069 時間調整の日 (4)
「ベニーさん。そちらの方々は?」
「ああ、街道で会ったんだが、都の商会の人達だ。地方の物産を見て回っているそうだ」
「エカと申します。ベニーさんと行きあい、こちらには来た事がないのでご一緒させていただきました」
「そうかい。村には泊まるところも何もないが」
「テントを持参していますので広場の隅を貸していただければありがたいです」
「それは構わないが」
「ありがとうございます」
挨拶が終わってベニーさんは荷馬車の幌を上げて商売を始めた。
春人達が見ていると日用品を扱っているようだ。
集落の人の支払いは糸束で行っている。
一段落ついたようなので夏が聞いてみる。
「支払いは糸束のようだけど」
「ああ、こういうところでは貨幣は流通していない。物々交換だよ。見るかい。これだ」
ベニーさんが糸束を夏に渡した。
「木綿のようですね」
「この辺は温暖で綿花が自生しているからね」
「栽培はしないんですか?」
「まあ生えているからなあ。それに程々でいいんじゃないか」
「なるほど」
「会長さん。どうだい、この木綿は」
振られた女王、木綿の糸のことなどわからない。
「仕入れは番頭に任せています。番頭さん」
俺かよと本部長。
「そうだな。品質は良いと思う。ただ量が少ないと我々の取引の対象外だな。量を増やすとなると栽培しなければならない。人手も必要だし、栽培のノウハウも必要だ。この程度の集落だとほどほどがいいだろう」
「わかっているね。偽商会でもないようだな。会長さんと秘書、番頭さんが商会か。他の人はなんだい?」
「客人一家とその使用人だ」
「確かにそう見える」
本部長が聞く。
「ベニーさんは何処から来ているのか」
「ここから南へ行くと宿場の次にロカーレという大きな街がある。城壁のある街だ。そこが拠点だ。周辺の集落を回って日用品を売って歩いて集めた品物を街の市場で売って日用品を仕入れてまた一回りするんだ。今回はこの集落で終わりで宿場に寄って街に戻る」
春人が聞いて見る。
「今日はどうするんですか」
「ここで一泊だ。うす暗くなると流石にあの草原は道がわからない。それに宿場に着くまでに暗くなってしまう」
話していると門から入ってくる男が三人。
「長はいるか。おおそこにいたか」
「なんでしょうか」
「とぼけるんじゃない。税の徴収だ。大分品物を買い込んだようだ。でき上がった糸の半分は税だ。おい、商人、どのくらい糸で支払いを受けたか」
「ここの集落だけではないからここの集落の分はわからない」
「売り上げの帳面があるだろう」
「零細だからそのようなものはない」
「ふん」
「長はこの間も払えないとか言っていたな。今日はもう勘弁ならない。払えなければ女を出せ。今日は泊まりだ。長には娘がいたな。娘が酌をしろ。一晩な。俺達は三人、泊まりだと街道で待っている馬車も呼ぶから御者を入れて四人、だから娘も四人必要だ。娘は明日連れていく。税のかわりだ」
「ご無体な。娘は嫁入り先が決まっている。他の娘もそうだ。それに前は税は街道の道普請だけだった。それもこの集落の街道からの入り口から南北に各500メートル、計1000メートルで良かった。それでも大変で街道から村への道は手入れが良くできない」
「そこの男、お前らはなんの権限があって税を徴収している」
女王が低い声で聞く。
「お前はこの集落の者ではないな。よそ者が口を出すな」
「この国の者だ。よそ者ではない」
「なんだと、口答えするか」
男がじろじろと女王を見る。
「ふん。もう売り物にもならないな」
「無礼者」
侍女長が沸騰してきた。
「まあ待て」
本部長が前に出る。
「お前達は徴税と言うが何か書類を持っているか」
「そんなものはない。俺達はこの先の大きな街の顔役から徴税を請け負っている」
「書類がなければただのゆすり、たかりだ。娘を差し出せと言ったな。徴税に娘はなかろう」
「よそ者が何を言う。そうかこの集落でやとったならず者だな」
「ならず者はお前達だ。顔役が徴税だと。ふざけた事を言う。ならず者が始めた商売だろう」
「言わせておけば」
男達が剣を抜いた。
本部長も剣を抜いた。素振り、突きをやって見せる。
「やるかい?」
「・・・・」
「兄貴、相手は一人だ。やっちまおう」
そう言って剣を構えた男は本部長に剣をはじき飛ばされた。
兄貴と呼ばれた男が冬を人質に取る。
「手を出すとこの子の命はないぞ」
「どうぞ」
夏が答える。
「お前、母親だろう。何てことを言う。この子の命はないぞ」
男が短剣を冬の首に突きつける。冬はにこにこしている。
冬にたかっていたドラ一がするすると登って首を伸ばして短剣の刃に噛みついて砕いた。
「短剣は柄しか残っていないようよ。あなたの手首は短剣より硬いのかしら」
あわてて男は冬から飛び退いて離れた。
「もうちょっと頑張れば良かったのに」
冬の感想だ。
「なんだ。お前達は」
冬が教えてやる。
「冬はエカちゃんとおばさんの友達だよ。おじさんは暇なときにからかう相手」
「それでみなさん、どうします。うちの娘を人質にとりましたね。刃物を突きつけられて娘はさぞ恐かったでしょう。深く心が傷つきました」
「お母さん、恐かったよう」
冬が夏に抱きついて見せる。
嘘をつけと兄貴は思った。いやその場にいた全員が思った。
「トラウマになるくらい恐かったのよ。殺人未遂。立派な犯罪ね。官憲につき出さなくてはなりません。あなた達の拠点の大きな街の官憲かしら」
「お、覚えていろよ」
「心配ご無用。あなた達のことは短剣をかみ砕いたドラと足下にいたマロンが良く覚えたから。今日はここに一泊、明日は宿場に一泊、その次の日にあなた達の街に到着するわ。待っていてくださいね。逃げたらダメよ」
男達は何も言わず逃げていった。マロンの脇を通るときに兄貴が転んでしまって片足が折れてしまったようだ。痛え、痛えと叫ぶ兄貴を真ん中に三人で肩を組み、「街道の馬車まで、馬車まで我慢してくだせえ」と下っ端が兄貴に言いながら逃げていく。街道に馬車が停めてあるらしい。
「二人三脚はあるが、あれは三人五脚だな。始めて見た」
逃げていく三人を眺めながら秋人が呟く。




