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服部家一家 異世界に召喚される  作者: SUGISHITA Shinya


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075 城壁の街 ロカーレ (2)

 翌朝、兵が女王の部屋をノックする。

 侍女長が出る。


「お湯と拭き布をお持ちしました」

「はい、ありがとう」

 受け取ってドアを閉めた。


「何?」

「お湯と拭き布が届きました」

「そう。軍の施設でも最小限のことは行われているのね」

「そうみたいです。もっとも将校が泊まる事もあるのでしょうから当たり前かも知れませんが」


 部屋には冬とドラとマロンがいる。

 すでに女王達は冬にクリーンをしてもらっていた。


 侍女長が呟く。

「お湯をどうしましょう」


「使ったようにすればいいのね」

 冬がそう言ってお湯に手をかざす。お湯だけが空中に浮き上がる。


 ドラが浮き上がったお湯に頭から突っ込んで通り抜けて遊んでいる。しばらく遊んだら冬が拭き布で拭いてやる。


 お湯は静かにたらいに戻した。

「はい、お湯も拭き布も使ったよ」

「確かに」


 少ししたら兵が朝食の用意が出来ましたと呼びに来た。


 廊下に出ると春人達と本部長も出て来た。揃って一階の食堂へ。


 朝食は質素だ。パンと豆の入ったスープと野菜と一角ウサギの肉の炒め物だ。


「へえ、豆と肉と野菜があるね」


「はい。軍隊では野菜があるときは野菜を食べる事にしています。時には食べられる野草を使っています」


「それは良い事だ。豆と野菜が足りないと体調が悪くなる」

 春人に褒められた隊長。炊事兵も嬉しそうだ。


 軍は経験で脚気にならない食事に気がついたのだろう。優秀だ。


 もちろん味は普通だ。

 女王達も春人が褒めたから食べる。


 食事が終わって、隊長から今日の予定の再確認と連絡事項があった。

 曰く、夕方から広場に面した宿で披露会なので日が高いうちにここに戻って欲しい。軍は三分の二は日の出とともに出発した。衛兵が逮捕、処刑されて少なくなったので軍から20人ほど補充している。20人は当面駐留する。昼食は用意するが希望があれば外食でもいい。


 もちろん女王は外食を希望した。


 朝食が終わり、春人一家と女王たちは街へ出た。セバス達は隊長達と打ち合わせのため残っている。


 軍の施設は街の中心にある。元々砦だからね。

 軍の施設を出るとすぐ広場だ。兵が警備している建物がある。披露会の会場の宿だろう。


 もちろん広場は重点警備地区だ。あちこちに兵がいる。人出も少ないようだ。


「これはつまらないな。お忍び平民ごっこと同じだ」

 春人が言うと女王も頷く。


「さてどうしようかな」

「お父さん。裏街に行って見よう」

「いいよ。別れるか」

「じゃあ冬とマロンとドラはエカちゃんとおばさん。秋ニイは愛人おじさんとね」

 言うが早いか、冬が消えた。


「僕は、本部長とか」

 げんなりした様子の秋人だったが消えた。


 エカちゃんとおばさんと転移した冬。

「ここは?」

「ロカーレの裏街の小さい広場だよ。なにもないけどね。あっちに行こう」


「そうだ。マロンはお父さんとお母さんのところ、ドラ二は秋ニイのところに行ってね。連絡係だよ」

 マロンとドラ二が転移して行った。


「みんな行ったね」

 夏が言ったすぐ後にマロンが戻ってきた。

 なになに、連絡係でドラ一が冬、ドラ二が秋人か。

「では僕らも行こう」

 春人と夏、マロンが広場から消えた。


 少し人通りのある裏通りに進む冬たち。

 あちこちから音がする。


「何の音だろう」

 エカちゃんが不審がる。首を捻るおばさん。


「この辺は物を作っているんだよ。叩く音は鍛冶屋だよ」

「冬ちゃんは良く知っているね」

「まあね。鍛冶屋に行って見る?」

「行って見よう」


 鍛冶屋と言う言葉は知っている、刃物などを作る事は知っているが、具体的にどんな場所でどんな作業をして製品を作っているかは知らない女王と侍女長であった。

 王都では絶対行けない現場である。興味津々の二人だ。


 音のするほうへ進む冬。

「鍛冶屋はここだね。こんにちは」


 店のような作りだ。いくらか刃物も置いてる。しかし声を掛けても誰も出てこない。


「入って見よう」

 三人で奥に進む。


 奥は土間になっている。鋏のようなもので赤くなった塊を挟んで鉄床の上で向かい合った二人で叩いている。


 しばらく三人で見ていたら叩いている人がやっと三人に気がついた。


 親方らしい人が声をかける。

「何だ」

「店の前でお声掛けしましたが返事がありませんでしたので音のするほうに来て見ました」

 おばさんが答えた。


「何か用か」

「鍛冶屋さんの仕事を拝見した事がありませんでしたので拝見させていただこうと」


「どう見ても同業者じゃないから見ても良いぞ」

「ありがとうございます。何をお作りになっているのですか」

「田舎町だからな、何でも作る。今は包丁だ」


 真っ赤に焼けた塊を叩き出した。平べったい長細い塊だ。包丁にするにはまだ厚い。


 少し赤味が薄れた頃、傍の熾に叩いていた板を突っ込んだ。


「おじさん、面白そう。冬にやらせて」

「いいが鎚が振れるか?」

「大丈夫だよ」


 親方の弟子から鎚を借りて振り回す。

「あぶねえ。わかったから振り回すな。じゃあやるぞ」


 親方と冬が叩き出す。リズミカルだ。

「驚いた。弟子より上手だ。弟子入りするか?」

「やめとく」

「そうだな」


「今度はエカちゃんやってみて」

「エカちゃん??」

「エカと申します。商会の会長をしています」

「へえ、大丈夫かい」


 冬が鎚をエカちゃんに渡す。

「振り回して見て」

 エカちゃんが振り回す。


「これはたまげた。今日はたまげる事が多い。じゃやるぞ」

 親方が燠の中から打っていた鉄を取り出す。

 親方とエカちゃんで叩き始める。

 途中でおばさんと替わる。


「弟子はいらねえな」

 親方が呟く。


 最後に親方が形を整えた。

「後は焼き入れと焼き戻しだ。後はやっとけ。一人でやるのも勉強だ。お前らはこっちだ」

 親方が弟子に言って冬達を店に誘った。


 店で椅子を出されて三人で座った。


「お前さん達は鍛冶に親戚でもいるのか」

「いないよ」


「何故あれだけ上手なのだ。それに三人は馬鹿力だ。会長さんとあんたは秘書さんらしいが、そんな人が馬鹿力の持ち主だなんて会ったことも聞いた事もない」


「エカちゃんもおばさんも鍛えたからね」


「そうかい。不思議だ。それはまあいい。この街は税金が高くなって夜逃げしようと思っていたところだ。そしたら軍が来ていままで税金だといって俺たちから強請りとっていた連中を皆捕まえて裁判して処刑した。税も元に戻すとの触れが出た」


「それは良かったです」

 エカちゃんはほっとした。


「なんでも女王様が来るそうだ。それでもって軍が先回りをして不正を掴んだらしい」


「しばらく軍が駐留するようですよ。その間にしっかりとした街の運営組織をつくらないといけませんね」


「秘書さんのいうとおりだな」


 ドラ一が飽きてきたようなので鍛冶屋を出た。

ゴールデンウイーク中に怠け者になってしまいました。しばらく隔日更新となります。

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