第七章 二十年前の父親
その夜、哲太は久しぶりに、実家の古いアルバムを引っ張り出した。都内の自宅マンションの押し入れの奥、埃をかぶった段ボール箱の中に、それはあった。
父・修司の写真は、思っていたより少なかった。仕事人間だった父は、家族写真の輪の外にいることが多かった。それでも、哲太が高校に上がる少し前――ちょうど二十年前にあたる時期の写真は、ほとんど見当たらないことに気づいた。
その前後の年の写真は、それなりに残っている。だが、その一年間だけ、家族旅行の写真も、学校行事の写真も、極端に少ない。まるで、その一年間だけ、家族の記録が意図的に薄くされているようだった。
哲太は、記憶を辿ろうとした。
その頃、自分たち家族は、一時的に引っ越しをしていたはずだ。理由は覚えていない。「父の仕事の都合」と聞かされていたような気がする。だが、具体的な引っ越し先も、そこでの生活も、まったく思い出せなかった。
まるで、その一年間だけ、記憶にフィルターがかかっているようだった。
哲太は、古いノートパソコンのデータフォルダを漁り、当時の記者仲間や、父の元同僚の連絡先を探し始めた。父・修司はかつて、地方新聞の記者だった。もし修司が本当に、聖嶺会メンタルセンターの不正について調べていたのだとすれば、その痕跡が、どこかに残っているはずだ。
深夜、哲太は一件のメールを送った。宛先は、父の元同僚だったという、今は退職した老記者。件名は「山本修司について、お伺いしたいことがあります」。
送信を終えたあと、哲太はしばらく、画面を見つめたまま動けなかった。
自分は、いったい何を掘り起こそうとしているのか。
それでも、止めるという選択肢は、もう哲太の中には残っていなかった。




