071 時間調整の日 (6)
地方都市 ロカーレ在住悪人の難
別働隊は補給部隊を含め300人ほどである。女王陛下の巡行関係である。何があっても良いように常と違って隊長は将官であり兵の数も少し多い。文官も数人一緒に行動している。
城門から少し離れた街の外の野営地を本部にして隊長が陣頭に立って披露会の準備をしている。ロカーレで披露会をすれば次の披露会は国境の街である。国境の街には文官一人と兵十人ほど先行させ披露会の招待状、会場などの準備を進めさせている。
「隊長、何かこちらに飛んできます。黄色いスカーフをしたミニドラゴンのようです」
「あれは女王陛下とよく一緒にいた女児のドラゴンだな。何か用があるのだろう」
ミニドラゴンが降りてきて隊長の前で浮かんでいる。
一頭が前足でもう一頭の首筋を指す。黄色いスカーフが丸まっている。
「隊長、あの丸まっているスカーフを直せと言っているみたいです」
「そうだな」
隊長が手を伸ばして丸まっているスカーフを拡げた。中から紙が2枚出てきた。
「おい、陛下から手紙だ」
一度手紙を捧げ持ってから読み始める。
「返事を書きます。少しお待ちください」
ドラゴンは頷くと一頭はテントの上にとまった。もう一頭は街の上空を飛び回っている。
隊長はテントで返事を書いた。
『委細承知しました。直ちに対処します』
隊長が手紙を持ちテントを出るとドラゴンが降りてきた。
ドラゴンが来た時のように手紙をドラゴンの首から垂れたスカーフに巻き込むとスカーフは丸まったままになった。
「では女王陛下にお願いする」
わかったと聞こえた気がした隊長である。
ドラゴンはもう一頭と合流して街の上を数周してから北へ飛んでいった。
「隊長、手紙は何だったのですか」
「会議で説明する。小隊長達をすぐ本部テントに集めてくれ。それから会議は外に漏れてはならない。テントの周りに誰も近づけるな」
すぐ副隊長が手配し、本部テントに小隊長達が集まり会議が始まった。
「女王陛下から手紙があった。この街の顔役が勝手に周辺集落などから税と称して金品を強奪しているとのことだ。払わなければ娘に夜伽をさせ街に連れてきて売り払っているらしい。その一味が馬車に乗って南方街道をこちらに向かっている。そいつらは、ドラゴン達がここにつれて来てくれるそうだ」
「いつ?」
「陛下からの手紙を読んだ頃合いだそうだ」
テント内にドラゴンが一頭転移してきた。
隊長を見てキュと鳴いた。すぐ少女の声がした。
「来たよー」
少女が大人4人を連れてきた。
少女の足下に子犬のようなものと少女にたかっているドラゴンを連れて。最初に来たドラゴンはすぐ少女にたかった。
「こいつらだよー」
隊長が似顔絵と比べるとまさに三人がそうであった。
「一人は御者だよ。こいつら集落が勝手税を払えないからそのかわりに娘三人を差し出せって言って一晩夜伽をさせてこの町まで連れてきて売り払うんだってさ。それに足の折れている男は冬に短剣を突きつけて殺そうとしたんだよ。そうだよね」
足が折れた男は脂汗を流している。
「返事したほうが良いよ」
マロンが折れた足をつつく。
「痛え」
「もう一本行く?」
「このガキの言った事は本当だ」
「ガキって言ったね」
冬が上を指さす。みんな上をみた。
ボキッと男の足辺りから音がした。仲間に支えられて片足で立っていた男は両足が骨折してしまって倒れてしまった。
「あれ、どうしたの。もう片方も折れてしまった。上を見ていたから分からなかった」
白々しいと隊長達は思った。だが見ていなかったのも事実である。
「我々もどうして折れたか分からなかった」
うんうんと冬。
マロンが折れた足の上で飛び跳ねる。男の悲鳴が響き渡る。
「大丈夫だよ。今テントは遮音してあるからいくら叫んでも外には聞こえないよ。正直に話す?」
「話す、話す。やめてくれ」
「残りの二人と御者は正直に話す?」
三人は黙っている。
「あっ」
冬が上を見た。また釣られて上を見てしまった隊長達。
ボキ、ボキ、ボキと音がした。
三人が倒れた。
「どうしたんだろう。今度は三人の足の骨が折れた」
全く白々しいと思った隊長達である。
子犬とドラゴンが三人の折れた足の上で跳ねる。三人は絶叫。
「賑やかだねえ。正直に話す?兄貴の足はどうかな」
冬が兄貴の折れた足を二本持ち上げて見る。足がぐにゃっと曲がって持ち上がる。兄貴はまたまた絶叫。
「あれ、奇麗に折れていないねえ。ぐずぐずに折れてしまっているよ。これじゃ切り落とすようだね。他の三人はどうかな」
「話す。話すからやめてくれ」
三人は必死に懇願した。
「そう。それじゃ包み隠さず話してね。隊長さん、明後日エカちゃんが来るからね」
「承知しました。それまでに片づけておきます」
少女と子犬、ドラゴン二頭が消えた。
「消えた。しかし、われわれの取調官よりやり方がえぐいな」
「全く。恐ろしい少女です」
「さて、我々の優しい取調官を呼んで自白調書を作れ。こいつらがここにいる事は誰も知らない。今日中に調書を作成して明日関係者を逮捕する」
「承知」
翌日、別働隊は朝食をしっかり食べてから隊列を組んで粛々と街に入った。
街に二ヶ所ある城門はすぐに兵が掌握した。
街に衛兵はいるが軍隊はいない。衛兵は為す術もなく城門を明け渡した。街へは入れるが街から外へは出られなくなった。
街の人が何が起こっているか分からないうちに別働隊は関係者を一網打尽にしてしまった。
街の顔役とその部下、家族、衛兵隊長と衛兵隊の主立った者、違法奴隷商、賄賂商人などである。
取調官は逮捕者を大部屋に集めその前に下半身がパンツ一枚の足の折れた4人を並べてこう言った。
「皆さんのご存知の方々だ。どうしてこうなったのか誰にもわからない。従って犯人はいない。神が悪人を処罰したのかも知れない。見なさい」
取調官が4人の折れた足を順に持ち上げる。足はぐにゃりと曲がった。絶叫が部屋に響き渡る。
「ごらんのように足が折れたようだが折れた箇所はぐにゃぐにゃだ。折れた先は紫色だ。至急切り落とさなければ命が危ない」
取調官はすこし間を置いてから四人に聞いた。
「治療を希望するか?」
「切ってくれ、頼む。切ってくれ」
「では希望により治療する事にしよう。別室に運べ」
男達が運ばれていく。やがて先ほどの絶叫よりはるかに大きな絶叫が五度聞こえた。
「さて治療も終わったようだ。先ほどの4人の自白調書によって皆さんを逮捕させていただいたわけだが、無実だという方はいらっしゃいますか?なお嘘をつくと先ほどの方々のようになるかもしれません」
「どなたからも声があがらないようだ」
「では今からお前らは犯罪人と確定した。これから一人一人厳しく吟味する。引っ立てろ、囚人服を着せて牢にぶち込め」
午前中、何人もの取調官がとらえた者を取り調べた。
午後は公開裁判である。全員罪状を認め、全員死罪の判決となり直ちに執行された。
被害にあった娘さん達を探し出し、救出して、娘さん達の希望を聞き、親元へ返す、働き口を探す、他の街に引っ越す等を行なった。すべて慰謝料は支払った。また行方不明者には親元へ慰謝料が支払われた。その費用は死罪となった者達の没収した財産から賄われた。




