第三十六章 地下保管庫、最後の日
話し合いの後、哲太、陽子、波多野、そして数名の患者代表が、最後に、地下保管庫へと降りた。
証拠の選別と、外部への引き渡しの準備を進めるためだった。すでに連絡を取っていた弁護士グループと、信頼できる報道機関の記者たちが、施設の外で待機していた。
「これが、修司さんが、二十年かけて残そうとしたものの、全貌です」陽子は、棚に並ぶ無数のファイルを見渡しながら言った。
哲太は、その一つ一つに目を通していった。政治家とのやり取り、行政の内部文書、病院の裏帳簿、そして、無数の「消された患者」たちの記録。それぞれのファイルの裏に、一人ひとりの人生があった。
「これを、すべて公開するんですか」哲太は尋ねた。
「いいえ」陽子は、首を振った。「個人のプライバシーに関わる部分は、慎重に扱う必要があります。私たちが公開したいのは、システムそのものの存在を証明する部分です。誰かを吊るし上げることが目的ではありません」
「目的は、何なんですか」
「二度と、同じことが起きない仕組みを作ることです」陽子は、はっきりと言った。「個々の悪人を罰することよりも、このシステムそのものが機能しなくなることの方が、私たちにとっては、はるかに重要です」
波多野が、父の日記を、そっと棚に加えた。
「これも、記録の一部として」
陽子は、静かに頷いた。
「あなたのお父さんも、このシステムの一部でした。でも、その良心の記録もまた、システムを終わらせるための、大切な証拠です」
哲太は、父のノートを、最後にもう一度、開いた。そして、静かにそれを、他の証拠と共に、外部へ運び出す箱の中に収めた。
父の二十年にわたる計画が、ようやく、次の段階へと進もうとしていた。




