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患者たちは逃げなかった  作者: キロヒカ.オツマ―


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第四部 患者たちは逃げなかった   第三十一章 クーデターの本当の目的

施設の占拠から、すでに五日が経とうとしていた。


 警察の焦りは、日ごとに強くなっていた。世論は「人道的な対応」を求める声と、「一刻も早い強制排除」を求める声とに割れ、政府内でも意見が対立し始めているという噂が、マスコミの間を飛び交っていた。


 哲太は、陽子とともに、施設の職員だった鈴木を交えた三者での話し合いの場に立ち会っていた。


「そろそろ、警察も限界です」鈴木が、疲れた声で言った。「このままでは、強行突入もあり得ます」


「分かっています」陽子は、落ち着いた声で答えた。「だからこそ、急ぐ必要があります」


「急ぐ、というのは」哲太が尋ねた。


「私たちの目的を、正しく世間に伝えることです」


 陽子は、これまでとは違う、明確な意志を込めた声で続けた。


「今回のクーデター――と呼ばれているこの行動の目的は、脱走でも、破壊でもありません。私たちは、地下保管庫にある証拠を、正しい形で、正しいタイミングで、世に出すために、この場所に留まっているんです」


「なぜ、施設の外で、記録を公開すればいいという話にならないんですか」


「証拠だけでは、足りません」陽子は言った。「証拠を出しても、握りつぶされれば終わりです。だから、私たちは、この病院そのものを――記録が保管され、今も現役で機能しているこの場所を、証拠と一緒に、社会の目に晒す必要がありました」


「病院ごと、証拠にする、ということですか」


「そうです。私たちが、ここに留まり続けることで、警察も、マスコミも、政治家も、この施設から目を逸らせなくなる。そうやって初めて、地下の記録が、誰にも隠蔽されずに、世に出る道が開ける」


 鈴木は、複雑な表情でその言葉を聞いていた。


「それは……病院を、人質に取っている、ということでは」


「人質にしているのは、病院という『建物』ではありません」陽子は、静かに、しかし力強く言った。「私たちが人質にしているのは、この国が長年見て見ぬふりをしてきた、注目、です」

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