第95話 人は見た目だそうです
「ナファレデル伯爵令嬢様。婚約者のジュアシルト侯爵子息様を嫌っていらっしゃるのかしら?」
「おい、本人がいる前でそれを聞くのか?」
貴方は黙っていてください。
これは本人が納得できるかどうかだと思うのです。
私は根本的にジュアシルト侯爵子息とは合いませんでしたが。
「言葉遣いが乱暴で怖いです」
「まぁ、辺境の猛者たちがいるところなので、仕方がないところはありますね」
「おい」
「辺境は何もありませんですし」
「王都から見れば田舎かもしれませんね」
「凄く年上ですし」
「え?おいくつなのですか?」
「十六歳になります」
「四歳差であれば、貴族の婚姻としては普通の範囲にはいるのではないのですか?」
「え? 二十歳?」
これはジュアシルト侯爵子息が二十歳に見えないと言っているのでしょうか?
私はちらりと見上げます。
まぁ、騎士というより戦士と言ったほうがいい体つきで威圧感はありますが、そこまで忌避するほど歳を取っているようには見えません。
容姿というと、見た目がいいという感じでもなく、彫りが深く肌も浅黒いので、このパーティー会場では少し浮いている感はありますわね。
容姿? ああ、なるほど。そういうことですか。
「先ほどグレンバーレル伯爵様の周りにいらっしゃいましたけど、彼はおいくつだと思われたのですか?」
「え? グレン……バール伯爵様?」
もしかして、知らずにあの場にいたのですか?
「私が先ほど踊っていた長身で金髪の顔だけはいい物体です」
「貴女が先ほど踊っていたかたのお名前……」
凄く顔を赤らめていらっしゃいますが、見た目に騙されてはいけませんよ。
「そう! それですわ! 貴女、恥ずかしげもなく二曲目も踊ろうとなさるなんて、身の程知らずではありませんの!」
どうしてここでファングラン公爵令嬢が口を挟んでくるのですか?
見た目ですか?
アレの見た目に騙されているのですか?
しかし、レクスの元婚約者がレクスではなく、弟のほうを婚約者に仕立てようとしたのは、そういう理由があったのかもしれません。
それから、私が引き止めたのは二曲目を踊りたかったわけではなく、交渉を確定させたかっただけですわ。
「それで、グレンバーレル伯爵様はおいくつだと思われたのですか?」
「は……二十歳です」
モジモジしながら耳まで真っ赤になって、ナファレデル伯爵令嬢はおっしゃっていますが、そんなに若くはありませんわよ。
「四十五歳です。ナファレデル伯爵令嬢様とは二十九歳差です」
「そ……そんなこと嘘ですわ」
「貴女、そのような嘘をファングラン公爵令嬢である私の前で堂々と言ってただで済むとお思いなの?」
……グレンバーレル。全く魔導師長と認知されていない件が浮き彫りになっています。
私は踵を返して料理が並んでいるテーブルのとある一角に行きます。背後から逃げるのですかと聞こえますが、そうではありません。
「四十五歳ですよね?」
私は何もない空間に声をかけます。
「さぁ? 歳など意味がありますか? ハイラディ元騎士団団長を見ればわかるではないですか。ある一定の域を超えると肉体の老化が遅くなることなど」
何もない空間から呆れた声が返ってきました。それぐらい知っています。
「歳を聞いたのです。そんなわかりきったことを聞いていません」
「それなら、フェリランと同じ歳なのにわざわざ聞く必要もないでしょう」
「はぁ……確認です。あと、食べ物が浮いているのが怖いので、姿を見せて真面目に人脈構築でもしてください」
「食べたら帰ります」
今まで食べ物が浮いて消えていく謎の現象が起きていましたが、テーブルの皿から料理が消える謎の現象に変わってしまいました。
いったい何をしに、グレンバーレルはここに来たのでしょうね。本当に料理を食べて帰っていきそうです。
私は元の場所に戻り、令嬢方に向き合います。
「グレンバーレル伯爵様を魔導師長様と存じ上げていないご令嬢方に言っても理解できるかわかりませんが、戦争時代にご活役された方なので、四十歳は超えています」
本人から確証が得られなかったので、曖昧な年齢を伝えておきましょう。
フェリランと同じ歳なのは知っていますし、四十五歳だろうということもわかっています。
ですが、見た目が二十歳ぐらいなので、理解されないかもしれません。
「この場には将校の方々もいらっしゃいますから、確認をとってもらってかまいません。他の方のご意見が必要であれば、今回英雄として名誉をいただく伯父を連れてまいりますが、いかが致しましょう?」
「英雄……伯父……」
「はい。セレグアーゼ伯爵様が私の伯父です」
何故、ファングラン公爵令嬢が悔しそうな顔をしていらっしゃるのでしょう?
それから、私は貴女には一言も声は掛けていませんわよ。貴女に話しているようで独り言は言っていますが。
自己紹介されていませんもの。
「ジュアシルト侯爵子息様の見た目はアレですが」
「おい!」
「辺境に嫁げば、異国の最先端の物が一番に手に入っていいと、先代のジュアシルト侯爵夫人がおっしゃっていたと聞いたことがあります」
「お祖母様なら言いそうだ」
「要は考えようです。それで先代のジュアシルト侯爵夫人は流行を先取りしていたと自慢しておいででしたから……と聞いたことがあります」
まるで、私が聞いたように話してしまいました。危ないです。
「ジュアシルト侯爵子息様。踊りましょう」
「え?」
今までの態度が一変たナファレデル伯爵令嬢は、ジュアシルト侯爵子息の手をとって、会場の中央に消えていきました。
どうやら、ナファレデル伯爵令嬢は現実主義だったようです。
解決ですわ。とてもいいことをしました。これで、殺人的な噂が変わればいいのですが。




