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患者たちは逃げなかった  作者: キロヒカ.オツマ―


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第三十七章 P-0の真相

証拠の整理が進む中、哲太は、ある一つのファイルに目を留めた。それは、P-0という符牒が、最初にどのように生まれたのかを記した、古い内部文書だった。


「これは……」


 文書には、こう記されていた。


「患者(Patient)というカテゴリーは、本来、治療を必要とする人間を保護するための概念である。しかし、このカテゴリーには、致命的な弱点がある。一度『患者』と定義された人間の証言は、社会的に無効化される。この弱点を利用すれば、都合の悪い人間を、合法的に沈黙させることができる」


「これが、システムの、根本の発想だったんですね」


「はい」陽子は、静かに頷いた。「P-0という符牒の『0』は、『ゼロ番目の患者』という意味ではありません。『患者という概念そのものの、原点』という意味です」


「つまり、P-0というのは」


「誰か特定の人物を指すコードじゃない。『人間を、患者というカテゴリーに落とし込むことで、その人間の言葉を無力化する』という、発想そのものを指すコードです」


 哲太は、その定義の重みを、改めて噛み締めた。


「では、このシステムを終わらせるということは」


「『誰が人間を患者と定義するのか』という問いに、私たち自身が、答えを出すということです」陽子は言った。「診断は、本来、その人を助けるためにあるべきです。誰かを社会から切り離し、沈黙させるための道具にしてはならない」


「それは、医療そのものを、否定することにはなりませんか」


「いいえ」波多野が、口を挟んだ。「本当に治療を必要としている人を、正しく助けることと、都合の悪い人間を『患者』というラベルで沈黙させることは、まったく別の話です。今回、僕たちが終わらせようとしているのは、後者だけです」


 哲太は、深く頷いた。


 P-0の真相は、単なる陰謀の符牒ではなかった。それは、この社会が、長年、見て見ぬふりをしてきた、構造的な暴力そのものの名前だった。

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