070 時間調整の日 (5)
「仕返しに来る」
長が呟いた。
エカ会長が応える。
「心配しないでください。私たちがやつらの本拠地に行きます。一本道のようですから向こうから来ても途中で行き合うでしょう。この集落にまで来る事はありません」
「ならいいが。お前さん達は大丈夫かね。街まで行けばごろつきは数が多いだろう。税を集めに来るなど街ぐるみではないか」
「調べて対応します」
「そうかね。商会の人に出来るのかい」
出来そうだとベニー行商人は思ったが黙っている。
「では我々は広場にテントを張らせてもらいます」
「ああ、わかった」
「それと裏山で石を拾って簡易かまどを作りたいのですがいいですか」
「広場の脇に転がっている石を使ってもいいぞ。あれは広場を平らにするに取り除いた石だ。邪魔だが運び出すのも大変なのでそのままになっている」
「持って行ってもいいぞ」
付け加えて長は笑っている。
集落の人は物々交換で手に入れたものを持ってそれぞれの家に帰って行った。
家に入るのを見届けて、春人達はテントを出した。
春人一家のテント、女王と侍女長のテント、トイレテント、セバス夫妻のテント、イタサン夫妻、テアのテントである。
ベニー行商人は急に現れたテントに目を白黒している。
「冬、ドラに使いに行ってもらおうかな」
「うん。街の別働隊のところだね」
「そうだ。よくわかったね」
「エカちゃんに手紙を書いてもらおう」
「すぐ書くわ。待っていてね」
「三人の似顔絵を描いてあげる」
女王主従と冬が女王のテントに入った。
すぐ書いてきた。三人がにこにこしている。楽しそうだ。
ドラ一の首から三角形に垂れているスカーフに手紙と似顔絵を巻き込んだ。
「隊長さんか副隊長さんに届けるんだよ」
冬に言われて撫でられてうんと頷いてドラ一、ドラ二が南を目指して飛んでいく。
「テアが一人じゃ寂しいわね。冬、テオを呼んできて」
「わかったー」
冬とマロンが消えた。すぐテオと戻ってきた。
「馬はツキカゲ家に頼んできたよー」
「はい、ありがとう」
「さてみんな揃ったところで食事の用意だな」
イタサン夫妻とテオ夫妻が広場の脇の石を撫でている。
「なかなかいい石だな」
短刀を取り出して石を長方形のブロックに整形した。その石を並べてかまどを作った。鍋をかけるところは二つ。その後ろに小さいやかんをかけるところも作った。それらをうまく丸く作った。炎が鍋底に当たって後ろのやかんに当たりその後ろに抜けるように作った。立派なかまどになった。
立派なかまどができたので煮炊きする気になったイタサン夫妻、材料から食事を作り始めた。
「マロン、最初だからかまどを少し温めて。溶かしたらだめだよ。触ってほんのり暖かいくらいだよ」
マロンが息をかまどに吹きかける。冬が触ると暖かい。どこを触っても同じように暖かい。
「上手だよ」
マロンは冬に抱っこしてもらって尻尾を振っている。
イタサンがかまどに大鍋二つをかけた。
テオ夫妻が薪を取り出してかまどに火を入れる。
「これは熱がうまく回って使い続けたかまどのようだ」
イタサン夫妻が作る料理はもちろん外だから簡単なものだ。具沢山のスープだ。
あたりに良い匂いが漂い始める。
家から子供が広場をのぞいている。
冬が子供を呼びに行った。親もついてきた。
夏が来た人たちに話しかける。
「お椀を持ってきてください。スープを差し上げます」
「いいのかい」
「広場を使わせてもらっていますから、使用料ですよ」
「そうかい。それじゃいいかね」
「どうぞ、大鍋二つ作りましたから。足りなければ追加しますので他の人も呼んできてください。ベニーさんもどうぞ」
「悪いな」
ゾロゾロ家から出てきて広場に集まってくる。
「材料はエカ会長の差し入れですよ。お腹いっぱい食べてくださいね」
「エカさん、ありがとう」
「おばちゃん、ありがとう」
大人や子供が口々に女王にお礼を言う。
「一緒に食べよう」
女王がそう言うと集落の人は女王を囲んでかまどの周りに座って食べ出した。
「うめー」
子供が大きな声を出した。
「ああ、うまい。こんなに美味いものは食べたことはねえ。ありません」
「いいのよ。普段の言葉で。ここは皆さんの集落なのですから。普段は何を食べているの?」
「肉は一角ウサギがいっぺえいるから間に合っているだ」
「だけどもこの頃強い魔物が森に居着いて、森に入れねえ」
「んだ。おら達が森の恵みと言っている木の実やベリーが取れなくなっただ」
「そうか」
女王が春人を見る。
「明日出がけにこのあたりの森の強い魔物は退治しておきましょう」
「大丈夫かえ」
「はい。大丈夫です」
「良かった。道普請をする時期じゃが、強い魔物がいて出来んじゃった」
「わしらは道普請をすれば税などかからんじゃったが、あいつらが数年前から来て糸束を持っていくようになってベニーさんに渡す糸束も少なくなってしもうた。そんでもベニーさんは何にも言わずに前の通りに品物を引き換えてくれた。ベニーさんにはすまんことであった」
「いや、俺は先祖代々この集落とは付き合いがあるからな。悪い時に見捨てては先祖に申し訳ない」
「すまねえなあ。そうだ娘を貰ってくれ」
長が言ってニヤニヤしている。
焦るベニー行商人。
「なに焦っているだ。隣にすわっているべ」
誰かが言って集落の人がどっと笑った。
春人達が見るといつの間にかベニー行商人の隣に娘さんがピッタリとベニー行商人にくっついて座っていた。二人して真っ赤になっている。
「そうか。めでたいな。少しだがお酒を出そう」
女王がそう言って、イタサンが木のコップにお酒を注いで皆に配った。子供はジュースだ。
「それでは俺は番頭のエルダーだ。みんなコップは行き渡ったか。二人の前途を祝して、乾杯」
「乾杯」
「うめえ。こんな酒は飲んだことはねえ」
それからしばらく歓談して一人二人と家に帰って行った。
最後に残ったのは長夫妻と娘さんだ。
「今日は危ないところだった。エカ商会の皆さんと客人の皆さんがいなければ娘たちが慰み者になってしまっただろう。重ね重ねお礼申し上げる」
「いいのよ。この国の政治が悪いのだから」
長夫妻は周りを見回す。
「そんなこと言っていいのかね。捕まってしまう」
「事実だからね。なかなか地方まで手が回っていないことがわかったわ。中央の手落ちよ。為政者が悪いのよ。悪いことを悪いと言える世の中にしなくてはね」
「・・・・・・」
「ところで娘さんはベニーさんが連れていくの?」
「こうなったら連れて行ってもらいたい。嫁入りの用意はしてある」
「私もそれがいいと思う。また今日のようなことがあるとベニーさんに申し開きができない。ぜひ連れて行っておくれでないか」
長夫婦が娘さんを連れて行くことをベニー商人に勧める。
「わかりました」
「でも街はだいじょうぶだろうか」
「心配ない。街の大掃除は請け負おう」
「会長さんは商会の方では?大掃除と言っても」
本部長が応える。
「気にするな。会長は中央に伝手があって、それを利用する。ちょうど今中央の軍が街にいるからすぐ片付くだろう」
「そうですか。わかりました。今日はベニーさんはうちに泊まってくれ」
「ベニーと呼んでくれ」
「そうか。ベニー、うちに泊まってくれ」
「よろこんで」
「荷馬車と馬は見ていてやろう。一緒に行くが良い」
「ありがとうございます」
女王が声をかけてやり本部長が続ける。
「明日は日の出とともに出るからそれ以降は馬をみてくれ」
「わかりました」
長一家とベニー行商人が長の家に歩いていく。
「こんなことがあるんだな」
「姉上、珍しいことではない」
「そうか。難しいな」
「まあわかったからいいのではないか」
「番頭が偉そうなことを言う」
「へへへへ。俺は無頼だから下々の不条理は嫌と言うほど見てきたからな」
「無頼も役に立つな」
「そうだろう。そうだろう」
キュ、キュと空から声が降ってくる。
「ドラが戻ってきた」
暗くなった空からミニドラゴンが二頭。冬を目指して降りてきた。すぐ抱きつく。
「隊長に渡したって。手紙を預かってきたってよ」
ドラ一の丸まったスカーフを拡げると隊長からの女王宛の手紙が出てきた。
『委細承知しました。直ちに対処します』
「冬、手紙が着いたからさっきの三人と馬車の人を別働隊の隊長の所に送ってやりなさい」
「分かったー」
冬とマロンとドラ二頭が消えた。
「軍が大勢いるから明日あたりに片づきそうだな」
「そうだわね。せめてもの罪滅ぼしだ。無私の行商人には何か褒美を取らせなくてはね」
春人が声をかける。
「秋人」
「はいはい。馬車一台分の収納袋だよ」
秋人が女王に差し出す。
「これはこっそりやろう」
「それがいい」
春人が言った。




