第三十三章 哲太は証人だった
「あなたは、証人でもあるんです」
老人は、哲太の目を見つめながら、続けた。
「二十年前、あなたは、この病院で、たくさんの患者の証言を、修司くんと一緒に聞いていた。子供だったから、詳しい内容までは理解していなかったかもしれない。だが、あなたは、その場に、確かにいた」
「僕は、その記憶がありません」
「記憶がなくても、事実は消えない」老人は言った。「あなたは、この病院にいる人間たちが、決して危険な暴徒でも、理解不能な狂人でもないことを、子供の頃から、肌で知っている。だからこそ、修司くんは、あなたにこの件を託した」
「僕に、何ができるというんですか」
「あなたは、記者だ」老人は、静かに、しかしはっきりと言った。「証拠を、正しく世に伝える力を持っている。そして、この病院の内側を、実際に見て、患者たちと言葉を交わした、数少ない外部の人間でもある」
「証人であり、記者でもある、ということですか」
「そうだ。だからこそ、あなたが最後にここに戻ってくることに、私たちは意味を見出した」
哲太は、老人の言葉を、じっくりと噛み締めた。
「先生。一つ、聞かせてください。僕をあの夜、呼び出した電話。あれは、誰がかけたものなんですか」
老人は、初めて、わずかに視線を落とした。
「それについては……もう少しだけ、待ってほしい。それを話すのは、私の役目ではない」
「では、誰の役目なんですか」
「かけた本人が、自分の口で話すべきだ」老人は言った。「そして、その時は、もう間もなくやってくる」




