031 本部長 王宮に行く
春人らが魔石を冒険者組合に持ち込んだ翌日、本部長は王宮に向かった。
王宮に入り、王妃との面会を求めた。王妃の実弟なのですぐ国王執務室に案内された。
執務室には、王妃、王弟、公爵、王子、近衛長官、侍従長が揃っていた。運営会議中らしい。
「座りなさい。どうしたの?」
「ジャイアント級魔物が出現しました」
「大変、どこに?」
「中央城門を出てすぐの森です」
「どうしよう」
「魔石になっています」
本部長が魔石二つを机の上に置いた。
「冒険者は大丈夫だった?」
「四人で子犬モドキをつれてやってきました。このジャイアントエイプの魔石とエイプの魔石57個を持ってきました。子犬は魔石になったエイプにとらわれていたそうです」
「ああー。それでは怪我も心配ないわね」
「はい。まったく」
「その子犬モドキと言うのは何?」
「白い銀色とも思える毛並みで冬殿が抱っこできる小さい子犬ですが、鑑定できませんでした」
「それって強いと言う事?」
「そうです」
「魔物なの?」
「いいえ、フェンリルの子犬かと。伝説の神獣です」
「・・・」
「春人殿と鑑定できないと話していたら、子犬、0歳、名前:マロン、飼育者:冬と鑑定できるようになりました」
「他に気がついた人はいるか?」
公爵が口を挟んだ。
「だれもいないかと。冬殿が抱いていまして、ほんの生まれて数ヶ月の子犬のように見えました」
「鑑定で子犬と出たのなら、子犬にしておきましょう。鑑定は誤魔化せないというのが常識でしょう?」
「そうです。誤魔化せないし、誤魔化したということを聞いた事もありません」
「義姉上、犬も珍しいし何か起こりそうですね」
「しょうがないわ。四人組に神獣ではどうしょうもない。どういう事情でエイプにとらわれていたのかわからないけど親が出てくると大変ね」
「そこは飼育者冬殿に任せましょう」
「お前はお気楽ね。でもそうするしかないわね。この件はここだけにしておきましょう。子犬と言う事でね」
「それではこれで」
「待ちなさい。こちらも今王弟から報告を受けた事があるのよ」
「冒険者組合が混んでいる頃合いで帰らないと」
ろくな話ではないと逃げ腰の本部長である。
「自分でも問題を持ち込んだくせに逃げたらダメよ」
あきらめた本部長、上げかけた腰を下ろした。
「春人殿の執事が紋章官に紋章を持ち込んだのよ」
「そうですか。それが何か。S級冒険者は貴族待遇ですから紋章も当然必要です。有能な執事ですから登録申請をしたのでしょう」
「紋章はこれよ」
王妃が紋章が描かれた紙を本部長に見せる。
「珍しい紋章ですね。他と重ならないなら問題はないのでは」
「紋章官は貴族の紋章すべてを知っている。もちろん描けるほど正確には知っていないが、見れば既存の紋章かどうかはわかる」
「そうでしょうね。いつも紋章登録台帳を飽かず眺めて一日を過ごしている連中だ。よくやるよ」
「それで紋章官は既存の紋章に同じものがないから登録した。即位式が終わったら各貴族、役所に通知される」
「それで良いのでは」
「良いんだけどね。紋章官が今朝公爵を尋ねてきたのよ」
「何だって?」
「廃紋章記録簿を見たら今回登録された紋章と全く同じものがあったそうだ」
「いつごろの?」
「五百年前だ」
「全く問題はないだろう。誰も知ってはいない」
「紋章の持ち主は、服部半蔵保永勇者だそうだ」
「聞いた事のあるような家名だな。服部?確か春人殿は服部春人と名乗ったと王弟に聞いたが家名があるのかと思っただけだった」
「私もそのときは聞き流した」
「義姉上、私もその時はこうなるとは思ってもみませんでした」
「冒険者の登録名には家名はなかった」
「春人殿の名乗った家名は五百年前の召喚勇者の家名と同じだ。それに紋章も全く同じだ」
「どういう事だ」
「紋章官は、執事からこれは家紋と言って変更される事はないと言われたので、変更なしと注釈をつけて紋章として登録したと言っていた」
「それでは春人殿は五百年前の服部半蔵保永勇者の関係者ということか」
「服部半蔵保永勇者の異世界に残した子の子孫か、一族の子孫か」
フェンリルも持ち込まれたし、面倒くさくなった本部長。
「冒険者タグに家名がないから、記録は家名なしでいいんじゃないか」
「そうか。冒険者タグか。さすが冒険者組合本部長だ。目の付け所が違う」
「公爵、単に面倒くさくなっただけよ。我が弟は面倒くさくなると逃げるから。無頼をやっていたのも家にいると面倒だったからよ。しかしそういう事にしましょう。ほじくり返すといろいろ面倒だ」
「さすが姉上、俺と同じ考えだ」
睨まれる弟。
「義姉上、我が国の影のうち、上と下が服部勇者に仕えた者の子孫です」
「専属になりそうだな」
「四人にかなうものはなし、その上影が四人に従うと表に出ないがこの国一番の戦力でしょう」
「四人のうち一人でもこの国を滅ぼせるだろう。フェンリルも成長すればこの国を滅ぼせる。フェンリルに敵対して親が怒って来たら滅ぼされる。影は失っても四人と縁が結ばれれば良いということにしておこう。幸い四人は権力志向ではない。そっとしておこう。それで四人と子犬の担当は我が弟だ。お前に国の命運がかかっている」
「よろしく頼む」
一同に頼まれてしまった本部長。
「冒険者組合は国の機関ではないが」
「ぐずぐず言うな。いろいろと表に出ないようにもみ消してやったろう」
「あああ、はい」
「よしよし、それでこそ我が可愛い弟だ」
すごすごと執務室を出る本部長であった。




