044 巡幸まで
044 巡幸まで
思いは旅、心は上の空の女王と侍女長である。
王弟、公爵、侍従長はもちろん、貴族、官僚まで女王は大変な巡幸に出る。実に難しい顔をしている。とにかく王都と近場の有力者を集めての披露は無事に済ませなければならないと入念に準備し抜かりなく披露を済ませた。
披露会では女王はこれからの巡幸の前途を思い楽しく心ここにあらずであった。一生懸命苦い顔を保った。
その顔を見てお可哀想にと披露に出席した人達は思った。
ただ本部長のみ疑いの目だ。
姉は先の事にうじうじと思い悩むタマではない。先に難事があれば嬉々として剣を取って切り飛ばして先に進むタイプだ。難しい苦い顔?怪しい、絶対怪しい。
それにテレーゼ侍女長、冒険者用の服は発注したから俺に野宿が出来る冒険者セットを用意しろと言ってきた。悩んでいるのならそこまで気が回るか?もちろん冒険者セットは用意するつもりであったが先に言われてしまった。服はうっかりしていたがすでに発注しただと、俺がうっかりしてしまったのに良く気がつく事だ。
本部長はぶつぶついいながらも、頼まれたテントなどを調達して春人邸に運んだ。
すでに女王と侍女長の荷物は届いていた。二人の浮き浮き度合いがわかるというものだ。やっぱりと本部長。
本部長、頼まれていないが、どうせ春人一家の収納を使うのだろうと、生鮮野菜、果物、肉、調味料などを何日もかけ大量に業者に春人邸に運び込ませた。巡幸中に現地調達をしなくても大丈夫なくらいの量だ。
請求書はテレーゼ侍女長に届けた。店によるといつもより早く遅滞なく支払われたとの事であった。嬉々として支払い手続きをする古狸侍女長の顔が見えるようだ。
春人屋敷。
女王と侍女長の荷物は夏が収納した。
旅の間荷物を持つのは大変だから使用人には専用の時間停止の収納袋を配った。容量は一軒家くらい。荷物が増えても大丈夫だろう。
次々食材が本部長から届く。
イタサン夫妻が調理、鍋のまま収納。こちらは安全のため全員まんべんなく収納だ。鍋類が足りなくなったから大量に購入、請求書は本部長に押し付けた。
お茶も淹れては収納、淹れては収納を繰り返した。これでいつでも飲める。
準備万端である。
留守の間、連絡方法がないと困るねと春人。
「冬、ラノベでは遠く離れたところと連絡はどうとるんだ」
「ううんと、転移で連絡する、スマホみたいな物を作る。あ、連絡鳥と言うのも読んだ事がある。『目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に』というラノベで読んだ」
「スマホみたいなものはまだなじまないだろうな。連絡鳥は伝書鳩のようなものだな。冬、連絡鳥になりそうなのを捕まえてくれるか」
「いいよ、あの上の方を飛んでいるのでいい?」
春人が見ると王都の結界のはるか上空を二羽、鳥か何か飛んでいる。
「いいよ。連絡鳥になりそうか」
「言い聞かせればいいんじゃない。じゃ捕まえるよ。結界があるから転移だね」
両手を空に向けて、
「ふゆふゆはあー」
二羽が落ちた。冬が落ちる途中から目の前に転移させた。
「へえ、冬にかかったら結界は無いようなものだな」
「えへへへ」
「それでこれは何だろう」
マロンが前足で一羽?一頭づつ押さえている。
「小型ドラゴンぽいわね」
「ドラゴンさん、お友達になる?」
冬がドラゴンらしいものの頭を撫でながら聞いた。コクコク首を上下に振る。
「お父さん、友達になるって」
「それは良かった」
マロンの黄色いスカーフを複製してミニドラゴン二頭の首に巻いてやる。
「マロンの足跡つきだ。マロンの弟分だよ」
マロンの前足の下から出て来た二頭、冬にぺこぺこ、マロンにぺこぺこしている。
「それで名前はどうするんだ」
「さっきのラノベでは、ドラちゃんとドラニちゃん。でもこっちの方は大きくないからなあ。ドラ一、ドラ二でいいや」
いやはや、ネーミングセンスどころではないな。ラノベの作者のネーミングセンスもあれだが。まあいいか。
「それでこっちに預けておくとして、冬の所在はわかるのか?」
「大丈夫だよ。頭を撫でたから魔力をたどってどこにいても来るよ」
「へえそうなの」
僕らが用があれば転移で戻ってくればいいから取り敢えず連絡は取れる事になった。
出発の前日、春人達と使用人達の昼食会である。
「明日から皆さんよろしくお願いします」
「承知しました」
「皆さんの武器を切れ味良く不壊とします。食事が終わったら武器を持ってきてください。ヒカゲ家とツキカゲ家の人達の武器もやってしまいましょう。午後持参してください」
「ありがとうございます」
食事が終わって、まずは使用人達が武器を持ってきた。忍者刀はもちろんいろいろな武器、暗器のたぐいも沢山ある。
刃こぼれがあるものは直し、切れ味と不壊を付与して行く。投げる武器は手元に戻ってくるようにした。事実上無限の数の投擲武器となった。
使用人の武器が終わったら、ヒカゲ家とツキカゲ家の人達が続々と武器を持参する。
春人達は四人で大忙しだ。初めて顔を見る人も多い。二言三言話しているうちに武器を調整、調整が終わった武器を渡すと感激された。
「留守にするから、これを渡しておこう」
ポーションの一級、二級、三級、解毒薬の一級、二級、三級をセットにして、各家族二セットづつ渡した。もちろん冒険者組合で見せてもらったものを元に作ったものだ。
家族渡しとは別にヒカゲ家とツキカゲ家には10セットづつ持っていてもらう事にした。
それとは別に、古傷がある人、具合が悪い人には一級ポーションを飲んでもらった。欠損部分も治った。腰の曲がった爺さん婆さんは腰が伸びた。病気も治った。
毒の副作用が持続している人には一級解毒薬を飲んでもらった。
欠損部分があり毒の副作用が続いている人は一級ポーションだけで治った。
全員体の具合がすっかり良くなったようだ。
「お館様、一級ポーションと一級解毒薬は同じものでエリクサーなのでは?」
「そうなの?冒険者組合で見せてもらったものはあまり効きそうになかったので、効き目を良くした似たものを作ったつもりだけどね。ただ冒険者組合の物と違って劣化はしない。安心してね。そして遠慮なく使って。足りなくなったらいつでも言ってね」
武器の調整とポーション、解毒薬の配付が終わり、使用人、ヒカゲ家、ツキカゲ家の全員が庭に整列した。老人、子供、赤ちゃんもいる。
「お館様、奥方様、若様、冬姫様。ありがとうございました。この武器はお館様一家の刀であり盾であります。ポーション、解毒薬も頂きました。我らお館様一家に命を捧げ尽くします。我らが命ご自由にお使いください。ご下命いかにても果すべし」
いやいやそれは大江戸捜査網だから。知らないだろうけど。
「ありがとう。気楽にやってね。明日から巡幸につき合うのでいないけど留守の間よろしく」
「はは、お屋敷は命を懸けて守ります」
いや、そこまではと思ったがそうしておきなさいと夏が言っているみたいだ。
「頼んだよ」
「はは」
「ああ、それからこの2頭は冬の従魔、マロンの弟分だ。名前はドラ一、ドラ二。冬がどこにいても冬を見つけて飛んでくる。巡幸に出ている間はこちらに預けておく。何かあったらこの首の下に垂れている黄色いスカーフでメモをくるくる巻いてくれ。解けない。メモを巻いた人と僕らしか解けないので安心してくれ。世話は大丈夫かい」
「はい。我々にも従魔を扱える者がいますのでお世話が出来ます。こんな強そうな従魔は初めてですが」
「大人しい子だよ。みんなの魔力は覚えたから大丈夫だよ」
「頭がいいんだ」
「お父さん。鳥頭じゃないからね」
「なるほどドラゴン頭だったな」
「それじゃ今日から預かってもらおうか。明日の朝様子を見よう。大丈夫そうなら置いて行こう」
「うん。用がなくても時々一頭づつ放して。冬のところに来たいから」
「はい、冬姫様。承知しました」
「それからみんなにこれを渡しておこう」
小さい袋を全員に渡した。
「収納袋だ。容量は当主のは春人屋敷くらい、他は一軒家くらいで小さいが使ってくれ。時間停止だ。魔力を流すと専用になる。容量が足りないようなら言ってくれ」
「お館様、一軒家分の収納などこの世界のどこにもありません。時間停止もそういう事が出来るとは聞いた事がありません」
「そうかい。それは秋人が暇に任せて作ったものだ。気にせず使ってくれ」
「ははー」
もはやヒカゲ家とツキカゲ家にとって春人一家は神のようになってしまった。
出発準備は終わった。




