045 巡幸一行が出発する
翌日。出発の日だ。
まずは冬のドラゴンを確認。元気だった。預けて行ける。
日の出過ぎ、王宮から馬車が来る。女王と侍女長、見送りの王弟、公爵が乗っていた。
ドラゴンは紹介しておく。
女王の馬車は身バレするから使わない。僕の家の馬車だ。四頭立て。
馬車には女王と侍女長、冬とマロンが乗った。
僕と夏、秋人、使用人は馬だ。馬はツキカゲ家から連れてきた。
王都内は目立つから使用人は先発。冒険者組合の前で待っていてもらう事にした。
夏と秋人が先頭、次にテオが御者の馬車、最後は僕だ。
もちろん警備の近衛兵、衛兵は要所要所にいた。
順調に広場を抜け、橋を渡り冒険者組合前に到着。馬に乗った本部長と案内の冒険者が合流。
隊列を整える。
先頭は案内の冒険者と本部長
セバス、秋人
馬車 御者はテオ、テア夫妻。
コレット
イタサン、ジーナ夫妻
僕と夏
出発だ。
別動隊は数日前に出発している。
王弟、公爵、侍従長、近衛長官、官僚、街の主だった人達、少し離れて庶民が見送ってくれる。
窓から女王が顔を出した。
「行ってくる。後は頼んだぞ」
一斉に頭を下げる。
城門の警備の衛兵に敬礼されて馬車は城門を通過。まっすぐ南に進む。一路次の宿場を目指す。
馬車の中は和気あいあいだ。出発までの苦虫を噛んだような顔の女王と侍女長は見送りの人が見えなくなるや否やにこにこし出した。
「ねえ、冬さん。マロンを撫でていいかしら」
すっかりフェンリルと言うことは頭から抜けて、マロンが可愛い子犬に見える女王である。
「いいよ。それと冬でいい」
「そう、それじゃ冬ちゃん」
「だから冬は冬」
「でもいいじゃない。可愛いから冬ちゃんで」
「まあいいか。はい。マロンだよ」
マロンは尻尾を振って女王に抱っこされている。
外では本部長がぼやいている。
「ああ、災難だ。馬にしばらく乗ってないからケツが痛い。腿が痛い」
「すぐ慣れますよ。少し乗ればS級冒険者復活ではないでしょうか」
「今日は昼は村だったな」
「はい。二時間に一回休憩して、村で昼食です」
「まだ何も出ないな」
「流石に王都から一日程度は何も出ないと思います」
「そうだよな」
「この街道は名前がついているの?」
「はい、南方街道です」
秋人に聞かれてセバスが答える。
「随分簡単な名前だね」
「ええ、王都から南に向かい隣国との国境まで延びています」
「どのくらいかかるの?」
「王都から馬で国境まで順調にいってだいたい9日です」
「遠い」
「はい。広い国です。ちなみに国はだいたい四角、辺はほぼ東西、南北の線に沿っています。もちろん地形に従って凸凹していますが。北側は入らずの森と接していて円弧状です。こちらが円の外側です。王都はほぼ中心にあり、王都から国境まで馬で南は9日、北は8日、東は6日、西も6日です」
「あれ、国の名前を聞いていなかった」
「スターク王国と申します。今まで国の名前をお知りにならなかったのも大変珍しいかと」
「えへへへ。みんな関心がなかった。ついでに王都は」
「プロスペリータスと申しますが、こちらは使う人が少ないです。王都で通じます。プロスペリータスでは通じないかも知れません」
「そう言えば国民カードをもらったな」
秋人が国民カードを出してみる。
「スターク王国と書いてあった。後でみんなに言っておく」
本部長が並んできた。
「お前達は国の名前も知らなかったのか」
「うん、誰も知らないと思うよ。関心なかったから」
首を振って本部長は前に戻って行った。
出発してから二時間程たった。休憩の時間だ。
車列を街道脇の広場のようなところに止めた。長旅の休憩場所だ。
「さて、僕が作ったものを出そう」
秋人が何か出した。便座のようだ。
「見て見て、トイレだよ。旅の友、名付けて秋人謹製クリーントイレ秋Ⅰ型」
「秋人、それはわかったけど、回りを何も囲わないの?」
秋人はえっという顔をしている。確かに広いところにぽつんと便座である。
「詰めが甘いわね」
しょぼんとした秋人。
「どこからかもらった冒険者セットのテントを出せばいい」
「あ、そうだ。そうしよう。お母さんありがとう」
秋人がテントを出す。
「テントの中に入れる前に説明して」
「みんな、これは便器だよ。ここに座って用を足す。出したものは下に溜まる」
「それじゃ座れるおまるだ」
「この便器のすごいところはこれからだ。用を足し終わったらこのボタンを押す。そうするとお尻と出したものがクリーンされる。もちろん便器もクリーンされる。脱臭もされる」
どうだと得意満面な秋人。
本部長がしげしげと便器を眺めている。
「へえ、便利だな。新しい魔法陣を発明したのか。魔法陣が盗まれるぞ。世の中には外から見ただけで盗むやつらがいるらしいからな」
「へえ、そうなの。そんな人がいるの?」
とぼける秋人。
「ふん」
「でも魔法陣は便器に書いてない」
「どうやったんだ」
「魔法陣は魔石の中だ。だから誰も魔法陣を盗めない。魔石を解析しようとすれば魔石が粉々になるようにしてある」
「ちっ」
「へへへへ」
「くそっ」
「便器なだけに」
「やなやつだ」
冒険者組合にある魔道具の魔法陣はこっそりと片っ端から読ませてもらったのでちょっと悪いと思った秋人。声を顰める。
「これ内緒でやる」
「なんだこれは」
「収納袋。時間停止、屋敷程度、魔力を流せばその人専用」
「わかった。魔法陣を読んだことは許そう。袖の下だな」
「ちょっと、なにごちゃごちゃ言っているのよ。早くテントの中に運んでくれない」
女王が焦っている。
秋人が便器を収納し、急いでテントの中に設置した。
「秋人、テントは防音だな」
「わかった」
急いで女王が中に入って行った。出入り口は侍女長が見張りだ。
しばらくしてすっきりした顔をした女王が出て来た。
「危なかったわね」
夏が侍女長に向かって言う。
「気配りが足りませんでした」
「素晴らしいわ。行ってきなさい」
交代に侍女長が中に入る。
「王宮にも是非欲しいわ。おいくら?」
「お父さん、どうする?」
「そういうことは夏に聞け」
「そうだと思ったけど一応顔を立てて」
「女王が使う分はただで良いわ。あとは料金を頂こう」
「私のところにも一台」
トイレテントから出てきた侍女長の要望だ。
「じゃあ二台ただ。後は頂く、でいい」
「もちろん」
「魔石の交換は有料よ。秋人、どのくらい持つの?」
「作ったばかりだからわからないけど、たいした事をしていない。この間のエイプの魔石を使ったけど、魔石にはたいして魔力はなかったけどそれでも数年もつのじゃないか」
「秋人、それじゃ儲からないから、一年したら使えないようにしなさい」
「へいへい」
さすが夏だとみんな思った。
「ジャイアントの魔石くらいだとどのくらい?」
「家族で使っても百年は持つと思う」
「それじゃ家のはそれにしなさい」
「はいはい」
「ずるい」
女王がすねた。
「本部長に魔石を手に入れてもらえば」
「弟よ、献上だわね」
「・・・一つ金貨60枚」
「何?」
「いえ、帰ったら秋人殿に渡します」
「二つよ」
「はいはい」
この間の魔石を売らなくて良かったと本部長はホッとした。
「ところで旅の途中のトイレは普通どうするのか」
春人が本部長に聞いてみる。
「たいてい薮の中だ。丁寧な人は穴を掘って用を足して埋める」
「丁寧でない人は」
「そのままだ」
「ただ薮も深い薮だと魔物が出る」
「命がけだな」
「だから冒険者はテントの影とかだ」
「女王さんのような人は」
「薮でさせるわけにはいかないからおまるだ」
「旅は大変だな」
女王は知らなかったと言う顔をしている。侍女長もそうだ。もっと下の人でなければわからないのだろう。
「お茶をどうぞ」
コレットが椅子とテーブルを出してお茶を配る。テーブルの上には焼き菓子。
馬の世話はテオ夫婦だ。冒険者が手伝っている。
「美味しいわね」
「姉上、本来旅は命がけだ。トイレの間に襲われる事もある。遊びで街の外には出られない。こんなお茶は飲めない。これではお茶会だ」
しょんぼりする女王。
「この巡幸の間は秋人のトイレがあるから大丈夫よ。食事も作って持ってきているからいつでも温かい食事が食べられるわよ」
「それでは姉上には旅の厳しさがわからない」
「そうねえ。それじゃ硬いパンに塩味のスープにしましょうか」
「いやいや、もう用意してあるのだから、用意してあるものを頂こう」
慌てる本部長であった。
「それはそれとして紹介しよう。僕が春人、夏、秋人、冬、マロンだ。つづいてわが家で働いている人を紹介しよう」
「執事のセバス、侍女のコレット夫妻、板長のイタサンと料理人のジーナ夫妻、馬丁のテオと下働きのテア夫婦だ」
「皆さんよろしくお願いします。女王のエカチェリーナです」
「侍女長のテレーゼ ブラントです。よろしくお願いします」
「俺はいいな。それでは先に行こう」
本部長が先にたって隊列はさっきと同じで出発した。




