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服部家一家 異世界に召喚される  作者: SUGISHITA Shinya


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076 城壁の街 ロカーレ (3)

 鍛冶屋を出て裏通りを歩いている冬たち三人とドラ。


 前からふらふらと歩いてくる男がいる。

 おばさんにぶつかった。

 盛大に転んだ。


「痛え、痛え」

 すぐ連れの男が叫ぶ。

「あ、ひでえなあ。ぶつけられた」


 あちこちから人が出てくる。

「みんな、この男にぶつけられて、ダチが転んで怪我をした」


「あのう、私は男ではありませんが」

 とぶつかられたテリーサ秘書が教えてやる。


「あれ、女か」

「どうして男と口から出たのでしょうか。いつもやっているのですか。つい習慣で言ってしまったとか」


「そんな事はない」


「当たり屋さんだよねえ」

 冬が足先で転んだ男をつついている。


「ちがう。ちがう」


「それで何処が痛いの?」

「腕を骨折した」


「へえ、何処?」

「ここだ」

 右腕を男が出す。


 冬が手を取って振って見る。痛がらない。転んだ男、少しして気がついて、痛え、痛えと言い出した。


「骨折していないようだけど」

「いや骨折した。治療費をよこせ」


「骨折を知らないようだね。教えてやろう」

 冬が転んだ男の腕をポンと手刀で叩く。

 ボキッと音がした。


 男の手を取って振る。

「うわ、痛え、痛え」


「骨折だからね。教えてやったのだから授業料を払え」

「は、払えるか。この暴力女」


「あたし、子供」

「この暴力子供」

 それはそうかと思って律儀に言い直した当たり屋。


「あちらの骨折を教えてもらった男はお仲間のようね」

 テリーサ秘書が転んだ男と一緒にいた男に声をかけた。

「・・・・」


「授業料が払えなくて困っているようよ。立て替えたらどう?それとも衛兵を呼ぶ?あ、残念。お友達の衛兵は死刑になったわね。では軍を呼ぶ?」

「いや、呼ばない」


 男が巾着を出して大銀貨一枚を取り出した。

「これで勘弁してくれ」


 冬がやってきて授業料をせしめた。


「奇麗に折れているから副木でもしておけば治るよ。それかポーションだよね。いる?」

「いくらだ?」

「金貨一枚」

「いらない」


「兄貴ー」

「副木をしとけば治る」

 当たり屋一味は兄貴が肩を貸して歩いて行った。


「兄貴、何でお金を渡したんですかい」

「あのガキの右肩に背中から顔を覗かせていたものがいたろう」

「ああ、トカゲがこっちを見ていたっすね」


「あれはトカゲではない」

「何ですかい」


「ドラゴンの子供だ」

「ドラゴンだかなんだか知らねえけど子供でしょう」


「昔年寄りに聞いた事がある」

「なんて」

「猟師が山で怪我をしたトカゲを拾った」

「それで」

「家に持って帰って明日には皮を剥ごうと繋いでおいて寝てしまった」

「それから」

「朝、猟師が起きてこないので婆さんが見に行った」

「そしたら」

「男は死んでいた。怪我もなかった。だが男は枯れていた」

「枯れていた?」

「干物のようだった。窓は壊れていた」

「そして」

「トカゲはいなかった」


「トカゲが何かしたのですかい」

「男の魔力、生命力をすべて奪って怪我を自分で治したらしい」

「・・・・」


「あれはドラゴンだ。ドラゴンと一緒にいて元気なのは、あのガキが膨大な魔力、生命力を持っているに違いない。俺達なら一緒にいるだけで枯れて死んでしまう。あのガキはドラゴンの親かそれ以上だろう。ドラゴンの子供もガキも大変危ない」


「へえ。骨折り損というやつで」

「そうだ。少し我慢だ。骨継ぎはすぐそこだ」


「儲けたわね」

「エカちゃん、あれは当たり屋だよ。ぶつかって転んで怪我をした振りをして治療費を取るんだ」


「彼らはまたやりそうだわね?」

「あ、教えておかなくちゃ」


「おーい、今度当たり屋をやったら二人とも四肢が複雑骨折だよー。一級ポーションでも治らないよー」


 びくっとして足が止った当たり屋二人、慌てて逃げる。

「兄貴、走ったら痛え、痛え」の声が聞こえる。


「もう大丈夫。二度と当たり屋はできない」

「そうみたいね」


「エカちゃん、お腹空いた」

「おやつも食べなかったし少し早いけど昼食にしようか」

「そうしよう」


 冬が当たり屋事件の野次馬の方に行った。

「おじさん」

 言われた親父、数歩後退って身構えた。


「何だ」

「食堂がどこにあるか知ってる?」

「ああ、この先の最初の十字路を右に曲がってすぐだ」

「ありがとうね」

 子供が離れて行く。ほっとした親父であった。


「エカちゃん、あっちだって」

 冬とドラ一、女王と侍女長で歩いて行く。すぐ十字路になった。


「右に曲がってすぐと言っていたけど。あった、あった」


 いかにも裏町らしい大衆食堂だ。ドアも窓も開けっぱなしだ。


「会長、このような店は初めてですね」

「そうだな。大丈夫かな」


「エカちゃん、こういう店は意外と美味しいんだよ」

 冬に言われてままよ、これも貴重な経験だと冬について中に入る会長と秘書である。


 お昼にはいくらか早かったようで空いていた。

「いらっしゃい。空いているところに座っていな」

 おばさんに声をかけられた。こっちのおばさんはやや体格がいい。つまり太っている。


「ドラがいるんだけどいい?」

「おとなしそうだね。悪さをしなければいいさ。面倒は自分でみな」

「うん。わかった」


「子供も大人の定食でいいかね」

「いいよ」


「待っててくんな。定食三つ」

 おばさんが奥に向かって声をかける。

「あいよ」

「旦那なんだよ」


「メニューはないのでしょうか」

 エカちゃんが聞いた。


「うちはそんなものはないさ。定食だけだよ。そのかわり毎日違う」

「そうですか」


「もう少しすると働いてた人がどっと来るから忙しくなって違うものを頼まれたらとても追いつかないからね」


 少し待っていたら定食をおばさんが運んできた。

「はいよ。代金と引き換えだよ。一人小銀貨一枚だ」


 秘書のおばさん、いつかは金貨を出したが経験を積んだので小銀貨3枚を食堂のおばさんに渡した。

「まいどあり」


 定食は、スープ、厚い焼いた肉、パンだった。ナイフと二股フォーク、スプーンがついていた。


「いただきまーす」

 冬がナイフで肉を少し切ってドラ一に食べさせる。尻尾を振っているので美味しいのだろう。


 それを見てエカちゃんとおばさんも食べ始める。


 どかどかとお客が入ってきた。みんな職人のようだ。


「今日はなんだ。別嬪がいるな」

 髭面の男が舌なめずりせんばかりにエカちゃんとおばさんを舐めるように見る。


「髭面のおっさん、キモい」

「なんだと。ガキのくせに」


「はいはい、喧嘩するなら髭面は出ていきな」

 食堂のおばさんに一喝されて髭面は黙ってしまった。


 髭面が椅子に座ろうとしたら椅子が動いてしまった。男は尻餅をついた。


「なんだい。しっかり座りな」

 お客から笑い声が聞こえる。

 もちろん、冬もニコニコしている。


「くそ。ガキ、何かしたろう」

「髭面のキモ男さん、今は食事中。店に迷惑をかけちゃダメだよ。みんなの迷惑だ」

 そうだそうだという声が上がる。


「ほら、みんなそう思っているよ」

「くそ、覚えていろよ」

「心配ないよ。食事が終わったら表で待っていてやるよ」


 なんだかおかしいと思った髭面だが引くにひけない。

「待ってろよ。ぶちのめしてやる」


「おい。賭けだ。髭面と子供の一騎打ちだ」


「待った。髭面のお相手は被害者の私がしましょう。商会の秘書をしています」


「よし、確かに子供では大人気ないな。髭面と美人秘書の一騎打ちだ。さあ賭けた、賭けた」


「俺は髭面」

「俺は秘書だ」

 胴元になった男が賭け金を集め始める。


「俺は秘書さんだ」

 食堂の旦那が奥から顔を出した。


「しょうがないねえ。店の外ならいいか。みんなおっぱじめる前に定食を食べておくれ」

 食堂のおばさんが声を張り上げる。


「わかった。みんな食うぞ」

「おー」


 職人たちはノリがいい。おばさんが満員のお客に定食を次々と配る。


「ちえ、殴って再起不能にしてやろうと思ったのに」

 冬が髭面を見て物騒なことを言う。

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