第八章 深田源一郎
父の元同僚からの返信は、思ったより早く届いた。「詳しくは電話で」という一文とともに、電話番号が記されていた。
翌朝、電話をかけると、しゃがれた老人の声が応じた。
「修司くんの……ああ、息子さんか。大きくなったねえ」
世間話もそこそこに、哲太は本題を切り出した。
「父が、二十年ほど前に調べていたことについて、何かご存知ありませんか」
電話の向こうで、しばらく沈黙が流れた。
「……深田、という名前に心当たりは?」
「深田?」
「深田源一郎。当時、裏社会の方に片足を突っ込んでいた男だ。修司くんが、その筋の取材をしていた時期に、何度か接触していたはずだ」
「今、その人は」
「実業家として、表舞台に出ているはずだよ。詳しくは知らんが」
電話を切ったあと、哲太はすぐに「深田源一郎」の名前を検索した。すぐに、都内で複数の不動産会社を経営する実業家として、その名がヒットした。年齢は六十一歳。写真の中の男は、皺の刻まれた顔に、油断のない目つきをしていた。
哲太は、その会社の広報を通じて、取材の申し込みを送った。返事は期待していなかった。だが、その日の夕方、思いがけず「明日、事務所に来られるなら」という短い返信が届いた。
翌日、都心のビルの一室で、哲太は深田源一郎と対面した。
「山本修司の息子か」
深田は、値踏みするような視線を哲太に向けた。
「父を、覚えていらっしゃいますか」
「忘れるわけがない」深田は、皮肉めいた笑みを浮かべた。「あの男は、俺の人生を狂わせた一人だ」
「どういう意味ですか」
「聖嶺会メンタルセンターについて、お前さんは、どこまで知っている」
「今、その病院で起きていることは知っています。過去のことは、ほとんど何も」
深田は、しばらく黙って哲太を見つめたあと、低い声で言った。
「お前の親父を追い詰めた黒幕は、俺じゃないと言ったら、信じるか」
「信じる、信じないより、聞かせてください」
「俺はお前の親父を消したんじゃない」
「じゃあ何をしたんですか」
深田は、煙草に火をつけた。細く長い煙を吐き出しながら、彼は言った。
「逃がした」




