033 王宮はフェンリルが現れたと知る
近衛兵隊舎から王宮はすぐだ。
本部長は顔パスで門を通過、すぐ侍従を捕まえて王妃への面会を要請する。ただならぬ雰囲気だからすぐ国王執務室に通された。
執務室には王妃、王弟、公爵、侍従長がいた。
「どうしたの。いつも忙しいわね。髪が乱れているわよ」
「乱れるほど長くない。それはどうでもいいが、フェンリルが2頭現れた」
「なんで、というか、子犬と称しているフェンリルの子供の親ね」
「そうだ。両親だ。大型犬に変化している」
「今どうしているの?」
「春人殿一家と一緒に俺のところに寄って、それから広場で串焼きを食べて、春人殿の家に行くらしい」
「途中で何かあったら王都は壊滅だわ」
「そう思って、城門の衛兵に広場の警備を依頼した。もちろん冒険者も緊急出動した。串焼き屋に張り付いているようにした。広場から春人殿の家までは近衛隊長に警備を依頼した」
「それでいいわ」
「衛兵隊長には会えなかった」
衛兵隊長に連絡しに侍従長が出て行った。
「それでフェンリルの様子はどうなの?フェンリルとは誰も会った事はない」
「俺も始めて会った。シルバー色の毛並みの大型犬に見えるが本当の大きさは違うだろう。フェンリルは話せた。口ではなく頭に直接語りかけてきた。言い伝え通り確かに魔物ではなく神獣なのだろう」
「なんて言った?」
「我が子と我が子の保護者一家に手を出さなければこの人の街は無事だと言われた。多少の事は目をつぶるとも言っていた」
「馬車を用意。目立たない馬車だ」
「義姉上、どこへ」
「春人殿の屋敷だ。神獣殿にご挨拶に参る。来るか?」
「はい」
「よし、行こう。公爵もだ。弟よ。案内せよ」
「はいはい」
その頃春人達。広場に到着。いつもより静かな広場だ。衛兵の数が多い。冒険者もちらほらいる。
「串焼き、串焼き」
冬と串焼きの味を覚えたマロンが串焼き屋台に突撃する。
「おじさん、串焼き」
「は、はい。只今。何本でしょうか」
緊張しているおやじ。おやじの後ろには冒険者、屋台の前にも冒険者。少し離れて関係ないように装った衛兵。お客はとうに排除されている。どの屋台に来てもいいようにすべての串焼き屋台からお客は排除されていた。
「冬とマロンとお父さん、お母さん、秋ニイ、マロンパパ2本、マロンママ2本で9本」
「はい。お待ちください」
「おじさん、どうしたの。言葉遣いが変だよ」
「きょ、今日は良いお日柄で」
「まあいろいろあるのよ」
さすがに大人はわかっている。
「お待ちどうさまでした」
「おいくら?」
「小銀貨」
冒険者からつつかれる。
「小銀貨一枚になります」
夏が正規の値段より多めに支払う。
「あの、・・」
「とっておきなさい。皆さんもご苦労様」
思わずお辞儀をしてしまった冒険者と衛兵であった。
春人一行は、なぜか店の前の誰も使っていないテーブルと長椅子に陣取って串焼きを頬張る。マロンには冬が肉を串から外して皿に乗せてやる。秋人はマロンパパとマロンママの皿を用意して肉を串から外す。
『これは旨いな』
『人は味付けをするからね』
『今度家で作ってくれるか』
『面倒だわ。味付けの材料を得なければならない』
『欲しいと言えばくれるだろう』
『それは強盗と言う』
『なら森の魔物でも持ってくれば引き換えてくれるだろう』
『誰が持ってくるのよ』
『お前が人化して持ってくればいいだろう』
「家に来てくれれば焼いてあげますよ」
『そうか。それはすまないな』
『マロンに会いに時々お邪魔しましょう』
『うん、うん』
解決したらしい。
「あまり長居をしては迷惑だから行くか」
「そうしましょう。ごちそうさまでした。彼らも美味しいと言っています」
「は、はい。おそまつさまでした」
去って行く春人一家を見送りホッとした冒険者、串焼き屋台のおやじ、衛兵であった。
「今のはどういう方々なので?」
冒険者はおやじが焼いた串焼きを頬張りながら、
「わからんが、元S級冒険者の本部長が焦っていたからそうとうやばい方々なのだろう。知ろうとしない事だ」
「わかりました。料金を多くもらってしまいましたが」
「とっておけばいい。奥方様はよくわかっておいでのようだ」
こちらは王妃達、辻馬車のように見える馬車で王宮正面でなく裏手に近い王宮で働く人や出入り商人らが使用する門から出た。
広場から春人の屋敷へと通じる道に出る。もちろん近衛兵は辻馬車に見える馬車が王妃の乗る馬車と知っているから誰何はしない。それより立派な馬車が道路脇に止められていたりする。
馬車の中の貴族が喚く。
「辻馬車が走っているではないか、俺は貴族だ。あれが走るのなら俺の馬車も止めるな」
貴族は猿ぐつわをされた。
王妃達の馬車は春人の屋敷に着いた。もちろん門番は影だから王妃の馬車と知っているので門を開いた。




