073 時間調整の日 (8)
春人が冬に聞く。
「それで何があった」
「でっかいクマとでっかいハチが集団で争っていた」
「そのとばっちりか」
「そうみたいだよ。近くの魔物がパニックになって走り出した。それに釣られて周りの魔物も一緒に走り出したということみたい」
「クマとハチはどうした?」
「マロンとドラがやっつけた。冬も手伝ったけど」
「森の向こう側には行かなかったのか」
「川があってクマが越境してきてハチと争いになったみたいだよ。川岸でやっていたから向こうには行かなかった」
「蜂蜜でも欲しかったのかな。ありがとうよ」
春人がマロンとドラを撫でてやると嬉しそうに尻尾を振っている。
「エカちゃんとおばさんは少し怪我したね」
女王と侍女長はあちこちから血を流している。少しどころではない怪我だ。かろうじて骨折はしていないが冒険者組合のポーションの一級一本では治りそうもない。
「治そう。ふゆふゆはあー」
「ワンワンワオーン」
「「キュ、キュ、キュー」」
「エカちゃんとおばさんの怪我は治った。あれ、おじさんの怪我も治ってしまった」
「いいよ。俺なんて」
いじける本部長である。
春人が服の破れを直した。
「ではお茶にしよう。・・・みんながいない」
夏と秋人は魔石回収に忙しい。魔石採取の目的は夏はお金、秋人は魔道具の材料である。使用人が手伝っている。
「がんばるねえ」
やむを得ず春人がテーブルと椅子を出した。
のろのろと三人が椅子に座った。
冬がジョッキを出して水らしいもので満たす。
「汗をかいたでしょう。水分の補給だよ」
緊張で気が付かなかったが言われてみれば喉が渇いていることに気づく三人。
一息に飲んでしまった。
「はい、どうぞ」
おかわりを三人のジョッキに注ぐ。
また一気に飲んだ。
「今度はお茶だ」
ジョッキ2杯の冬特製経口補水液を飲んで人心地がついた三人。ゆっくりお茶を味わう。
一時間ほど夏達は魔石回収に勤しんでいた。
冬は魔石取り出しは魔法で出来そうと思ったがせっかく目の色を変えて魔石、魔石とやっているから楽しみを奪ってはいけないと黙っていることにした。
夏達が戻ってきた。
「あれ、お茶している」
すかさずクリーンをかける春人。
「魔物は消していいか?」
「食べられそうなのは収納したからいいわよ」
春人がクリーンを草原にかける。魔物の死体も血も消えて元の草原に戻った。
「広範囲のクリーンなんてみたことも聞いたこともない」
本部長が呟く。
「「春人殿だから」」
女王と侍女長が呟く。
「おばさんはこれだから」
「お前、また先頭」
本部長は余計な一言を言うから先頭を仰せつかってしまった。
三人は元気が回復したらしい。
冬は使用人達にもジョッキ2杯の冬特製経口補水液を飲んでもらった。
「俺は?」
秋人が聞いた。
「喉が渇いている?」
「渇いていない」
「ならいらない」
「ではお茶にしましょう」
セバスが言って、テオとテアがテーブルと椅子を追加した。コレットがお茶を出し、ジーナがお菓子を出す。
「これは?」
「冬姫様に教わった煎餅というお菓子です」
初めての三人、煎餅を恐る恐る口にする。
「菓子といえば甘い物だと思っていましたがこれはこれでおいしい」
女王の感想である。侍女長も同様らしい。頷いている。
「おれは甘い菓子は苦手だったがこれならお茶の時にいいな」
本部長も気に入ったらしい。
「今日はここで昼食にして、少し休んで街道に戻って馬車にしますか?」
「是非そうお願いします」
春人が女王に頼まれた。
「森はしばらく落ち着かないでしょうし、そうしましょう」
夏が言って街道を馬車で行くことになった。
セバスとコレットが箸を並べ、イタサンとジーナが料理を出す。
「今日の料理は何でしょうか」
みたことのない料理なので女王が聞いた。
冬が教えてやる。
「丸く盛られているのがチャーハン、隣の皿の白いのは水餃子、スープはわかるよね」
「この白いスプーンのような物でチャーハンは食べるんだよ」
「水餃子は箸で摘んで小さい器に入っているタレをつけて食べる」
夏が解説する。
「水餃子はもともと作られていた地方では皮が厚く主食だ。これは皮が主食にするほどは厚くない。総菜の部類だ」
「へえ。何だかわからないけど旨いな」
本部長の感想。
好評のうちに昼食が終わった。
テントを出してしばし休息。
女王と侍女長は相当疲れていたと見えて熟睡だ。
二時間ほどして本部長は起きてきた。春人達はお茶している。
「まだ寝ているな」
「あと一時間くらい寝てもらいましょう」
「しかし、冬ちゃんが絶妙な強さの魔物を宛がってくれたので姉上と侍女長は剣がずいぶん上達したのではないか。俺も昔の勘を取り戻せた」
「そうだね。なかなか出来ない良い訓練だった。二人の立場だと怪我をする稽古はしてこなかったはずだ。基本はできていたし、かなり上級だった。しかし実戦になると全く使い物にならない剣だった。今回は命のやり取りをした。かなり怪我もした。女王と侍女長の立場ならありえない実戦の剣の技倆を身につけたと思う。まあ我々も実戦したのはこちらにきてからだから人のことは言えないが」
「そうかい。春人さん達は最初からずいぶん実戦的な剣法と思ったが」
「我々のは実戦剣法だったが実戦をしたことはなかった。こちらにきて初めて実戦した」
「血が通ったか」
「そうだな。まさに血が通った」
「二人は春人さんとは違い実戦を考えていないお嬢さん剣法だった」
「お嬢さん剣法で自信をつけると危ないが、実戦剣法を身につけたから彼我の実力を瞬時に比べ危なければ逃げるだろう」
「確かに逃げられることも実力のうちだ」
「何か言った?」
勘が良い女王と侍女長が起きてきた。
「良い訓練ができたと話していたんだ」
「そう。まあいいわ」
女王達もお茶を飲んで出発となった。
冬とテオ、テアが春人屋敷に転移して馬と戻ってきた。
収納から馬車を出し、草原でいつも通りの車列を整え、そのまま街道に転移した。馬車で進めば夕方宿場に着くあたりの街道上だ。
順調に進んで夕方宿場に着いた。
何事もなく別動隊が予約した宿に宿泊。ぐっすり寝て翌朝馬車で出発。
道中不穏な事もなく夕方ロカーレの城壁が見えるところまで着いた。




