051 馬車が魔物に襲われている
お茶も終わって春人達も出発する。
案内の冒険者の説明では二時間に一回休憩を入れ、二回の休憩で夕方宿場に着く予定である。最後はやや急がなければ夜になると言う事であった。
順調に進んで一回目の休憩も終わり二回目の休憩に向け街道を軽やかに走る一行。
一時間ほど進むと先方が騒がしい。
馬車が二台、こちらからの馬車と先からこちらに向かってくる馬車のようだ。回りを狼のような魔物に囲まれ襲撃を受けている。大分苦戦のようだ。狼の数が多い。すでに馬車の側で倒れている冒険者風の男が何人もいる。
「おーい。助けが必要か」
久しぶりに出番の本部長である。詐欺師の馬車の前に出て呼びかける。
「助けてくれ」
先方のこちらを向いている馬車から声があがる。
手前の向こう向きの馬車の主人は夏達を見て、げっと言う顔をしている。
「失礼ね」
さほど失礼ではないだろうと詐欺師達。
「そうか。先の馬車は助けるが、おや、こちらは夏様のお得意様の馬車か。どうする?」
助けてもらわなければ全滅する。金貨三枚でやけどが快癒した男が馬車から首を出した。
「くそ、ぼったくり、助けてくれ」
「全く失礼なヤツね」
「お母さん、僕が行ってくる」
「冬も、冬も」
冬とマロンが馬車から下りた。
「行ってらっしゃい」
春人達に見送られて、馬から下りた秋人が太刀を抜いて街道に沿ってかけ始める。反対側は冬とマロンだ。冬は魔物が密集していないので薙刀を手に持った。二人がかけて行くに従って狼型魔物の首が宙に舞う。マロンは首筋に噛みついて魔物を絶命させる。
詐欺師達は絶句である。子供と子犬が・・・絶対ぼったくり姐さん一行には逆らうまいと思った。
秋人と冬、マロンはすぐ先頭まで行って戻ってきた。途中やや離れた場所で指揮をとっていたボスを秋人があっさりと両断した。
魔物はすべて秋人、冬とマロンが討伐した。
マロンが雄叫びを上げる。
「ワォーン」
両親に届けとばかりだ。
「ワォーン」
遠くから返ってきた。
「「ワォーン」」
もしかしたら両親に届いたのかも知れないと冬。
「良かったね」
マロンを抱っこして撫でる。マロンは嬉しそうだ。
「おい大丈夫か」
本部長は倒れている冒険者を心配そうにのぞき込み、介抱している冒険者に声をかけた。
「それが牙に毒があったらしく、ポーションが効きません。傷口は塞がりましたが」
「解毒薬はもっていないのか」
「両馬車の冒険者あわせて一級は一本、二級は数本持っていたのですが全く効きません」
「一級も効かないか」
「はい。全く」
倒れている冒険者の呼吸が荒くなってきた。
「助かる薬の当てが有る。ぼったくられるがいいか」
先の馬車の主人らしい男が返事をした。
「もちろん。私たちを命を懸けて守ってくださった護衛です。助かるならいくらでも支払います」
後ろの馬車、つまり夏のぼったくりにあった馬車の男は返事をしない。
「夏殿、前の馬車の主人が代金を支払うそうだ」
「そう。それではこれを飲ませて」
前の馬車の護衛が三人倒れていたので瓶を三本本部長に渡す。
本部長、倒れた冒険者についている仲間に瓶を渡す。
「急げ、飲ませろ」
「しかし、一級解毒薬で効かなかったですが」
「これはエリクサーと思え」
「エリクサー」
瓶を持った冒険者の手が震える。
「早く飲ませろ」
「は、はい」
倒れている冒険者に飲ませる。
瀕死であった冒険者の呼吸が楽になり、目を開いた。
「エリクサーだった」
冒険者は呆然自失である。伝説のエリクサーである。今まで見た事もあったと言う事も聞いた事がない。
「やっぱりな」
本部長は呟く。
「で、どうする。見た通りエリクサーなら治るが」
ぼったくられ男に本部長が聞いた。
「は、払えぬ。冒険者は自己責任だ」
冒険者は全員剣を抜いた。
「払わなければ冒険者の命も消えるが、あんたの命もなくなりそうだ。俺達は何も見ていない」
先の馬車の連中が頷く。
じりじりと剣を手にした冒険者がぼったくられ男に近づいてくる。
「は、払う」
「はい。毎度」
冒険者は4人倒れていたので瓶を4本冒険者に渡す。
すぐ倒れている仲間に飲ませた。さっきと同様あっという間に回復した。
「エリクサーはすごい。奇跡の薬だ。俺は奇跡の薬を使った」
冒険者は震えている。
夏が先頭馬車に行った。一行の主人が袋を差し出す。
「これで足りなければ自宅を売ってでも支払います」
「三本だから金貨三枚で良いわ」
「エリクサーが一本金貨一枚と言う事は有りません」
「いいのいいの。あんたの男気に感心したから」
冒険者は夏と一行の主人に深々と礼をした。
夏が戻ってくる。
ぼったくられ男が金貨四枚を差し出す。
「なにこれ、エリクサーよ。それも四本。全然足りないわ」
「だって向こうは一本金貨一枚」
「向こうは金貨プラス男気よ。こっちは男気がマイナスだわ」
自覚があったぼったくられ男、
「いくらだ」
「向こうの人は手持ち全部と自宅を売るって言っていたわ」
「ちっ」
ぼったくられ男が馬車に戻り布袋を持ってきた。
「まだ隠しているわね。気に入らないわね。また男気のマイナスが増えた」
「くそ」
マロンが御者席の下に向かって吠えている。冬が確認し行く。
「一見何もないけど二重底ね。あった、あった。金貨」
「両方合わせても少ないわね。馬車を置いて行け」
「そんなに払えるか」
冒険者が剣に手をかける。
「くそ。持って行け」
「まあ、自宅の売却は勘弁してやる。ありがたいと思え」
夏がシッシッとぼったくられ男を追い払った。
「ちょっと待て。護衛依頼書に今完了のサインをもらっておけ」
さすが本部長、読みが深い。街に戻ってしまったらぼったくられ男が依頼完了のサインをしないだろうと思った。そうすると冒険者はペナルティだ。
ぼったくられ男は冒険者が出した依頼書にしぶしぶ護衛完了のサインをして冒険者に付き添われて王都に徒歩で向かった。
全部失ったから方向を変更して王都に戻るらしい。
男気の主人の馬車一同も深々夏達にお辞儀をして去って行った。
「夏さん。素晴らしかったわ」
女王が再び感嘆する。
「商売とは相手を見てするものよ。人様から巻き上げているような商人からはお高く頂くのよ。そのかわりまっとうな人からはまっとうなお代を頂く。これが商売と言うものよ」
女王は、なるほど商売というものは奥が深いと感心しきりである。
侍女長はため息である。
一方詐欺師達、そうか俺達は誰彼見境なく騙していたからいけなかったのか。今度は姐御のように悪党を騙して儲けよう。ますます尊敬の眼差しの詐欺師達である。
秋人は魔石の回収に忙しい。また何かに使うのだろう。
毛皮も売れば売れるのだろうけど面倒だから魔石を取り出しただけで狼を穴に埋めた。
「さて時間を食ってしまった。休憩なしで行くぞ。途中で馬には夏殿のポーションで元気回復してもらおう」
本部長が言って出発である。
馬車が増えたが秋人が御者をやるというので任せて出発である。
先頭が詐欺師の馬車、次が女王の乗った馬車、最後が秋人が御者の馬車である。かなりの車列になった。




