第98話 これは戦力過剰?
「私は彼らの勇姿を称え、英雄の称号を与えることとする」
宴もたけなわになってきた頃合いに、国王陛下が登場してきて、長い前置きのあと英雄の称号の授与を発表したのです。
あの? これは戦勝記念のパーティーでよかったのではないのですか?
わざわざ一貴族主催のパーティーに来て、行うことではないと思います。
盛大な拍手の中、私は一人別のことを考えていました。
この時代の英雄は、どういう役目を担うのでしょうかと。
ラドベルトなど半分魂が抜けた感じになっていますけど、大丈夫なのでしょうか?
恐らく内心、荷物運びをしていただけなのにと思っているのでしょう。
一人一人に勲章を与える国王陛下。
これをやりたかったのでしょうね。
貴族たちの求心力を高めるという感じでしょうか?
そして、騎士団団長であるレクスに称号を与える姿をみて、私はただでさえジャラジャラついている勲章がまた増えるのですかと思っていると、私の索敵に引っかかるものがありました。
来ましたか。
突然会場内の明かりが消えます。
それと同時に悲鳴とざわめきが響き渡りました。その後に何かが破壊される爆音と土煙の匂いが鼻をかすめます。
魔石を発光させている明かりが消えたということは……
私は右手で火をともそうとしますが、タバコの火種さえつきません。
魔力障壁。魔力を使えない空間の中に入っているということですね。
そして、明り取りの魔法が使えないことに戸惑いの声が上がり、暗闇の中に悲鳴が上がっています。
「はぁ〜」
この状況にため息がでます。
怖いですわ。とても怖いことが、ここで起こっています。
音がないのに、次々と侵入者の気配が消えていっているのです。
「あーあ。やっぱり、この作戦失敗だったんじゃない? そもそもファングラン公爵家が落ち目っていう情報が、デマだったってことだよね」
暗闇の中、聞き覚えのある声に向って走り出します。
そして風の索敵魔法により位置を割り出して、そこに向けて凶器の蹴りを食らわしました。
ですが、一瞬何かに引っかかる感触のあと、それがプツリと切れて床に足がつきます。
そして両手を振り上げ、手に引っかかった物を引きちぎりました。
「これは、やっぱり罠だったっていうことかな?」
「彩糸のラグレリア」
「うわぁ〜! バレバレじゃん! 退却退却!」
彩糸のラグレリア。それは見えない硬質な魔力の糸を使って敵を切断する帝国の死神でした。
そう、過去形なのです。
この者は暁天のガレイアに倒されたはずですから。
「撤退など許されませんよ」
「えー。それはないよ。ベルメール」
冥刻のベルメールまでいるのですか。闇魔法の使い手。ということは、異様になにも見えないのは、彼女の魔法ということですね。
ふぅ〜と冷気の息を吐き出します。
魔力障壁など私には意味がありません。
その魔力抑制を跳ね飛ばす勢いで魔力を練ればいいだけです。
「死人はそのまま土に還るがよい」
氷の剣を作ろうとしていた私の横に、雷光がほとばしり一瞬だけ辺りが光に満たされました。
ふわぁ〜! 熱雷のベルラディルの魔法です! こんな近くで見られるなんて……心臓がドキドキしてきました!
「うわ! 僕の糸が焼き切れた!」
「そのおしゃべりは死んでもなおらないのか? 位置がバレバレとわからんのか!」
「うげっ……」
クソジジイの声に思わずうめき声が出てしまいました。
そして青白く光る剣が彩糸のラグレリアを捉え、斬りながら凍らせていきます。
氷剣のハイラディはまだ健在ということですか。
「ちっ! 撤退です!」
撤退は許されないと言っていたはずの、冥刻のベルメールの声が聞こえてきました。
「それができると思っているのか」
レクスの声と共に床に倒れる音が聞こえてきます。
そして闇が晴れ、明かりが会場内を照らしました。
会場内の人々は呆然と辺りを見渡しており、何があったのかわからない感じです。
そして床には幾人もの侵入者たちが転がっていました。
数としてはざっと五十人ほどでしょうか。
敵国の国王に対しての襲撃にしては、少ないでしょう。しかし、戦場の死神の一騎当千の力を考慮すれば、十分といえる戦力だったと思います。
しかし、ここにはファングラン公爵家の使用人の方々が集められ、クソジジイを中心とした戦場を経験した者たちがいました。なので、戦力過剰と言っていい状態です。
そして、人々が混乱している間に、次々と倒れた者たちが回収されていっています。
何事もなかったことにしたいのでしょう。
怖いですわ。ファングラン公爵家。
「お怪我は?」
私の側に来て、しゃがみこむレクス。
慌ててドレスの裾を上げていた左手を離します。
長いドレスの裾を踏まないように、持ち上げていたのです。凶器のヒールが丸見えになっていました。
恥ずかしいですわ。
「ありません」
「よかったです。しかし、あの場に留まっていてくださっていたら……」
私はニコリと笑って首を横に振ります。
恐らく一番近い場所にいたのは私です。
正確には彩糸のラグレリアの脅威に気がついた者の内です。
張られた彩糸を初見で切っておかないと、暗闇の中で胴体が真っ二つになった死体がいくつも出来上がっていたでしょうから。
「ファングラン。その者は?」
私はその声にビクッと肩が揺れました。
クソジジイ。早く何処かに行ってください。




