035 マロンパパとマロンママが人化し串焼きを食べに行く
王妃達が帰った春人邸。
「お館様、仕立屋のサルトールご夫妻がお見えです」
「そうかい。応接に案内してくれ。すぐ行く」
本部長が見ていると神獣様がするすると大型犬並に小さくなった。
「本部長もどうぞ」
応接に春人達が入ると仕立屋のサルトール夫妻が立ち上がって挨拶をする。
「来てもらってすまないね。今日は、こちらの神獣のマロンパパとママの人化したときの服を作ってもらいたくてね」
「人化でしょうか」
「はい、格の高い神獣ですから人化できるそうです。即位式主役級、上級貴族、上級庶民、冒険者の服、身に付けるものすべてを見繕ってください。支払いは」
「まだまだ大白金貨には遠く及ばない」
「本部長さんが払ってくれるそうです」
「承知しました。では採寸を」
「サルトールさんはセバスとマロンパパの採寸を、サルタさんはコレットとマロンママの採寸をおねがいします」
「はい、早速」
セバス執事とコレット侍女がそれぞれ案内して行く。
しばらくしてサルトールとセバス、男の人が出て来た。
神々しさ力強さ、荒々しさが滲み出る40代に見える偉丈夫である。服は自分で作ったらしい。さすが神獣。ほとんど神である。
「スサノオノミコトのようだ」
呟いた春人。
「おお、それでよい。今日からスサノオノミコトだ。長いな。スサでいいぞ」
続いてサルタとコレット、女性が出てきた。
こちらも神々しさが滲み出る30代に見える偉丈夫、でなく偉丈婦である。こちらも服は自作らしい。
「スサノオノミコトならクシナダヒメか」
「串・・、ナダでいいわ。ナダ」
マロンパパとマロンママはスサさんとナダさんになった。
《僕も、僕も》
「おお、そうだったな。力が足りないな。少し足してやろう」
スサとナダがマロンの頭を撫でる。
ポンと三、四歳の幼児が出現した。
すぐサルタさんが採寸した。さすがに手持ちの幼児服はないと言うので、マロンには元に戻ってもらった。
服屋さんは急いで帰って行った。取り敢えず明日には上級庶民服セットを持ってくるそうだ。
「これなら串焼きを食べられるな」
「行ってみましょう」
当座の費用を渡そう。巾着に小白金貨、金貨10枚ほど、大銀貨、中銀貨、小銀貨をざらざら入れて二人に渡した。
「どうぞこれで串焼きを食べてきてください。もどって夕食にしましょう。案内は本部長がしてくれます。お金の使い方も教えてくれます。馬車で行ってきてください」
「おう、楽しみだ。本部長殿、案内を頼むぞ」
「ややこしい事になった」
頭を抱える本部長。何で俺と思ったが、マロンパパとママは恐い、春人一家も恐い。
ため息をついたあきらめが良い本部長。春人家の馬車に二人とマロン、冬を乗せて広場へ向かった。
広場についた馬車、本部長と冬、マロン両親、マロンを下ろして馬車は服屋さんの馬車を止める場所を使わせてもらって待機。
ご一行は広場を散策。
「本部長、なかなかにぎやかだな。我が串焼き屋台もさっきとはちがいお客が並んでいるな」
「さっきは排除していましたから」
「そうか。屋台のおやじの後ろと屋台の前にお前の部下がいたな」
「良くお分かりで」
「迷惑をかけたな」
「いや、王都が瓦礫になっても困りますから警備をさせていただきました」
「理不尽な事がなければ大丈夫だぞ」
「理不尽の基準がわかりませんものですから」
「わが子と春人一家に敵対しなければ後はどうでも構わない。気楽だろう」
「春人一家にしても人がどうこうできるものではないわ」
「人がどうこうですか」
「わかっているでしょう」
「まあなんとなく」
「後は我が子ね。まだ力がない。ほらあそこでマロンを捕まえて売り飛ばそうとしている男達に囲まれている」
「あ、目を離した隙に」
「そうなのよね。私たちも我が子からちょっと目を離した隙にジャイアントエイプにつかまってしまったのよ。春人達に我が子が助けてもらわなかったら森を吹き飛ばすところだった」
「助けないと王都を吹き飛ばすぞ」
「でも冬が戻ってきたわ」
冬が串焼き2本を持ってマロンのところへ戻ってきた。
「おじさん達、何やっているの?」
「なんだ、ガキが」
「マロンに何しようとしているの」
「決まってる、捕まえて売り払うのよ。お前も一緒に売り払ってやろう。ここじゃまずいからこっちだ」
「悪党?」
「あたりめえよ」
「そう。お父さんが正当防衛と言っていたのよね」
「なんだそれは」
「襲われたら殺しても良いのよ。でもここでは襲いかかる勇気はないでしょう。人の目がありすぎる」
「なんだと。俺達を誰だと思っているのだ」
「意気地無しの小悪党」
あおられて頭に血が上った男達。
「やっちまえ」
男達が隠し持っていたナイフを抜いた。
冬が串焼き二本を本部長の方に投げる。本部長が両手でキャッチした。
「おう、上手だな」
スサが褒めている。楽しそうだ。
「あれー、悪党に襲われるー」
冬が大声で叫んだので広場にいた人の注目を浴びてしまった小悪党。手にはナイフを持って構えてしまっている。焦る小悪党。
「ほらどうするの、小悪党さん」
小さい声で小悪党に声をかけてマロンを囲んだ囲みの中に入って行った。
脅されているように後ずさりである。マロンもクーン、クーンと情けない声を出す。
「冬とマロンは役者だな」
「そうね。楽しそうね」
「どうする、本部長」
俺は楽しくはないと両手に串焼きを持った本部長だが、しょうがないから串焼きを持ったまま事案化進行中の方に行く。
「あれー、襲われるー」
冬は大声だ。
「馬鹿、何を言う。静かにしていろ」
「口を塞がれるー」
「黙っていろ」
「おい、何をしている」
「あー、てめえ俺達を誰だと思っている。引っ込んでろ」
本部長、小悪党の開いた口に串焼きを突っ込んだ。
「ああ、おれの串焼きをとった。お前は盗人だ」
「何を言う」
言った小悪党にも串焼きを突っ込む。
「ああ、またおれの串焼きに噛みついた。汚ねえ。盗人め」
「おじさん、恐いーーー」、「クーン、クーン」
「何をしている」
衛兵が登場である。
「これは、これは」
すかさず衛兵に握らせる小悪党。握ってしまった衛兵であるが、少女と子犬を見て、強面の本部長を見て慌てた。
「なんだこれは、本官を買収するつもりか」
握ったものを地面に叩きつけて、笛を吹いた。
いつもと違うと小悪党。
衛兵が集ってくる。
「どうした。しました」
こちらも本部長をみて口調が丁寧になる。
「俺の串焼きをこいつらが盗った」
「いやそれは違う」
「それにこいつらがそこの少女と子犬をさらおうとした。みてみろ、ナイフを抜いて言うことをきかせようと脅していたところだ」
慌ててナイフをしまう小悪党だが集ってきた衛兵にしっかり見られた。
「衛兵詰め所で話を聞く。こっちに来い」
引っ張られる小悪党。
「その前に俺からかっぱらった串焼き代を置いて行け」
衛兵が小悪党のポケットから巾着を出して串焼き代を本部長に渡した。
「ど、泥棒」
衛兵に小突かれる小悪党。
「お前、手に串焼きを持っているではないか」
「あっ。くそ」
「今大人しくつかまっていれば死罪にはならない。暴れれば死罪だ。相手は冒険者組合の本部長だ」
「げ、元S級冒険者で王妃様の」
「そうだ。手を出さなくて良かったな。手を出せばその辺にお前の首が転がっていた」
大人しく縛につく小悪党達であった。
「それでは失礼します」
衛兵達が小悪党を引っ張って行く。
「もうちょっとで正当防衛だったのに」
「まあそう言うな。広場が汚れなくて良かった。はいよ。串焼き代」
「みんなで一緒に食べよう」
一部始終を見ていた近くの串焼き屋台のおやじ、慌てて串を焼き出す。
その後みんなで楽しく串焼きを食べた。本部長は楽しそうではない。
無事に馬車で春人邸に戻った一行。
「では失礼する」
「まあまあそう言わずに。夕食を一緒にどうぞ」
逃げようと思った本部長。セバス執事に退路を断たれる。
あきらめて夕食を一緒にした。
美味しかったが馬車で送られながら二度と来るまいと思うのであった。




