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結婚するとは言っていません【書籍化・コミカライズ化決定】  作者: 白雲八鈴


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第97話 心臓が止まる思いでした

 くっ……これはものすごく注目を浴びてしまっています。


 私はレクスと踊りながら、多くの人の視線に耐えていました。

 きっとこの令嬢は誰だという感じなのだと思います。


 だって、先程魔導師長であるグレンバーレルと踊って、騎士団団長であるレクスと踊っているのですから。


「ダンス。とてもお上手なのですね」


 そんな貴族たちの視線に耐えている私に、レクスがにこやかに声をかけてきました。

 きっとレクスからすれば、この状況もいつものことなのでしょう。


「貴族の令嬢として踊れないといけないと、訓練しましたから」


 ええ、訓練です。私は訓練だと思っています。ぎゅうぎゅうに締め付けられたドレスをまとい、足場が不安定なヒールを履き、テンポよく踊るのですから。


「それはグレンバーレル魔導師長とですか?」

「……どこからその名前を引っ張ってきたのですか?」

「先程、とても楽しそうに踊っていらっしゃいましたので」


 ……楽しそう? どこがでしょうか?


「あれは、足を踏みつけてさしあげようと思っていましたのに、自動回避の魔法で回避されて腹立たしい思いをしていただけです」

「そうなのですか!」


 どうして凄く嬉しそうにしているのでしょうか?


「基礎を覚えたのは、その昔セリアラール伯爵家でお世話になっていたときのことですよ。五年ほどしかいませんでしたが、最低限の教育はしていただきました」


 フェリランの母親の実家に引き取ってもらっていたときのことです。

 厳しい家でしたが、貴族の令嬢としての基礎を教えられたため、他で恥をかくことはなかったと思います。


「そうでしたか」

「ファングラン団長様。気になったことを聞いてもいいでしょうか?」

「はい、何でもどうぞ」

「屋敷の使用人の方々の姿が見られるのですが、どういうことなのでしょうか?」


 本当であれば、レクスの屋敷にいるはずの使用人の方々が給仕として会場内にいるのです。

 そして憧れのベルラディル閣下の姿もです!


 今、クソジジイと話をしているので、視線は向けません。が、くるくると視界が変わるので、必然的に見えてしまうのです。


「これは、将校セレグアーゼからなのですが、このパーティーが襲撃されるという情報が直前にもたらされたので、人員を増やしたのです」

「え?襲撃ですか?」


 もしかして、この凶器と言っていいヒールもそのために用意を……いいえ、これは事前に用意されていないと無理なものですわね。


「目的は何でしょう?」

「恐らく、陛下がパーティーに参加されるという情報が漏れたのだと思います」

「敵は?」

「賊ということだけですね」


 曖昧な情報ですね。これは情報部隊の特殊魔法持ちから持たされたという感じなのでしょう。

 前回の野盗の件と同じということですか。

 計画の情報を察知して、それを確定するために伯父様が直接動いた案件のようにです。


「わかりましたわ」

「マルトレディル伯爵令嬢は私が守ります。先程の愚行の挽回をさせてください」


 愚行? 何が愚行なのでしょう?

 レクスは姪の公爵令嬢を止めたではないですか。


「ファングラン団長様は何も悪いことはなされていませんわ」

「違います。まさか隊長に血を流させるなど……心臓が止まる思いでした」


 はぁ、それは私が魔装を解いたからで、レクスが悪いことにはなりません。


「隊長を失うのはもう嫌なのです。あの場にすぐに駆けつけられなかった自分自身が憎いです」

「また隊長呼びになっていますよ。それから、あれぐらいでは私は死にません」


 一曲が終わりましたので、足を止め軽く礼をします。私を待っているケーキのところに赴こうとすると、手を引っ張られ引き止められてしまいました。


「もう一曲お願いします」

「まぁ? 婚約者でもありませんのに、それは駄目ですわ」


 同じ相手ともう一度踊ることは普通はありません。婚約者であるのでしたら、問題にはなりませんけどね。


「それに私にはケーキが待っているのです」

「それは、とても大事なことですね」


 レクスはもう一度踊ることを諦めてくれたようです。よかったですわ。

 これ以上、注目を浴びることは避けたいですもの。



 そう、避けなければならないのです。

 これ以上、人の注目など耐えられません。


 ですが……


「次は、これは如何でしょう?」


 なんと私の目の前には、ふるふると揺れる赤いゼリーがあるではないですか!


 壁際の席に何故かサイドテーブルが用意されており、給仕にエリアーナさんがいます。

 が、私の隣でレクスが赤くて透明なふるふるゼリーをスプーンの上に載せて差し出しているのです。それも小さなハートの形をしていました。


 きれいな赤色にどんな味がするのでしょうとパクリと食べます。


 つるりと口の中に入ってきて、冷たさとパチパチとした感覚に目が大きく開きます。


「パチパチします」

「どうですか?」

「パチパチが甘いです。美味しいです」

「気に入ってくださって良かったです」


 世の中には、私が食べたことがない甘いものがまだまだあるのですね。


「次はこれは如何でしょう?」

「プチシュー!」

「はい、食べやすいように一口サイズで作らせました」

「ん?」


 作らせた?

 レクスが差し出してきたので、反射的に口が開いてパクリと食べます。

 柔らかいシュー生地の中から濃厚なクリームが出てくるではないですか!


「んん〜! 美味しいです!」

「隊長が可愛い」


 レクス。また隊長呼びになっています。

 それから気になったのですが、サイドテーブルに用意されているものは、そこのデザートが並んでいるテーブルに一つも見当たらないのですが?


 もしかして、わざわざレクスの屋敷から持ってきたのでしょうか?



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― 新着の感想 ―
成る程…実家はちゃんと団長が支配してるからなんとか保っているんですね。料理人まで行き届いてるとは…
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