捻りながら髭面を確保している場所に戻る途中で三人組の正体に気がついた。隊長は正しい。やっぱり極刑だと思った。

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