034 王妃達 春人の屋敷でフェンリルと会う
春人屋敷の玄関では執事が待っていた。
影の変装用の執事服ではなく王宮の侍従長より格上のような気がする執事服である。何となくその先がわかってしまった一同である。
執事に招じ入れられた王妃。春人が迎える。
背は高く、顔はりりしく力強くそして優しくも見える美男、体は細いように見えるががっしりしていてしかもバランスが良い。服は質素、シンプルのように見えるが、最高級服地に手がかけてある事がわかる。
成り上がった者にはない血統と伝統と力に裏打ちされた武将クラスに見える青年である。
思わずくらっとする王妃。
「姉上」、「義姉上」
はっとして気を取り直す王妃。春人に声をかけられた。
「これですか。馬子にも衣装ですよ。どんな人でも立派な衣装を着せると立派にみえるという僕の国のたとえです」
最初会ったときは荒ぶる神で恐ろしく正視出来なかったがこういう方であったのかと王妃。馬子どころではない。武将に衣装だと思った。
「王妃さん、改めまして、こんにちは」
「はい。こんにちは。私にも名前があります」
「あ、ごめんなさい。聞いていなかったものですから」
「エカチェリーナと申します」
「では、始めから。エカチェリーナ王妃さん、こんにちは」
「はい、こんにちは」
「もしかして他の人も名前があったりして」
「ミヒャエル クラッセンだ。公爵をやっている」
「エッカルト クラウスナーだ。今はなき国王の弟だ」
「おれは言うまでもなくエルダーハインツ クラッセンだ」
「なるほど。本部長はエカチェリーナさんの不肖の弟と言うわけですね。それで公爵の」
「そこはどうでもいい」
「そうでしょうね」
「何で納得する」
「公爵もエルダーハインツさんの不祥事続きで大変だったかと。王妃さんと公爵のご心痛、お察し申し上げます。もっとも今は立派な本部長」
「わかった。わかった。今日はフェン、マロン様のご両親にご挨拶に参った」
「マロンの名前もフェン マロンにしたほうが良い?マロン フェンか」
「マロンでいい」
「そうですか。ちなみに両親は、マロンパパとマロンママです」
「本当か?」
「本当かと言われるとーーーマロンパパとマロンママで通じるから良いんじゃないでしょうか。庭で冬と遊んでいますよ。行ってみましょう」
玄関からもう一度出て庭に回る。
「お前は春人殿と仲がいいのね」
王妃に言われた本部長、
「仲ーーーーー」
庭には馬よりでかい犬?狼?型のシルバーに光り輝く神獣が2頭いた。
一頭に冬がまたがっている。冬の乗っている神獣の頭にマロンが乗っている。もう一頭の神獣には秋人だ。
楽しそうに長い棒をふりまわして騎馬戦をしている。文字通りの騎馬戦だ。
夏はテーブルでお茶しながら観戦だ。側にはコレット侍女が控えている。夏は上級貴族らしい服を着ている。コレット侍女も侍女長と言われてもおかしくない服だ。
「夏もそうしていると美人な貴婦人だな」
もともと夏は美人である。そうでなくては女狐詐欺師が出来なかっただろう。
「あら、今ごろ気がついた?これでも公家の出よ。ところでお客さんね。一緒にお茶などいかが?」
執事がテーブルと椅子を運んでくる。
時々執事が増えるらしい。
「どうぞお座りください」
若き武将?大公?一家のような様子に呆気にとられた一同。それでも勧めに従って椅子に座った。
王妃たちが座ると侍女がお茶を淹れてくれる。侍女もフレキシブルに増減するらしい。
「あちらがマロンの親ですよ」
「親は親なんでしょうが、でかい・・・」
春人夫妻と一緒に王妃たちは神獣騎馬戦を観戦する。
体力では秋人に劣る冬、マロンが頃合いと見て「ワンワン」と吠えた。
謎のワンワン波が秋人の胸を打つ。少し体勢を崩したところに冬の突きが入った。
「痛え」
「はい、勝負あった」
「ちぇ、マロンが加勢するからなぁ」
「いいじゃない、年齢が違うんだから」
「まあそうだけど」
二人がぽんと神獣から飛び降りてきた。冬はマロンを抱いている。
「こんにちは」
秋人に言われて王妃が挨拶を返す。
「はい、こんにちは」
「マロンだよ」
「可愛いわね」
「そうだよ。あっちがマロンパパとマロンママだよ」
「紹介してもらえるかしら」
「いいけど、誰だっけ?」
「ごめんね、エカチェリーナといいます。王妃をしています」
「じゃあエカちゃん行ってみる?」
「はい」
エカちゃんになってしまった王妃と冬がマロンパパとママの方に歩いて行く。
「マロンパパとマロンママだよ」
「初めまして。エカチェリーナと申します。この国の王妃をしています。この度は我が国においで頂きありがとうございます。ご滞在中、なにかありましたならこのエルダーハインツ クラッセン冒険者組合本部長になんなりとお申し付けください」
俺かと思ったが黙っている本部長。
《うむ。我が子に何かあったらこの街を、国を滅ぼすまでだが、多少の事は旧知のお前が片づけるのだな》
旧知になってしまった本部長。王妃にも睨まれる。
「はい」
と返事する以外なかった。
《そうか。そうか。名前はエルダーハインツ クラッセンだな。覚えておこう》
「ありがたき幸せ」
《ありがたくないと思ったろう》
《あなた、可愛そうよ。黙って滅ぼしてしまえばいいのよ》
《それもそうか。わはははは》
冷や汗が出てくる、王妃、公爵、王弟、本部長であった。
「ではこの街の滞在が良き滞在になりますように。私どもはこれで失礼いたします。ご両親様、あとはこれが担当です。存分にお使いください」
「さようさよう。この者は我が身内ながら貴賤、上下、良く知るものです。何でもお聞きください」
「そして、冒険者組合の本部長です。何でも対応します」
「「「では失礼いたします」」」
王妃と公爵、王弟は本部長にマロンパパとママの対応を押し付けて逃げて行った。
いつまでマロンの両親がいるかもわからないからもちろん王妃の馬車が帰ったあとは近衛兵の警備体制はとかれた。
猿ぐつわをされていた貴族も解放された。
後に貴族は近衛隊を訴えようと思い公爵に会いに行ったらお茶を出され本題を切り出す前に世間話で後ろめたいところを遠回しに話題にされ、ごもっともごもっとも世間にはひどい話もありますなとすごすごと帰らざるを得なかった。




