036 神獣は数日春人の屋敷にいて森に帰る
翌日、本部長は事の顛末を王妃達に報告した。
王妃と居合わせた王弟、公爵は自分たちが春人屋敷に残らなくて良かったとホッとした。
異口同音に、
「これからも春人殿一家、御神獣様一家の事を頼むぞ」
「頼んだぞ」
言われて肩を落とす本部長であった。
春人屋敷では、秋人がスサと剣の稽古をしている。
「なかなか筋が良いぞ。春人殿に教わったな。剣筋が似ているがまだまだだな。その昔の勇者にも及ばない」
ポンと叩かれて剣を落としている。
「師匠、まだまだ」
いつの間にか師匠になってしまった。
冬はナダに薙刀を教わっている。夏は嬉しそうに見ている。
そうやって数日楽しい時をすごした。
やがて服屋から神獣一家の服も含めすべての注文の品が納品になり、服を収納したスサとナダ、森に帰る事にした。
「服はすまなかったな。自分で作るのはシンプルなのは簡単だが、手が込んだのは面倒だ。助かる」
「長居したけど森も心配だから帰るわ」
「いつでも来てください」
ナダお母さんがマロンを抱っこしている。冬にマロンを渡した。マロンは尻尾を振っている。
「マロンも元気でね。せっかく服を作ってもらったから時々来るわ」
「うむ、時々顔を出そう。春人一家も入らずの森に来ると良い。歓迎する」
「はい、わかりました」
「春人殿の屋敷で働く者たちにも世話になった。料理も美味しかったぞ」
「ありがとうございます」
イタサン夫婦が嬉しそうにお礼を言う。
「では戻ろう」
「師匠、また手合わせをお願いします」
秋人、冬が手を振って送る。
春人、夏も手を振る。
セバス執事とコレット侍女夫婦、イタサン板長とジーナ夫婦、テオ馬丁、テア下働き夫婦も揃って見送る。
スサとナダ夫婦は手を振り返しながら転移して行った。
「スサさんとナダさんはいつ剣や薙刀の稽古をしたのでしょう」
「勇者とか言っていたから何人かの勇者と剣を交えたのではないか」
「そうかもしれないわね。薙刀を使う勇者もいたのでしょうね」
「ああ、そうすると何千年も生きているのだろう。事実上神だな」
「そうね」
「神の子供?」
冬がマロンを春人と夏に向けて掲げる。マロンは舌をちろっと出し尻尾を振っている。
「まだ神には見えないな」
「そうだわねえ。ちゃんと面倒見ないとね」
「うん。マロンは冬の弟」
マロンは冬に抱っこされて尻尾を振ってペロペロが忙しい。たしかにまだまだ神の威厳はない。
「お母さん、薙刀が欲しい」
「そうね。やっぱり我が子だわ。特に魔物相手では薙刀よね。振り回しても味方を傷つける心配もないし、突きに特化した槍では魔物相手では役に立たない」
夏は冬が薙刀に興味を示してくれて嬉しい。
「そうか。それじゃ、夏、ちょっと薙刀を貸して」
「はい」
薙刀を渡された春人。
「まずは宝物庫にあった状態に戻して複製。よし出来た。オリジナルは返す」
夏に薙刀を返した。夏は自分で不壊などと言って元に戻した。
春人が複製を手にする。
「冬の背丈に合わせて柄を短くする。刃も調整して、もう一度切れ味鋭く、不壊。出来た。はいよ」
受け取った冬、自分専用にして早速振り回す。
「さすが我が子、免許皆伝よ」
えらく満足な夏であった。
「そうだ。本部長にスサさんとナダさんが帰ったと連絡しておかなければならないな」
「そうね。わが家の担当者だそうだから」
「お館様、神獣様がお帰りになったという事だけでしたら連絡しておきます」
「そう。それじゃ頼む」
「はい。承知しました」
スサとナダは入らずの森に転移、すぐ神獣の姿に戻る。
《やっぱりこのほうが楽ね》
《それはそうだ。本来の姿だからな。さて魔物の分布を調べながら帰ろう》
ねぐらから離れたところに転移したのは森の状況確認のためでもある。
神獣だからめったやたらと討伐はしない。森のバランスが狂うから適度に間引いているのであった。
ちなみにほぼ神だから食べなくても良い。もったいないから間引いた魔物は食べるが。
ゆっくり歩きながら語らう。
《春人殿はハットリと言ったな》
《そうね。たしかこの前の勇者もハットリと言った。あの人はいい人だったわね。剣一筋》
《ああ、いろいろな流派を知っていたな。おかげで勉強になった。薙刀も教わったな》
《おかげで冬に教えられた》
《ハットリはどの流派でも一流だった》
《春人殿の剣もハットリ勇者と似ている》
《そうね。それよりも洗練されていると言うか》
《荒々しさ、粗削りさがないな》
《もしかすると長い年月実戦で使っていなかったのかも知れない》
《磨き上げたか》
《またこちらで実戦に使えば磨き上げた剣に血肉が通うだろう》
《そう言うのを鬼に金棒とハットリ勇者が言っていたわね》
《なつかしいな。彼以前の勇者は散々だった》
《あれはひどかったわね。思わず殺してしまった》
《まったく。世界に害を振りまいたヤツだった。おっとねぐらに着いた》
ねぐらは平地に飛び出た岩山の洞窟である。
その周囲はかなり広く聖域化している。草原があり森があり川があり湖がある。
魔物はいない。なんと動物が棲んでいるのである。小さい動物たちが神獣が帰ってきたと知って花をくわえて来た。
《よしよし。良い子だ。元気にしていたか》
うんと頷いたようだ。花を置いて草原に駆け戻って行く。
《可愛い子達だ。わが家は良いな》
《はい。もちろん》




