067 時間調整の日 (2)
「お昼の時間ね」
「用意します」
夏が提案する。
「せっかくだから何か狩ってお昼にしよう」
「それがいいな」
「承知しました」
みんな賛成だ。
「冬、昼食用の肉はどこだ?」
秋人が冬に聞く。
「あっち。魔物図鑑にボアとか書いてあったやつだ。それが8頭いる。6頭は小さい」
「ボアってのはなんだ」
「秋人殿、それは四つ足で肥えていて背が低いやや胴長の牙が口から出ている魔物だ。突進力、突進速度がすごい。突進が凄すぎて曲がれない」
「へえそうか。さすが本部長、詳しい。猪型魔物だな。肉は美味しいの?」
「もちろん」
「それにしよう」
みんなの意見が一致した。
冬を先頭にボアのいるところに近づく。
ボアが気がついたようだ。
「来るよー」
「まずは避けよう。連中のスピードを知りたい」
秋人が言った。
「エカちゃんとおばさんは最初から避けておいた方がいいよ」
冬に言われて女王と侍女長は脇の木の陰に避けた。
前方からバキバキ音がする。木をへし折って突進してくる。
すぐ大きいのが二頭、藪から飛び出してきた。高速である。全員で避けた。
本部長は曲がれないと言っていたが腰を落として踏ん張って四つ足で滑りながらスピードを落とし前足で地面を掻いて方向転換してUターンしてきた。車ならドリフトだ。器用だ。
「嘘つき。曲がった」
「いやあ、悪い悪い。こいつは進化しているのではないか」
本部長がそう言いながら一頭の首に斬り付けた。弾かれる。
「ほら、弾いた。こいつは進化しているに違いない」
一頭は木の陰から出ていた女王の方に向きを変えた。
「危ないよー」
冬が横から首を落とす。首が女王に向かって飛んでいく。かろうじて避けた。牙が木に刺さって、血を流す生首が木から生えているように見える。グロテスクだ。
本部長が仕留め損なったボアは夏があっさりと首を落とした。
次いで小さいのが6頭突進してくる。春人の使用人が5頭倒した。
一頭は女王に向かっていく。女王は横に飛び、ボアを避けながら横っ面に剣を叩きつける。ボアが頭を振って隙ありになった喉を侍女長が刺した。
無事に討伐完了である。
夏は自分の倒したボアから魔石を回収した。例によって血まみれ生臭で魔石を見てニコニコしている。
「ああー僕は魔石がない」
「若様、どうぞ魔石を取ってください」
「そう、悪いね」
使用人の倒したボアから魔石を回収した。
「エイプぐらいの石だな」
冬は血まみれになるのは好みではないので、秋人に譲った。
女王主従もどうでもいいので秋人に譲る。
魔石は夏が一つ、他は秋人である。
夏がみんなに見つめられた。
「チッ、秋人、やるよ」
「ありがとう、それじゃこれ」
瓶を差し出した。
「何これ?」
得意げな秋人。
「これは、糸瓜水自動精製器秋一号で作った。空気中の水分を使って作る。除湿機兼用。もちろん水を入れればすぐできるが。できたこれはいわゆる美人水」
ひったくった夏。
女性の視線が強い。結局秋人は女性全員に配った。
夏が瓶をじっと見る。
「分析できない」
「へへへへ。分析できないようにした。美容液は夢だからな」
わかったようなことを言う秋人だ。
冬が糸瓜水を舐めた。ニタッと笑った。天才魔法少女である。背筋が寒くなる秋人。
後に夏もこっそり瓶から糸瓜水を出して鑑定した。簡単に鑑定できた。瓶に細工がしてあった。わかってみれば簡単に鑑定できる。
せっかく我が子が得意になっているので黙っていてやる母親である。
ともあれ昼食である。
血抜きと冬が言って血抜きが済む。
秋人が穴というと穴が地面にあく。
イタサンが腹を割いて内臓を穴に投げ入れる。秋人が冬に聞く。
「頭はどうする?」
「食べる人もいるかもしれないけどいらない」
頭も投げ入れて穴埋めといって埋めておしまい。
「あ、忘れた」
木に刺さった頭がそのままだ。秋人が消した。
大きい方のボアは料理人のイタサンとジーナの収納袋に入れておいてもらう。
小さい方のボアでも2、300キロありそうだ。
料理人以外に一頭づつ進呈。テアにはテオの分も入れて二頭。本部長に一頭、侍女長にも一頭配った。
あれ、昼食の分がないと焦った春人。
マロンとドラ二頭が戻ってきた。
自分たちの収納から冬の前にどさどさと魔物を出す。冬に持ってきたらしい。血抜きはしてある。魔法の達者なマロンとドラである。冬たちは血抜きしたものを食べるのだと理解し血抜きを覚えたらしい。
いつものようにマロンは冬に抱っこされドラ2頭が冬にたかっている。
「お父さん、マロンとドラが取ってきたボアを食べよう」
「そうしよう。マロン、ドラ、ありがとう」
尻尾を振るマロンとドラ。
「イタサン、ジーナ、頼むよ」
イタサンは一番小さいボアを使うらしい。それでも300キロものだ。
残り二頭は冬が収納した。マロンとドラは嬉しそうだ。
イタサンが腹を割いて、冬が内臓を消してしまう。
石を並べて鉄板を出し、枯れ枝を燃やして全員で鉄板を囲みボアから切り出した分厚い肉で豪快なステーキだ。
「ところで魔肉の毒はどうした?」
本部長がイタサンに聞く。
「どの魔物も血に毒がある。それと魔物ごとに違う部位に毒がある。これは綺麗に血抜きがしてあった。普通の血抜は完全に血がなくなったわけではない。だから処理が必要だ。血が多いと処理が困難だ。毒に当たったというのは大抵血だ。死ぬまでに少し時間がかかる。魔物の特定の部位の毒は瞬時に死ぬ。この魔物の毒は内臓だ。さっき冬姫様が消してくれたのでもう大丈夫だ」
「そうか。詳しいことは知らなかった」
「よく生きていましたね」
春人が感心する。
「弟は昔から腐ったものを食べてもお腹を壊さなかったからね。毒に鈍感なのだろう」
「いや、俺だって毒に当たるぞ。ボアの肝臓みたいなのを少し食べてみたら舌が痺れた。なんだか痺れて美味かったので全部食べた。毒に当たったに違いない。美味しかったから次にボアを仕留めた時にもう一度食べたが痺れず美味くなかった。個体差があるに違いない」
呆れたイタサン、
「個体差はありません。毒に対する耐性が出来たのでしょう。普通は少しでも口にすれば即、死にます」
「そういえば、一緒にいた冒険者は慌てて離れたな。やつらは毒と知っていたのか」
「冒険者は血に毒がある、魔物ごとの毒の部位、知っているはずです。それに魔物は血抜きしてなければ買ってくれませんよ」
「そうなのか。不味くなるから血抜きをするのだと思っていた」
こいつ大丈夫か、冒険者組合本部長で。と思ったのはイタサンだけではない。全員が思った。




