043 四人組 王宮で女王に報告する
公爵の馬車で春人屋敷から出た四人組。落ち込んだままだ。
馬車が止った。気がつけば王宮である。
いつも先に行けと押し付けあい、奇麗に言えば譲り合いをする四人であるが今日はそういう元気もない。
女王執務室のドアをノックした。
侍従がドアを開けてびっくりした。
四人組が立っている。このメンバーならノックをして立ち止まっている事はない。
ややあって侍従。
「どうぞお入りください」
「何やっているのよ。さっさと入ってきなさい。で、四人で行ったみたいだね。どうだった?」
やむを得ず王弟が代表した。
「それが引き受けてくれましたが巡幸方法につき、二つ提案がありました」
「引き受けてくれたか。それはありがたい。二つの案とは?」
「一つは、女王陛下、侍女数名、近衛隊、補給部隊、文官数名、実務責任者、本部長を含む冒険者で巡幸隊を構成、春人一家が加わる案です」
「ふむ、実務責任者は王弟と公爵が交代か。まあ普通の案だろう。もう一つはなんだ」
「女王陛下と陛下の侍女一名。春人一家、使用人六名。馬車一台に馬」
「その場合、陛下と侍女の荷物などは事前に春人邸に届ける。陛下と侍女用のテント、春人一家用の四人用テント、使用人用テント三つも届ける。宿代等かかった経費は後で春人殿から請求。別途、街から街への案内冒険者を用意。先回りをして招待状を出したり披露会をセットしたりする別動隊は必要」
しばらく女王は沈黙していた。
「突きつけられたか」
女王は気がついた。さすがだと四人は思った。
「この国の貴族達は前者の案しか思いつかないだろう。後者の案は異端だ。しかし「王と農民」とか「王と村娘」とかの有名な物語があるが、前者の巡幸からは生まれてこないだろう。後者の巡幸なら生まれる。伝説の巡幸は後者のようなものだったのだろうな」
「まことにそのように思います」
「国が大きくなり、組織が整備されると民と中央組織の乖離が起こる。自然民と王は遠ざけられる。それが前者の巡幸スタイルの発想となる。ということに気付かされたな」
聡い方だと四人は思った。
「よし。後者の案で行こう。一人加える」
良くない予感がする本部長。王弟と公爵、侍従長が哀れむように本部長を見やる。
「わかったようだが、弟よ。つき合え」
「はいはい。わかりましたよ」
「公爵が中心になって巡幸日程を作成、別動隊は王弟が責任者となって組織しろ。披露会の場所、招待者の人選、侍従長を含め三人で良く連携してやってくれ」
侍従長は自分は人選だけだとホッとした。
「侍従長は王子と王女が勉学をさぼらないようにしっかり監督しなさい。戻ってきたとき勉学が遅れていたらわかっているわね」
「はい」
ああもしかすると毎日気が抜けない自分が一番大変かも知れないと侍従長。
「公爵、王弟、侍従長は貴族、官僚に良く根回ししておきなさい。巡幸に出かける前に王都の下級官僚、街の有力者、王都周辺の街、村の代表への披露はやってしまいましょう。その手配もよろしく」
四人が帰った春人邸。
「下向いて帰っちゃったね」
「春人が脅かすから」
「脅かしたわけではないけどなあ。王政の場合、王は雲の上の人だろうから良い機会だと思ってね」
「そうね。お忍びセットがあったけど、お忍びだと言ってもあらかじめ整えられた街に繰り出すだけでしょう。おそらく回りは影、近衛兵、衛兵で十重二十重に取り囲んで、厳選された庶民と庶民ごっこね」
「どっちを選ぶかな。大名行列巡幸にするか。それでも回らないよりましだな。この世界の他の国がどうか知らないけど、少なくとも国内各地を巡ったという事実は残るし、いくらかでも得るところはあるだろう」
「案外少人数巡幸を選ぶかも知れないわね。いままで王宮だけで暮らしていたとすれば羽を伸ばして自由にあちこち行ってみたいと思っても不思議ではない。それに四人組もそうだが、そんなに権威を振り回す人達ではない」
「召喚陣を動かした最初の四人組はひどかった」
「でもそれが絶対王制では普通なのでしょう。自分たち以外は人ではないと思っている」
「難しいね。僕らがこうやって超法規的に楽に暮らしているのも王政のおかげだしね」
「民主主義社会ではこうはいかないわね。法律とか議会とか予算とか難しい」
秋人はすでに飽きて庭で何やら作っている。
冬はマロンと入らずの森、入らずの森と唱えてご機嫌だ。
一方四人組が出て行った女王執務室。
「服はどれが良いかしら。まさか脱出用の庶民服というわけにはいかないわね」
相手は少女時代から苦楽を共にしてきた側近のテレーゼ侍女長である。
「地下にあるお忍び用のセットはいわばお仕着せよね」
「そうですね。仕立屋を呼んで作りましょうか。上級庶民の服。私のと」
しれっと付け加えたテレーゼ侍女長である。
「冒険者の服も良いわね。野宿なんて生まれて始めて。野宿なら冒険者の服よね」
「ではそれも作りましょう。私の分も」
気がついた女王。
「あれ、行くの?」
「当然。他に誰がいますか」
「いないけど」
「では二人分作りましょう」
「いいけど」
「野宿で夜寝るときはどうするんだろう」
「それは魔物が来るかも知れないから冒険者の服で寝るんでしょう」
「そうよね。飛び起きるんでしょうね。そしたら剣を振るって魔物を退治、ああ面白そう」
「寝具はどうするのでしょう」
「冒険者用寝具があるのではないか。仕立屋は冒険者の服も作るだろうから聞いて用意してもらおう。それか弟に用意させよう。うん。そうしよう。服は仕立屋、他は弟に我々用の野宿セットを用意させよう」
仕立屋は本来冒険者の服など作らないのである。世間知らずなお姫さまと伯爵家出の上級侍女長なのであった。
しかし、仕立屋は春人達の冒険者用の服を作ったので引き受けた。世間知らずが訂正されることはなかった。
女王は四人組が難しい顔をしていたのでそれに合わせてもっともらしい事を言ったのであったが、王都の外に堂々と出られる、それも監視なし、春人達とのんびり旅行である。面倒な事は一緒に連れて行く弟に押し付ければいい。しかも遊びではなくちゃんとした仕事である。みんなもそう思っているだろう。大変な仕事と思っているだろう。
これを逃す手はない。私、頭良いと思うのであった。
侍女長と二人、大変そうな苦い顔をしていようと思うのであった。
二人は巡幸という旅行が楽しみなのである。




