054 女王は咽が渇いて冬達と広場に行く
冬とマロン、ドラがいない一夜を過ごした春人一家。何となくすきま風が吹くような気分だ。
「ただいまー」
冬がマロン、ドラと元気に戻ってきた。
「朝食は食べてきたよ。おいしかった」
満腹そうな冬達にうらやましそうな秋人。朝食は宿の朝食で普通である。つまり美味しくない。
ぶつぶつ言いながら腰を上げる。出発の刻限だ。
宿を出て門の近くの冒険者組合に寄る。案内の冒険者を加えて出発だ。案内の冒険者の荷物が多い。
「今日は野宿だ」
本部長が言って出発した。
「ねえ、昨夜は居なかったわね」
馬車の中では女王の追求が始まる。
「うん。出かけてた」
「冬ちゃん一人で?」
「マロンとドラ一、ドラ二も一緒だよ」
「何処に?この辺は夜中に出かけると危ないんじゃない」
「自宅だよ?」
「自宅?」
「そうだよ。夕飯と朝食は美味しかった。宿の食事は美味くない」
「確かに美味しくはないわね。それより、自宅よ。どうやって行ったの。大分離れていて行けないわよ」
「一瞬だよ」
「一瞬て?」
「一回まばたきするくらいの間だよ」
「どうやって?」
「こうやってだよ」
女王はどこかの裏道に立っていた。
「こっち、こっち」
冬に手を引かれて広場に出た。どう見ても中央広場である。
「ここは」
「中央広場だよ。串焼き買って行こう」
「おじさん串焼き6本」
「小銀貨3枚だよ」
おやじが顔を上げて見るといつかの女児である。
「小銀貨3枚でお願いします」
急に丁寧な言葉になってしまった。
冬が小銀貨3枚払って串焼きをもらった。両手一杯の串焼きである。
「馬車の中で食べよう」
女王と転移した。
「消えた」
串焼き屋のおやじ、頬を叩いて見る。握っていた小銀貨が落ちた。
「本当にいた」
「はい、みんな串焼きだよ。おばさんにもあるよ」
おばさんにされてしまった侍女長である。
渡された串焼きの食べ方がわからない。
「おばさん、これはね。串の先からかぶりついて食べるんだよ」
「かぶりつく?」
「そうだよ。がぶっと。マロンには櫛から外してやるけどね。ドラは食べられる?」
ドラ一、二は前脚で串を器用に持っている。串が長いので一番先には口が届かない。お互いに相手の串の一番先にかぶりついている。
「上手、上手。おばさんもほら食べる」
「そう、ですか」
侍女長が恐る恐る口にする。
「美味しいわ」
「うん。美味しい。エカちゃんもほら食べる」
こちらも恐る恐る食べる。
「美味しい」
「食べて見なければわからないね。宿の朝食より美味しいでしょう」
「そうだわね。お茶が欲しい」
慌てた侍女長、咽に詰まらせた。冬がとんとんしてやる。
「おばさん、美味しいからって焦ったらダメだよ」
そういうわけではないがと侍女長。
「会長様、休憩でなければお茶はありませんよ」
「味の濃いものを食べたからお茶が欲しくなったよね。食べ終わったら広場に飲みに行く?」
「行って見ましょう」
面白くなった女王なのであった。
「ううん。ばれるといけないな。じゃあおばさん留守番お願いね。お茶は買ってくるから」
串焼きを食べ終わったと思ったら消えた冬と女王、マロン、ドラであった。
再び路地に転移した冬一行。広場に出る。
「あっちの方に売っていそうだ」
冬が女王を引っ張って朝がゆなどを売っている屋台に向かう。
「おい」
知らん振りの冬。
「おい、そこのお前だ」
「何?」
「そのトカゲをただで譲れ」
「顔を洗って出直してこい」
「なんだと。けんかを売るのか」
「てめえがけんかを売ってきた。あたしは買ったほうだ」
口の悪い冬である。なりは子供だが中身は高校二年、早生まれの16歳だ。
「この野郎」
男が冬に手を延ばす。マロンが男の脛を前脚で叩いた。ボキッと音がした。マロンはすぐ離れて知らん顔だ。
男は二三歩歩いて倒れた。
「あれ、おじさん。どうしたの」
男が足を伸ばしたまま動かせずうめいている。顔は冷や汗だ。
「兄貴、どうしたんすか」
子分のような男が駆け寄る。
ちらっとそちらを見た冬。
「おじさんお茶頂戴」
屋台のおやじ、思い出した。何やら危ない女児一行だ。
「へ、へい。幾つでしょう」
「ええとね。お茶はおばさん二人分。そっちのジュースは4つ。はいコップ」
冬がお盆にのせて木のコップを6個出す。
おやじ、言われた通りコップに注ぐ。
「お代は?」
「小銀貨1枚です」
「はい」
「毎度ありがとうございます」
ちと赤字のおやじであった。
「おい」
「なあに。あ、転んだ人の友達?大変ね。年をとると骨が弱くなる人もいるんだって。気をつけたほうが良いよ」
「お前が何かしたのだろう」
「何もしていないよ。因縁をつけるの?」
よせばいいのに男が冬に手を出した。
「あれー」
白々しく言って、さも男に胸ぐらをつかまれて引っ張られたようにして手に持っていたお盆のコップ6個の中身を上手に男にぶちまけた。
「どうしてくれるのよ。せっかく買ったジュースとお茶がこぼれちゃったじゃないの。あーあコップも汚れちゃった」
「あちいあちい」
お茶で火傷してジュースでべとべとになった男。頭に来た。
「この野郎」
またマロンが前脚で男の脛をポン。ボキッと音がした。さっきと同じ、二三歩歩いて倒れた。脂汗である。
「あれ、また骨が弱い人?大変ね」
屋台で串焼きをたかっていた衛兵が騒ぎを聞きつけてやってきた。
骨折れ男の三人目の仲間が衛兵を見てホッとした顔をする
「あ、旦那。このアマが兄貴と仲間に何かして足の骨を折ったので捕まえてください」
すかさず袖の下だ。
「うむ、わかった。逮捕だ。牢へぶち込もう」
「待ちなさい」
女王の登場だ。
「その子は何もしていない。そもそも最初に倒れた男が子供に不当な要求をした」
「そんな事はない」
仲間が否定する。
「ほらみろ。お前もこの子供とぐるだな。逮捕だ」
「そちらの屋台の方は一番近くで見ていたわ。証言してくれるでしょう」
「どうだ。子供が何かしたろう」
衛兵が睨む。自分に都合よく証言しろとの睨みだ。
屋台のおやじ。子供の方が危ねえと思った。聞かれたのは子供の事だけだな。子犬に見えるものの事は聞かれていない。見た通り証言だ。
「へ、へい。そちらのお子さんは何もしていません」
当てが外れた衛兵。隣の屋台のおやじに聞く。お茶とジュースを売ったおやじだ。
「子供が何かしたろう。嘘の証言をしたら牢だ」
「お子様は何もしていません。お茶とジュースをお買い上げで、そちらの男がお子様の胸ぐらを掴み引っ張ったのでお買い上げのお茶とジュースがこぼれました」
「ほら見なさい」
あらたに駆けつけた衛兵に女王、
「衛兵隊長を呼べ」
衛兵は大貫録の姐御だ。とても一兵卒では太刀打ちできないと衛兵隊長を呼びに走った。
衛兵隊長は広場の喧嘩ごときにと思ったが衛兵が必死なので広場に向かった。
衛兵隊長、遠くからすっくと立つ女性を認めた。拝顔の栄に浴した事はないが女王の立ち姿に酷似している。
まずい。やばい。全速力で走る。
「来たか」
「はは」
「その衛兵が袖の下をごろつきからもらっている。徹底的に調べろ」
「おい、引っ立てろ」
隊長が焦っているので、ついてきた衛兵は、衛兵に縄を打った。
「牢に入れておけ。絶対出すな。出せばお前も死刑だ」
衛兵は慌てて縄を打った衛兵を引っ張って行く。
「その倒れている男が私の知り合いの子供の持っていたお茶とジュースをこぼした。その中に私のお茶も入っていた。弁償させろ」
「は、はい。ただいま」
衛兵隊長は男の懐から巾着をとり出し中身を確認し冬にそのまま差し出した。
冬が受け取る。
「そんな。金貨も入っていたのに」
「慰謝料だ。文句が有るなら絞首台だ」
「いえ、ありません」
「それでなんで転んでいる」
衛兵隊長の圧力がものすごい。返答内容によれば切られそうだ。
「骨が折れました」
「そうか。骨がもろかったんだな。そうだな」
「は、はい」
「屋台のおやじ、見ていたろう」
「はい。最初の男は子供の連れのミニドラゴンを盗ろうとしました。その後勝手に転びました」
「次の男も子供に因縁をつけお茶とジュースをこぼし勝手に転びました」
「よし。女王様のお膝元の広場で強盗未遂と恐喝、衛兵への賄賂が行われた。みんないいな」
「へい」
屋台のおやじの返事だ。
「引っ立てろ。裁判の後、確実に極刑が言い渡されるだろう」
衛兵隊長は深々と女王にお辞儀をして男達を引っ立てて行った。
骨折れ男の悲鳴が遠ざかって行く。
「余計のどが乾いたわ」
「おじさん。もう一度」
クリーンをしたコップをお盆に乗せて六個差し出す。
おやじはすぐ注いで渡した。
「毎度あり」
冬がお代を支払おうとしたが固辞する。
「もらいなさい。ただはいけない」
「はは」
ありがたく小銀貨一枚をもらったおやじである。
冬は今度はこぼしてはいけないのですぐ収納し、みんなと路地から馬車の中に転移した。
屋台のおやじ達。
やっぱりあの子供は危ないと思うのであった。
あの大貫録はさぞかし名のある女大親分だろう。衛兵隊長が真っ青だった。無頼の本部長でもかなうかどうか。
それにしてもあの子犬もどきも危ない。前脚ポンで大の男の脛の骨を折った。
男がトカゲと言っていた小さいものも口の端から火の粉がこぼれていた。本ドラゴンだろう。子犬もどきが脛を折らなければドラゴンが口を開いて男は灰になっていただろう。
おっと見ていない。見ていない。




