042 春人一家 女王の護衛を頼まれる
春人邸についた本部長と王弟、公爵、侍従長。セバス執事に応接室に案内される。
春人が応接室に入ってきた。
「おや、いつもの本部長、王弟、公爵、侍従長の四人組ではありませんか。今日はどのような悪巧みで?」
「いや悪巧みではない。お願いがあって来た」
「へえ。四人も揃っているところからすると女王さんの依頼かな」
「そうだ。春人一家への依頼だ」
「それじゃみんなを呼ぼう」
セバス執事が応接室を出て行った。
冬とマロンが入ってきた。
「あ、愛人のおじさんだ」
みんな知っているからにやにやしている。
「あのなあ、たのむからおじさんにしてくれ」
「マロン、おじさんだよ。愛人のいるおじさんじゃないよ」
「ワン」
「わかったって」
夏と秋人も来た。
侍女のコレットがお茶を淹れる。
「みんな揃ったわよ。しかし王宮から三人もねえ。王宮は暇なのかしら。本部長は暇だろうけど」
暇と思われて構われても困る。王弟が焦る。
「いやいや忙しい。本部長に拉致されてきた」
「まあいいわ。仲良し四人組なんだから。用はなに?」
同行の三人から圧を感じてしぶしぶ本部長が口を開く。
「女王が各地を巡幸する。国内一回りだ。その護衛をお願いしたい」
「へえ、大変だねえ。顔見世興行かな」
「そうだ。普通は地方の有力者を王都に集めるが現在魔物が深い森からあちこちに出て来てしまっている。行き帰りの安全が担保できない。だから女王の方から各地を巡る」
「護衛は冒険者組合が得意では?」
「春人殿、それはそうだが、現状どんな魔物でも対応出来て護衛を万全に遂行できる冒険者はいない。ただ街から街への道案内には地元の冒険者をつける」
「軍は?」
「近衛隊が随行するが魔物には対応できない。卑怯な、いや思いもつかない戦いを仕掛けてくる一部の盗賊にも対応できないだろう。正確に言うと護衛は表は近衛兵、魔物対応を含む遊撃は春人一家にお願いしたい」
「近衛隊は飾りか」
「正々堂々と行進は出来る」
「期間はどのくらいか」
「この巡幸は春人殿一家が引き受けてくれないと成り立たない。引き受けてくれたら計画する」
「まあ暇だから良いけど」
「そうか、引き受けてくれるか」
「入らずの森に行こう」
「だそうだ。近くは通るか」
「もちろん、近くに街がある」
是が非でも寄ろうと本部長。
「それじゃ冬は行ってもいいよ」
「それで野宿になった場合誰がテントを張るのか、夜間の見張りはどうするのか。そうか本部長と本部冒険者が行くのか」
苦い顔をしている本部長。
「おう、確かにそういう話だったな。そうだな、公爵、侍従長」
「そうであった」
「はい、そういう話だったような気がします」
嘘つき達めと恨みのこもった目で王弟、公爵、侍従長を睨む本部長。素知らぬ顔をする三人。
「野宿のテントは誰が持って行くのか。冒険者に巡幸する人達全部のテントを持てと言うのは酷だろう。それを含め補給部隊は軍が担うのか」
「そうだ。そういう事になっている」
今度は本部長が勢いがよい。王弟が俺の方に回ってきたと渋い顔になる。
「女王が移動するのだ。それなりの物資は必要だろう。補給がないとすべて現地調達になってしまう。豊富に物資があるところならいいが、村程度の場所では補給もままならないだろう。徴集すれば女王の評判が悪くなる」
「物資は用意しよう」
「宿の手配、支払い、顔見世場所の設定、次の予定地への連絡、調整など細々とした仕事、また女王が長い間王都を離れると連絡や多少の事務仕事などもあるだろう。気の利いた文官が複数必要だろう」
「まったくそうだ。それは公爵の仕事だ」
今度は王弟の勢いが良い。
「用意しよう」
「それで女王の身の回りの世話はどうするのか。侍女が必要だろう」
今度は王弟と公爵が侍従長を見つめる。自分は関係ないと傍観していた侍従長、火の粉が降ってきた。
「用意します」
「それで全体の責任者は女王だろうが、実務の責任者は誰だ?」
今度は自分は断じて関係ないと侍従長。親切に発言する。
「それは公爵様か王弟様かと思われます」
ざまあと本部長はにんまり。
「ああ、それはつまり・・・」
「えーと」
煮え切らない王弟と公爵。
にこにこした本部長、お気楽に発言する。
「二人で交代で王都の留守番と巡幸責任者をやればいい」
「さようですな。わたくしめは王子と王女としっかり留守番をしていましょう」
侍従長もお気楽である。
「もう一つ案があります。我が一家四人と使用人6人、女王と女王の侍女1人、馬車1台、馬という手もある。女王と侍女の荷物などは事前にこちらに届けてくれれば良い。女王と女王侍女のテントは用意してもらうようだが。それと一家四人用テント、使用人のための二人用テントも三つ欲しい。これらも届けてくれれば良い。宿代、購入した食料、消耗品など、かかった経費は後で請求する。街から街への案内冒険者は別途必要だ。出発当日は目立たないように女王と侍女にここに来てもらう必要がある」
「それだけで良いのか」
「移動はそれだけだ。先回りをして招待状を出したり披露会場をセットしたり、後片づけしたりするなどの先発隊というか別動隊は必要だが」
春人の後者の案はほとんど何もしなくても良い。女王と侍女の荷物、女王と侍女のテント、4人用テント、使用人用テント三つを事前に春人屋敷に届けるだけだ。
あとは出発の日に女王と侍女を春人屋敷に送り込み、城門で次の街までの案内冒険者1名を加えればよいだけだ。
別動隊はそれこそ自己完結組織の軍に文官数人を加えて動かせばよい。
後者の案は簡単だとぐらっと後者の案に傾き始めた四人組。
「戻って女王と相談してみます」
「僕らはどっちでも良いよ。権威ある女王として有力者に頭を下げさせ一言ねぎらいの言葉をかけるなら前者、地方の風を感じ、民の生活を知り、民の飾らないありのままの自然な声を聞く、さまざまな立場の人達と接するなら後者。後者は権威に守られた女王でなく、人としてのエカチェリーナが問われる。前者の方が楽だと思うよ」
四人が巡幸について漠然と考えていたのはまさに前者の「お言葉」かけであった。
春人の後者の案は、一見簡単で楽な案だと思ったが全く違った。女王が人として問われる。
にわかに難しくなったと四人組。
「戻って女王と相談してみます」
最前の言葉と同じだが、内容はまるで違う。
春人殿に護衛を押し付ける仕事だと思ったら、巡幸の基本理念、いや国の為政者としてのあり方を問われてしまった。
下を向いて馬車に乗り込んだ四人であった。




