047 街に入り予約の宿に泊まる
王都を出て一日がかりで最初の街についた。
途中時間をとったので既に日が落ちる寸前である。
もちろん街にはすんなり入れた。
案内の冒険者はここまでである。次の街まではこの街の冒険者が随行する。春人達は冒険者に別れを言った。
冒険者は本部長と一緒に衛兵隊に賞金首を届け、盗賊に襲われた場所を届けた。
盗賊から回収したものは売れるものは売り払って本部長が半分冒険者に渡した。
ほぼ春人一家と本部長が盗賊を討伐したのだが冒険者は回収したものを半分もらえてほくほくである。
時間的に馬喰に連絡がつかないので馬は冒険者組合が引き取ってくれた。馬の売却代は旅費の足しである。
本部長は盗賊討伐の事後処理が終わって今日の宿に向かう。
宿は昨日出発した別動隊が予約してあった。すんなり泊まれた筈である。
ただし女王と言うといろいろと問題があるから表向き別動隊と取引がある王都の女商人エカ会長一行となっている。特に物々しい警備は要らないという事になっている。
予約の宿に入って本部長がフロントに聞く。
「エカ会長一行は来たか」
「はい。後から到着の番頭のエルダー ボーンケ様ですね。伺っております」
あ、番頭になってしまった。名前もそれらしいような名前にされてしまった。絶対みんなで面白がっていると本部長は憤懣やる方ない。
「番頭さん、お部屋は2階の一番奥とその手前です」
番頭に案内はつかないらしい。番頭ごときが早く行けと言わんばかりである。
あきらめて階段を上がる。人数が多いのに二部屋かおかしいなと思いつつ、一番奥の部屋をノックする。
「入れ」と不機嫌な声。
「これは会長様、番頭のエルダー ボーンケでございます」
「遅い。お前が遅いから、大部屋二部屋だ」
「庶民の暮らしを知る上で大変貴重な経験ではないでしょうか」
「お前、雑魚寝だぞ。国家的大恩人の春人殿達も使用人と一緒だ。私の控室付きの部屋と、春人殿一家、使用人男女別、お前の部屋、全部で5部屋予約ではなかったのか」
「いいじゃないですか」
「女王陛下です。それに大恩人の春人殿達も大部屋に押し込めて。予約の通りにしてきてください」
「ああ、わかりましたよ。どうせ生涯番頭だ」
「わかっていればいいのよ。早く行け」
しぶしぶフロントに行く番頭さん。
「すまないが」
「なんでしょうか」
「会長が個室を希望だ。それに全部で五部屋予約の筈だ」
「申し訳ございません。本日は満室でございます」
「おかしいな。予約は入れておいたはずだが」
「いえ、その。実は男爵様がお泊まりになられて是非貴賓室をと言う事でしたので申し訳ありません。従者の方もいらっしゃいますので」
「こちらの予約が先だろう」
「ですが、お相手は貴族様です。聞いたこともない商会の会長では」
「そうか。お前はそういう商売をしているのか」
「お前とは何でしょうか。「番頭」さん」
「お前はお前だ。その馬鹿貴族と従者はどこに泊まっている」
「だれか衛兵を呼んできてください」
すぐ宿の従業員が出て行った。
「お客様、良いんですか。衛兵が来ますよ」
「それがどうした」
「衛兵ですよ。貴賓室を無理強いしたと番頭さんと会長さんも事情聴取、貴族様に逆らったかどで逮捕ですよ」
「お前が予約ある部屋をキャンセルして会長と会長の恩人に大部屋を無理強いしたのではないか。逮捕されるのはお前だ」
ごたごたしていると衛兵が来た。
「何があった」
「このお客様が男爵様がお泊まりの貴賓室を空けろと無理強いをなされています」
「俺の姉の予約の部屋をこいつが勝手にキャンセルして男爵一行を泊めた」
衛兵は手を本部長に伸ばしかけて手が止った。
「どうなさいました。早く逮捕を」
「待て、隊長を呼んでくる」
衛兵は今日はお忍びでさるえらい方が訪問されると聞いていた。そのさい中央の雲の上の方だと聞かされていた。男爵ごときが雲の上ではないだろう。焦って隊長を呼びに行く。
すぐ衛兵隊長が駆けつけた。
「あの、もしや」
「おれはエルダーハインツ クラッセンだ。こいつが馬鹿貴族の言いなりになって姉の予約の5部屋を姉に断りもなくキャンセルして大部屋2部屋に押し込めた。姉が泊まる予定だった5部屋を占拠している馬鹿貴族一行がいる」
真っ青になった衛兵隊長。主人をにらみつける。
「その馬鹿貴族一行の部屋に案内しろ」
「あのお相手は男爵様ですが」
「いいから案内しろ。お前もぐるなら死刑だ」
未だ事態が飲み込めない宿の主人、わからないながらも何やら剣呑になったと三階の貴賓室に案内した。
「開けろ」
「あの、男爵様の部屋ですが」
衛兵隊長は剣を抜いた。
「もう一度言う。死にたくなければ開けろ」
「なんだ。何を騒いでいる」
男が顔を出した。
「逮捕だ」
衛兵隊長の態度からこれは危ないと衛兵。すぐ部屋の男に縄を打った。
「おれは男爵だぞ。王都に呼ばれて陛下にもお会いした」
「黙れ末端貴族め。引っ立てろ」
「おれは貴族だ。お前らは死刑になるぞ」
「教えてやろう。お前がキャンセルさせた部屋の予約者は、エルダーハインツ クラッセン様の御姉上様だ」
「エルダー・・・ク、クラッセン、様、御姉上様」
貴族は真っ青になった。
「引っ立てろ。囚人服に着替えさせ牢に入れておけ。従者も引っ立てろ。牢だ」
「お前はすぐこの部屋と従者が使っていた部屋を徹底的に掃除、あの男達のものはゴミだ」
「は、はい」
「それから部屋は予約通りだ。わかったな」
良くは分からないが柄の悪い番頭も男爵より大分上なのだろう。だとしたら上級貴族様に生意気な口をきいてしまった・・・。待てよ、クラッセン、クラッセン公爵、あー無頼の本部長」
宿の主人は走り出した。従業員総出で予約通りの部屋を徹底的に掃除である。
部屋を清掃、整えて大部屋から自称エカ商人ご一行に部屋をお移り頂いて一晩過ごしていただいた。
出発に際してはもちろんお代は頂かなかった。思い出して見ればすでに予約した者から支払いを受けていた。迷惑料を包んだが拒否された。
女王一行はドタバタがあった街を出立する。
街の門には街の有力者、衛兵が勢ぞろいである。
最敬礼した人達の目の前を馬車が通過して行く。
最後尾の本部長の顔を見た街の有力者、衛兵隊長。十分顔色を読んでしまった。
商人ご一行が出立してすぐ衛兵が宿に来て宿の主人は連行された。
その後、男爵一行と宿の主人は街を出た事になったが男爵家に男爵一行は戻ってこなかった。もちろん宿の主人も戻らなかった。
男爵家からの問い合わせに対し街の衛兵隊からは「自称男爵一行は街を出て行った。その後は知らない」と返答があった。
さらに尋ねると「正気を失った自称男爵の酔っ払いを保護したがその後街を出た。酔っ払いを保護し街を出た記録はあるが街を出て行った後は当衛兵隊の知るところではない」との返答である。
男爵一行と宿の主人は正気を失った酔っ払いにされてしまった。
行方不明である。




