第六章 地下保管庫
面談室を出たあと、陽子は哲太を、施設の奥深くへと案内した。管理棟の裏手にある、重厚な鉄扉の前で足を止める。
「ここが、地下保管庫です」
「入っていいんですか」
「まだ、全部は見せられません。でも、一部だけ」
陽子が鍵を回すと、鉄扉はきしみながら開いた。中は薄暗く、埃と紙の匂いが充満していた。無数のスチール棚が、天井近くまで整然と並び、段ボール箱とファイルが隙間なく詰め込まれている。
「これは……」
「患者記録。医療記録だけじゃない。行政文書、旧職員の私的なメモ、政治家とのやり取り、裏社会との接点。そして――消された患者の情報」
「消された、というのは」
「公式には存在しないことになっている患者、という意味です。カルテごと廃棄されたはずの人間が、実はここに、痕跡だけ残っている」
陽子は棚の一角から、色褪せた一冊のファイルを取り出した。表紙には、手書きの数字とアルファベットが記されている。
「P-0-1993」
「これは?」
「最初にP-0という符牒が使われた記録です。今から三十年以上前のもの」
陽子はファイルを開かず、そのまま棚に戻した。
「見せられるのは、これで最後です。今日のところは」
「もったいぶってるようにしか聞こえません」
「もったいぶっているわけじゃありません」陽子の声に、初めてわずかな鋭さが混じった。「順番を間違えると、あなたは真実を、正しく受け止められなくなる。それは、私たちが二十年前に、一度失敗したことだから」
「失敗、というのは」
陽子は答えず、ただ鉄扉の方へと歩き出した。
「今日は、ここまでにしましょう」
哲太は、薄暗い保管庫を振り返った。何万という記録が、静かに、自分が触れられる日を待っているように見えた。




