第94話 婚約者に嫌われているのかしら?
「貴女。ナファレデル伯爵令嬢様の婚約者を奪ったそうね」
ますます意味がわかりません。
首を傾げて考えてみますが、その名に心当たりがありません。
ダンスを踊ったのはグレンバーレルなので、あれに婚約者がいるとは思えませんし……。
しかし、先ほどから話しているのは双子の一人だけですわね。
「なんて白々しい! ジュアシルト侯爵子息様と仲良く話をされていたと聞いておりましてよ!」
「ああ! ジュアシルト侯爵子息様を放置して、グレンバーレル伯爵を囲う集団の中にいらした婚約者の方。ジュアシルト侯爵子息様が困っていましたわよ」
なぜ泣き真似をしながら私の前にいるのかわかりませんが。
「少しお待ちになってて」
そう言って足早でその場を立ち去ります。背後からお待ちなさいという言葉が聞こえてきましたが、戻ってきますわよ。
そして、途方に暮れているジュアシルト侯爵子息を発見し、ちょっと顔をかせという感じで指を背後に差します。
「何だその今から狩りに行こうぜという態度」
「馬鹿ですか。婚約者の方を見つけましたので回収してください」
「いや、どう見てもさっきのは、ヤル気満々の顔だったよな」
「足の骨を砕かれたいですか?」
思いっきりガツンとヒール部分を鳴らして問います。
「本当にいったい何を履いているんだ? はぁ、わかった」
ため息を吐きながら私についてくるジュアシルト侯爵子息。
そして料理が並んでいるテーブルの側まで戻ってきました。
「ジュアシルト侯爵子息様。婚約者のご令嬢がお困りのようですよ」
本当に困っていたのはジュアシルト侯爵子息のほうですが、泣き真似をしていらっしゃるご令嬢を悪く言うと後で何を言われるかわかりませんからね。
ジュアシルト侯爵子息が悪いということにいたしましょう。
「いや、困っていたのは俺のほうだが?」
ボソリと呟くジュアシルト侯爵子息に軽く肘鉄を食らわします。
それは言ってはいけません。
「つっ……はぁ、ナファレデル伯爵令嬢。私と踊ってくださいませんか?」
婚約者をダンスに誘うジュアシルト侯爵子息。まぁ、それが一番いいでしょうね。
婚約者同士で踊ってから、そのまま挨拶に回るのが流れとしてはいいでしょう。
「いやです」
「……」
なにです? この嫌な空気感は?
「だって、その方とご一緒に踊ればよろしいではないですか」
私の方を見て言うナファレデル伯爵令嬢。
「それはありえません」
「それは絶対にない」
私と被るようにジュアシルト侯爵子息が否定してきました。
これだけは、意見が合いますわね。
「ですが、とても仲がよろしいように……」
「幼なじみですので挨拶ぐらいはします」
「親同士で付き合いがあるからだ」
ナファレデル伯爵令嬢の言葉を遮るように、二人して否定します。どこが仲がいいのですか。
「それであれば、お二人が婚約者に……」
「それは無理ですわ」
「無理だ」
私とジュアシルト侯爵子息をくっつけようとしないでいただけます?
ん? くっつけようとしていらっしゃる?
「ジュアシルト侯爵子息様。ダンスを断られても挨拶はしなければなりませんよ。半年後にはご結婚されるのでしょう?」
「わかっている。ナファレデル伯爵令嬢。まずはファングラン公爵様のところに挨拶にいこう」
そう言ってジュアシルト侯爵子息がナファレデル伯爵令嬢の手を取ろうとして、その手が弾かれました。
「……いやです」
これは、もしかしてものすごく嫌われているのではありませんか?
私は落ち込んでいるジュアシルト侯爵子息に尋ねます。
「嫌われているのですか?」
「あ……いや、そういうわけでは……」
ものすごく言葉を濁していますけど?
「ジュアシルト侯爵子息様。婚約者様をご紹介していただけませんか?」
紹介していただけないと、私が声をかけられません。
「ああ、婚約者のナファレデル伯爵令嬢だ。こちらはマルトレディル伯爵令嬢だ」
ものすごく簡単な紹介ありがとうございます。
「お初にお目にかかります。シエラメリーナ・マルトレディルと申します」
「貴女が噂の半殺し伯爵令嬢様?」
……私の噂が酷いことになっています。
どこからか、吹き出す声が聞こえましたが、あとで文句を言ってあげますから覚悟しておきなさい。
それに、周りがざわめきだし若干距離が取られているような気が……きっと気の所為だと思いたいです。




