第三十九章 患者たちが二十年間待っていたもの
西村の告白を聞いたあと、哲太は、陽子と老人に、その事実を伝えた。
「彼が……」陽子は、静かに目を伏せた。「二十年前と、同じことが、また繰り返されようとしていたんですね」
「はい」哲太は言った。「そして、彼が、恐怖の中で、僕に電話をかけたことで、すべてが動き出した」
老人は、静かに、しかし深く頷いた。
「これで、はっきりした」
「何がですか」哲太が、老人を見つめた。
「私たちが、二十年間、本当に待っていたのは、あなた自身が思い出す日ではなかったのかもしれない」老人は言った。「私たちが待っていたのは、あなたが思い出したあと、もう一度、同じ悲劇が起きようとしたときに、それを止められる人間になっている日だったのかもしれない」
哲太は、その言葉の重みを、静かに受け止めた。
「西村くんを、助けるために、僕はここに呼ばれた、ということですか」
「結果的には、そうなりました」陽子は言った。「でも、それだけではありません。西村くんを助けることは、同時に、この社会全体を、同じ悲劇から救うことにも繋がります。彼が、二十年後の、また別の誰かにならないように」
哲太は、地下保管庫に眠る、無数の記録を思い出した。それぞれのファイルに刻まれた、一人ひとりの人生。西村もまた、そのリストに加えられかけていた、一人だった。
「二十年前、僕は、父に守られた」哲太は、静かに言った。「そして今度は、僕が、西村くんを守る番なんですね」
「はい」陽子は、初めて、はっきりとした笑みを浮かべた。「そして、あなたが記録を世に出すことで、これから先、西村くんのような子供が、二度と生まれない社会を、作ることができるかもしれません」




